何度も挑戦したくなる難しさと『SAO』の好相性が生んだシナジー 『THE TOKYO MATRIX』総合Dが語る“新宿ダンジョン”誕生の理由

『THE TOKYO MATRIX』総合Dインタビュー

 東京・新宿に今年オープンした東急歌舞伎町タワー。永山祐子建築設計が手がけた外観も特徴的だが、その内部もまた個性に溢れている。そんななかでも挑戦的な取り組みとして好評のエンタメ×テックな施設が『THE TOKYO MATRIX』だ。

 『THE TOKYO MATRIX』は、ミッション攻略型のアトラクションを含む”ダンジョン攻略体験施設”。オープンから現在まで「ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-」を展開しており、その難易度の高さが話題を呼んでいる。

 今回はそんな『THE TOKYO MATRIX』について、総合ディレクターである株式会社ソニーミュージックソリューションズの松平恒幸氏にインタビュー。コンセプト作成から施設完成までの裏側や、テクノロジーを多分に使用した施策などについて聞いた。

「テクノロジーは『透明なインターフェース』であるべき」

株式会社ソニーミュージックソリューションズ 松平恒幸氏
株式会社ソニーミュージックソリューションズ 松平恒幸氏

――今回、東急歌舞伎町タワーのなかに『THE TOKYO MATRIX』という施設を作るうえで、どのようにコンセプトを策定していったのでしょうか。

松平:当初の計画として、東急歌舞伎町タワーはインバウンドを軸にしたビルになるという想定でしたので、我々としてはインバウンド需要を重視した企画をいくつか立てていました。しかし、新型コロナウイルスの影響もあって、企画そのものの方向性が次第に「日本人の方でも十分に繰り返し楽しめるものを作ろう」という方向にシフトしていったんです。その変更がベースになり、“繰り返し楽しめるエンターテインメント”、つまり「何度もチャレンジして楽しめるゲーム」が良いのではないかという結論に至りました。

ーー繰り返し訪れるということに、立地は関係していたり?

松平:東急歌舞伎町タワーは新宿駅の近くにあるわけですから、会社帰りや学校帰りでも通って楽しむことができるものだと考えて、そのようにコンセプトを立てております。実際に開業してみると、ちょうどビルの開業と同時にコロナ禍が落ち着いたので、日本の方もインバウンドの方も両方来ていただけており、安心しています。

――繰り返し通いやすい、何回も来てもらえるというコンセプトと『ソードアート・オンライン(以下、SAO)』というコンテンツが見事にマッチしているわけですが、『SAO』とのコラボを行うことになった経緯を教えてください。

松平:身体と頭脳を使ってチャレンジしていく、繰り返し型の体験ゲームアトラクションにしようということを決めたあとで、オリジナルの設定やIPを作ろうかと考えたのですが、既存のアニメはすでに非常に壮大な文脈を持っているので、その文脈を使うことで手軽にディープな没入体験を行なっていただくことができると考えました。コラボ相手に関してはいくつか候補がありましたが、『SAO』はアニメ10周年を突破しましたし、全世界的にもよく知られたコンテンツで、仮想空間デスゲームのパイオニアでもあります。いまやポスト『SAO』がたくさんあるくらい、世界で愛されるアニメのなかでも一つの大きな作品なので。また、『THE TOKYO MATRIX』にとって、ダンジョン攻略体験施設であるということは非常に重要なコンセプトなんですが、『SAO』は生身でダンジョンに入っていく高揚感を味わわせてくれる作品でもありますし、その意味でもすごく親和性が高いと感じたんです。そういった点を『SAO』のアニメチーム、製作委員会の方々とお話させていただき、ご快諾いただけました。

――先程お話されていたインバウンドの方が多いという意味でも、『SAO』という大きなIPとコラボするというのは大きいのかなと思います。

松平:おっしゃる通りですね。通りすがりの外国の方々が見て、「Oh,『SAO』!」という反応をすることがあるんです。やっぱりみなさん知ってくれているし、日本に来るようなツーリストの方々は何らかの形でアニメと紐づいてる方が多いので、そのような意味でも親和性があると思います。

