生成AIは“ユーザーの遍在化”を実現するのか バーチャルビーイング研究者・佐久間洋司が見据えるAI×バーチャルの未来

佐久間洋司が見据えるAI×バーチャルの未来

SFからの影響とリスペクト

――まさにSFですね。ところで先ほどの「SFプロトタイピング」の話をはじめ、佐久間さんはアニメやマンガなどのフィクション作品にしばしば言及されている印象があります。これはなぜでしょう?

佐久間:リスペクトを込めてあえて言葉に出しています。稲見(昌彦)先生はじめ有名な先生方(※2)も話し始めると、ふた言目には「『攻殻機動隊』が~」とおっしゃいます。それを明言するかどうかはともかく、先生方も若かりし日にインストールされたSF的な価値観が根強く残っていて、目指す未来もそこに紐づいているような気がします。『攻殻機動隊』などの作品を観ずにアンドロイドや光学迷彩を作れたか、と考えるのは難しいかもしれない。

 実はロボットに対してエージェントとしての期待を持って、まるで人と共存するかのようなコンテキストが普及しているのは日本だけだとも聞きます。その理由を『鉄腕アトム』や『ドラえもん』に求める人もいますね。それらの例に漏れず、僕自身にとってもSFは大事なもののひとつです。

※2 東京大学 総長特任補佐 先端科学技術研究センター 副所長・教授。

――特に影響を受けた作家はどなたですか?

佐久間:僕が尊敬しているのは伊藤計劃さん。言葉の力を表現した『虐殺器官』、そして全人類が半ば無理やり調和させられる集団的に幸福な世界と、寛容を押し付けるものの自由意志がある息苦しい世界の両極を描いた『ハーモニー』の2冊を残して、亡くなった作家です。特に個人的にバイブルとしているのは後者で、本作によって「作中の極端な世界の中間があるのか、ないのか」ということに興味を持つようになりました。

 テキストに重きを置いた『虐殺器官』に対して、『ハーモニー』はテクノロジーに焦点を絞っているんですね。「言語/技術」という対比、破滅的な前者から調和的な後者という流れ、これを作者の短い作家人生で描いたことの凄さだと思います。

――新海誠監督の名前もよく挙げていますね。

佐久間:そうですね。もうひとり挙げるとしたら新海さんだと思います。特に好きなのは企画段階から東日本大震災をテーマにすると決めていたという『すずめの戸締まり』。もちろん賛否が分かれる作品ですが、よく計算された感情の起伏によって多くの子どもたちに震災の記憶をインストールしたことは本当にすごいことだと思います。まあ、僕がいわゆるセカイ系が好きなだけということもあるかもしれませんが(笑)。

 実際、僕が劇場で見たときに隣に座っていた女子高生2人組が観劇後に「私たちがすずめ(この物語の主人公)だったかもしれないよね」と泣きながら話していて。彼女たちは震災のドキュメンタリーや当事者の手記などをほとんど読むことはないはずです。でも新海監督は国民的アニメ監督になったからこそ、ああいった作品を作って彼女たちに届けようとしたのだなと思っています。それは100の情報を伝えるということではなく、エンターテイメントを通じて1の感情的に花開く弾丸を打ち込むということなのだと思います。

――『2025年日本国際博覧会』で担当されているパビリオン「未来のバーチャルビーイング」の内容についても教えてください。

佐久間:現在準備中です。そもそも20代でディレクターにアサインしてもらったのは異例でした。コブクロさんやダウンタウンさんがアンバサダーに起用されているのに対し、バーチャル大阪パビリオンでキャスティングしたいのは先のヰ世界情緒さんや花譜さんのように、バーチャルビーイングとして活躍する方々なんです。そのなかで今までお話ししてきたような考え方を活かして、バーチャルライブやミュージックビデオの表現ができたらと考えています。

 また「未来のバーチャルビーイング」だけではなく、「エンターテインメントによる行動変容」もテーマのひとつです。単なる娯楽に収まらない、人々の行動が変わるきっかけとしてのエンタメがきっとあるはずなんですよ。伊藤計劃さんや新海監督に影響を受けたからこそ、それはちゃんとやっていきたい。現代アーティストや社会起業家の方、研究者も活躍していますが、その影響が若者を含む一般社会のどこにまで届いたのかを自問する必要があります。

――表現は人々に届けてこそ意味がある、と。

佐久間:たとえば、僕が本を描いたり連載を担当したとしても、ひとりよがりだったり界隈で読まれているだけでは、何も届いていないのと同じになってしまう可能性もあります。自分は遠くまでそれを届ける努力をしたのだろうか?と考えたいと思っています。それを追求すると、エンターテインメントの方が行動変容をもたらしてくれると気付きました。だから万博でも説明的な展示を並べるよりも、まずはただ遊びに来てもらって、いつの間にか自分の中の何かが少し変わって帰路につく、という感じでよいのかなと。

 50年前の万博に参加した人の感想を聞くと、ほとんどが「月の石があった」「外国の人が来ていた」ということばかりなんですね。だから来場した若い人が50年後に「一番記憶に残っているのは佐久間のパートだった」と言ってくれるようなバーチャルライブやMVやシアターを設計したいと思っています。調和に向けた行動変容の糧になるような、エンターテイメントの体験を考えていきたいと思います。

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