キズナアイから現在まで、バーチャルYouTuberを支える影の立役者 cort氏とライブカートゥーン社のこれまでとこれから
キズナアイと一緒に産まれたライブカートゥーン社 バーチャルYouTuberブームは「純粋に楽しんで見ていた」
ーーつづいて「KiLA」を本格的に事業化するにあたって、cortさんは2016年9月に合同会社ライブカートゥーンを立ち上げています。当時の経緯を教えてください。
cort:じつは、キズナアイちゃんの立ち上げに参加することになって、それでライブカートゥーンを立ち上げたんです。
ある日、「モーションキャプチャを活かしてキャラクターを動かせるサービスを探してる」って突然メールが来たんですよ。それを送ってきたのが、「キズナアイ」を企画した松田純治さんでした。
ーーライブカートゥーン社設立もキズナアイさんがきっかけだったんですね! 当時は松田さんやcortさん、Activ8の大坂社長ら数名で進めていたような話を伺っていますが、具体的にはどのようなかたちでプロジェクトを進めていったのでしょうか。
cort:当時は、毎週のように集まってミーティングを重ねていましたね。「バーチャルYouTuber・キズナアイ」というプロットは松田さんから連絡が来た時点で出来上がっていたので、どういうコンテンツを作っていこうかとより具体的な話をしていました。プロジェクトが進んでいく中で、大坂社長もぼくも法人格を持っていなかったので、2016年9月のタイミングでそれぞれ合同会社ライブカートゥーンとActiv8株式会社を設立しました。タイミングが同時になったのはたまたまですが(笑)。
ーーモーションキャプチャや3Dアニメーション制作のほか、cortさんが「キズナアイ」の企画でかかわった部分はありましたか? たとえばキズナアイのMMDモデルはかなり早期から配布され、その後のバーチャルYouTuberも真似るようになり、現在の流れにつながっているように思います。また3Dモデル制作にはMMDモデルで著名なTdaさんやトミタケさんが参加していますが、このあたりはcortさんの人脈を通じて参加されたようにも見えます。
cort:MMDモデル配布のアイデアはぼくが発端ですね。ぼくがMMD出身だったのと、あの頃は「東北ずん子」(※7)さんなどもモデルを出してたのでその流れで。「配布してユーザーにも楽しんでもらった方がいいじゃないか」と話していました。ただ、モデル制作にTdaさんたちを起用したのはぼくではなく、松田さんですね。松田さんがTdaさんに直接依頼したのですが、忙しくて対応できないとのことで、トミタケさんを紹介してくれたんです。松田さん自身もMMDを見ていて、『Tda式初音ミク・アペンド』を知って、こういう感じってイメージを持たれたんじゃないでしょうか。
あと、初期のキズナアイ公式WEBサイトが「魔法のiらんど」(※8)みたいなデザインだったと思うのですが、あれはぼくが言い出しっぺですね(笑)。
【※7 東北ずん子……SSS合同会社が、東日本大震災からの東北復興支援を掲げて制作した、東北地方のイメージキャラクター。非商用であれば誰でも無償で利用できることにくわえて、音声合成エンジンが発売されたことで話題となった。現在でも多くの二次創作コンテンツが制作されている。】
【※8 魔法のiらんど……KADOKAWA アスキー・メディアワークスが運営する小説投稿プラットフォーム。かつてはホームページ機能・掲示板機能・ブログ機能などを内包したWEBサービスとして運営されており、キズナアイの公式WEBサイトはそれをオマージュしたもの。】
ーーそんなところまで! あのホームページは「インターネット老人会」的な雰囲気がありましたね。こうしてみると、かなり幅広く参加していたんですね。
cort:アニメ制作の頃からなんですが「作画だけ」というようなプロジェクトには逆に入ったことがなくて、全セクションが集まる会議に参加してラフに意見交換をしていました。キズナアイちゃんについてもそうですね。
ーーキズナアイさんはその後大きな人気を獲得することとなりますが、その人気ぶりを実感し始めたのはいつごろでしたか?
cort:キズナアイちゃんがはじめて生放送をしたときでしょうか。企画がスタートしてから半年ぐらいの、韓国のリスナーがすごく多かった時期です。リアルタイムでチャットが本当に滝のように流れて、「これは来たな」と思いましたね。
ーーキズナアイさん以外にも、2017年頃からはVRアイドルプロジェクト「Hop Step Sing!」など複数参加していたかと思います。当時からこうしたコンテンツが普及していくことに手ごたえを感じていたのでしょうか。
cort:手ごたえは感じてましたね。もともとこういう流れが来ると思っていたし、来て欲しいなという思いも込めて生まれたのが「KiLA」でしたから。当時はバーチャルYouTuberという概念はなかったので、技術とIPの掛け合わせで、テンポよく新作が出るアニメ、みたいな。
ーー2017年末にはキズナアイが1周年を迎え、YouTubeチャンネルの登録者数が100万人超えました。またミライアカリさんなどキズナアイ・フォロワーとも呼べるバーチャルYouTuberたちが大変注目された時期でもあります。当時のシーンをどのように見ていましたか?
cort:純粋に楽しんで、ゲラゲラ笑いながら見ていましたね。この子面白いな、ビジュアルがめちゃくちゃかわいいな、歌が上手だな、とか。次々と新しいバーチャルYouTuberが生まれてくるのが嬉しくて、夢中で見ていました。
そういうところは今でも変わりませんね。「これは仕事だ」「ビジネスだ」という感覚はあまり持っていないです。お手伝いしたバーチャルYouTuberさんの配信アーカイブを家に帰ってから改めて視聴して「ここ良かったなー」と楽しんだり。いち視聴者として楽しく見ています。
当時の話でいえば、電脳少女シロちゃんには注目していました。ゲームを純粋に楽しんでいるな、ゲーム好きなんだなって。『PUBG: BATTLEGROUNDS』で「AKM」を拾ってウキウキしているときの声のトーンがすごく可愛かった。あとは、沢山のバーチャルYouTuberさんを追いかけて技術的な目線で動画を見たりもしてましたね。これ、機材は何を使っているんだろうな、どう撮影したのかなとか。当時は3DモデルのバーチャルYouTuberが多かったので、そういった意味でも熱心に見ていました。
ーーほかのバーチャルYouTuberプロジェクトに、昔からのMMDクリエイター仲間が参加している例も多かったと思います。どう見ていましたか?
cort:見知った人がいたのは、個人的に嬉しかったですね。同じ業界にいるわけだし、機会があったら一緒に仕事したり、依頼したりできるかなとか、そんなことも考えていました。技術レベルの高いクリエイターが参加していて、彼らがいるならクオリティは担保できるなと安心していましたね。