――体験型の施設ということで、もう少しローテクなものを想定していたのですが、かなり色々なテクノロジーが使われていて、それでいて嫌味がないのが印象的でした。

松平:コンテンツとテクノロジーをどうマッシュアップさせるかについては、我々ソニーグループが会社的命題として取り組んでいます。ですので、これまで行ったオンラインとテクノロジーの施策も枚挙に暇がありません。今回も、どのくらいテッキーな出で立ちになるかについては非常に大きな議論がありましたが、これを考えていく上でベースとなったのは、あくまでお客さまたちの「体験」が重要であるということです。通常のエンターテインメントですと、お客さまはあくまで“見る側”ですが、この施設に関してはお客さまが主人公であるという体験を作りたかったんです。『THE TOKYO MATRIX』はいろんな人に初見殺しと言われるので恐縮しきりなのですが(笑)、あまりにも手取り足取りサービスされている感覚になってしまうと、自分がやっている感が薄れてきてしまうとも考えているんですよね。

――プレイヤーにもてなされてる感が出てしまう。

松平:そうなんです。とにかくプレイヤーの方々が主人公であってほしいというのが大前提にあったので、テクノロジーは「透明なインターフェース」であるべきだと思っています。テクノロジーベースだということを強調してしまうと、それはそれで没入感が減ってしまうので、その塩梅がすごく難しかったです。綱を引いたりダーツを投げたりするフィジカルな体験がありながらも、膨大な数のセンサーを入れたりと、デジタルをたくさん使っている。お客さまの行動と『THE TOKYO MATRIX』および「アノマリー・クエスト」の世界、つまりリアルとデジタルの仮想世界をリンクさせるための中間メディアとしてテクノロジーを使っているという感覚なんです。

――実装面で言うと、テクノロジーの制約とコンテンツ部分との噛み合い、難易度設定などの中で、特に実装が難しかったポイントはどんな部分なのでしょう?

松平:特にアイテム要素がすごく繊細で大変でした。アイテムを使ってフィジカルなアトラクションの難度が変わるというのは、1個や2個ならいいのですが、今回は20個くらいあったんです。システムやプログラムって、用途を狭めれば狭めるほど設計は楽になるんですよ。用途を広げてパターンを増やせば増やすほど大変になっていくんですが、最初からパターンをすごく増やす前提で作らないといけないので、非常に賢く設計しないとすぐに「あれはどうしよう」ということになってしまう。ですので、アイテムの要素が設計上一番大変だったところだと思います。

――『SAO』のキリトとアスナが敵になるという点も面白いなと感じました。原作やアニメの延長線だと中々設定できないアナザーストーリーを施設として実現できているのも、原作サイドや製作委員会とのコミュニケーションが成し得たものなのだろうと。

松平:今回は元々ある遊園地さんでのコラボイベントなどではなく、「SAO」のアトラクションを作るということに近い話なんですよね。なのでこちら側の本気度をよく理解していただいたうえで、制作委員会のみなさまには本当に多大なご協力をいただきました。

 この施設ではプレーヤーが自分たちごととして物語を紡いでいかないといけないのに、キリトとアスナが仲間にいると大体2人が解決してしまうじゃないですか。それを避けようと思うと、敵になってもらうしかない。ただ、過去10年、こんなに清く正しいヒーローヒロインはいないというくらい素晴らしい2人を悪役にするなんて、絶対に反対されるに違いないと思っていたのですが、原作元のみなさまが「それはやりましょう」と。本当に誉れだなと思いながら、取り組ませていただきました。

ーー寛容ですね……。

松平:SAOに携わる関係各社のみなさまはすごくコンテンツを愛しているし、かつ非常に明るくて積極的なんですよね。それは『SAO』の素晴らしいところであり、ファンの人たちを惹きつける大きな要因のひとつでもあると改めて感じました。

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