「Fの系譜」を受け継ぐ王道フルサイズ ニコン『Z f』完全レビュー

ニコン『Z f』完全レビュー

 2021年に『Z fc』が発売された時、筆者はとてもクラシカルでかわいいカメラをNikonが出してきたものだと非常に関心をもったものだ。『Z fc』はAPS-Cセンサーを搭載したコンパクトデザインと直感的な操作系統が非常に幅広い層に支持され、ブラックモデルが登場した今春には新品部門1位にも輝いた。本記事で紹介する『Z f』は『Z fc』の上記機種ともなる、ファン待望のフルサイズセンサー搭載モデルとなっている。

 本記事のレビューでは『NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S』『NIKKOR Z 50mm f/1.2 S』そして8月31日に発売されたばかりの『NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR』の3本を使用し、そのポテンシャルを作例とともにお伝えしたい。

『Z f』という名前に込められた意味とは

 Nikonの「Z」シリーズは、2018年に生まれたNikonのミラーレスカメラのシリーズであり新マウントの名称。現在多くの「Z」シリーズが発売されているが、この中でも”f”の文字が付くのは『Z fc』と『Z f』の2機種のみだ。そしてNikonにとって「F」の冠はとても重要で、まさにNikonの魂と言っても過言ではない。

 それは、1959年に発売されたNikon初のフィルム一眼レフカメラがまさにNikon 『F』であり、Nikon 『F6』を最後に惜しまれながらも2020年に生産を終了したからだ。そして1995年より、「D」シリーズというデジタル一眼レフカメラでデジタルの時代が幕を開け、文字通り”F”ilmから”D”igitalへ一眼レフカメラの主力はゆっくりと引き継がれたのである。

 そしてデジタル一眼レフからミラーレス一眼の時代になった現在、『Z f』や『Z fc』というアダプター等を通してオールドレンズを付けることのできるミラーレス機という形でFの名を冠したカメラが蘇ったことはとても感慨深く、本機を手に取ってみれば、Nikonの歴史と多くのカメラマンを魅了してきた「Fの系譜」を感じ取れる。

クラシックでメカニカルな外観に惚れこむ

 作例の前に外観からチェックしてみよう。特徴はクラシカルなアナログダイヤル。しっかりとしたクリック感と直感的な操作はまさにフィルムカメラばりで、思い通りの設定で写真を撮ることができる。

 画面に表示された設定を見てホイール操作するカメラとは大きく異なり、シャッタースピードやISO感度などを素早く操作しての撮影が可能だ。このダイヤル群を見るだけで何を撮影しようかとワクワクさせてくれる魅力がとても詰まっている。

 そして『Z f』より新たに追加されたB&Wダイヤルにより、ワンタッチでスムーズにモノクローム写真の撮影を行うことができる。

 モノクローム写真の表現力は使うレンズによっても左右されるところではあるが、現代レンズを使ったシャープで端正な写りを角に強調せず、黒が引き締まるように落ちているところからのグラデーションが美しく、抜け感や解像度もとても高く表現されている。ニコンの往年のオールドレンズ群の中からお気に入りの銘玉を使って撮影すれば、よりモノクローム写真の楽しみが広がるのではないだろうか。

Nikon Z f, NIKKOR Z 24-70 f2.8@24mm(1/400,f10, ISO500)

 圧倒的な連写の威力

 さて、『Z f』に搭載された機能の中で最も目を引いたのは「ハイスピードフレームピクチャ機能」を使った際の30枚/秒連写である。通常は14コマ/秒ではあるが、お子さんの運動会や動物撮影などの時に活用していただきたい。動きのあるものを撮影したことがある方ならお分かりだと思うが一瞬のタイミングにシャッターを切るというのは至難の技であり、シャッターチャンスを逃さない為には高速連写が非常に強力な武器となる。

 その30枚連写を試すべく、筆者は特に連写能力を要求される野鳥撮影に、同じく発売されたばかりの『NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR』と共に挑んだ。

 カワセミが水浴びをする、その一瞬を捉える。

Nikon Z f, NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR@600mm(1/1000,f6.3, ISO6400)

 野鳥の躍動感、迸る水しぶき、そして逞しさと美しさを見事に表現した写真がこちらだ。これに味を占めた筆者は2日間に渡りカワセミを撮り続け、ついに魚を獲った誇らしげなカワセミを、季節の花である萩の花と共にカメラに収めることに成功した。

 魚を捕り、この止まり木に止まっていた時間は1秒も無かっただろう、このアングルを狙っていたのでカメラを固定していたのだが、どこからともなくスッとやってきて、まさに刹那の瞬間にシャッターを切った。野鳥を撮影した方ならお分かりだろうが、野鳥の動きというのは本当に素早く、まさに一瞬の出来事だ。

Nikon Z f, NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR@550mm(1/500,f6.3, ISO1600)

 という訳で、カワセミの嘴の間でピチピチと跳ねる魚ですら高速連写で鮮明に捉え、最高の1枚をチョイスすることができた。秒間30枚を誇る『Z f』は一瞬のシャッターチャンスを逃さず、連写した多くのカットからベストな一枚を手に入れることが出来るので高速で動きが多いシーンでは頼もしい相棒となってくれる。

安定感のあるフルサイズの表現力

Nikon Z f, NIKKOR Z 24-70mm f/2.8@24mm(1/2500,f10, ISO500)

 APS-Cとフルサイズのセンサーにより大きく変わってくるのは質感、諧調。そして何よりオールドレンズを使った際の表現の違いにある。センサーサイズが大きくなったことにより     多くの光を捉え、豊かな諧調や質感表現により風景写真やマクロ撮影などでも安定した画質を提供してくれる他、オールドレンズを使用した際には歪みや収差を上手く利用した写真を撮影することができるので表現の幅を大きく広げることができる。いくつかフルサイズセンサーならでの強みを見せてくれる作例をご紹介したい。

Nikon Z f, NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR@600mm(1/500,f6.3, ISO3200)
Nikon Z f, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S@(1/640,f1.2, ISO400)

 〈作例集〉

 

 上記のように安定した表現力で安心感を持ってシャッターを切れ、後編集などへの耐性などもフルサイズの方が高く感じる事ができる。

 ただ 一方でフルサイズセンサーを搭載したカメラは本体とレンズの大型化や重量が重くなるというトレードオフもあるが、ニコンの場合はAPS-Cセンサーを搭載した小型な『Z fc』との棲み分けがしっかり出来ている。フルサイズセンサーを活用し『Z f』にオールドレンズを付けてみたり、お散歩に『Z fc』を連れて行ったりと、『Z f』と『Z fc』を使い分ける「Z」シリーズならではの極め方もありだ。

オールドレンズとも親和性を伺わせるデザイン

 なお、ミラーレス一眼が登場してからというもの、センサーのフランジバック(マウント面からセンサーまでの距離)がとても短くなり、いままでの一眼レフ用レンズのほぼすべてをマウントアダプターを介して使用することができるようになった。『Z f』は35mmフィルム用に作られたオールドレンズの魅力を余すことなく楽しめるだけでなく、クラシカルなデザインでオールドレンズを付けたときの佇まいも一緒に楽しめるフルサイズミラーレス一眼となっている。

 弟分となる『Z fc』と並びクラシカルなデザインの本機はオールドレンズとデザインの親和性が高く、操作系もアナログが多いことから、フィルム時代からカメラを触っているユーザーやフィルムカメラとの併用をする事で本機の魅力がより一層引き出されると思う。Nikonフィルム「F」シリーズとの2台持ちを想像するだけでワクワクするのは私だけだろうか。

◎参考情報
https://www.nikon-image.com/products/mirrorless/lineup/z_f/

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