『Talk About Virtual Talent』第五回:佃煮のりお/犬山たまき
漫画家と男の娘VTuberが辿ってきた“独自のルート” 佃煮のりお/犬山たまきが語り尽くす「のりプロ」のこれまでとこれから
「男の娘VTuber」であることのメリット・デメリットと、その裏に秘めた戦略
ーーそういえば、たまきさんは「男の娘」ですよね。なぜのりおさんはたまきさんを男の娘として産んだのでしょうか?
のりお:私の作品で、アニメ化もさせていただいた『ひめゴト』という男の娘漫画がありまして。デビュー時にスタートダッシュをかけるには、あまり人がやってないことをやらないといけないし、それにくわえて自分の特性や得意ジャンルを活かしたことをやらないと、「佃煮のりおがデビューさせるVTuber」である意味がないと思って。それでたまきは男の娘になりました。ここはある種、戦略的な部分もありましたね。
たまき:のりおママの目論見通り、最初にボクを見てくれていた人のほとんどはのりおママのファンや『ひめゴト』のファンでした。次第に「のりおママは好きだけどたまきちゃんはちょっと……」と離れるファンもいれば「のりおママは知らないけど、たまきちゃんのファンだよ!」という人も増えてきたりしました。当時は毎日3回配信するのがわりと普通で、全く休んでいなかったんですが、すごく楽しい時期でした。
ーーたまきさんご自身は「男の娘」として誕生したことに関して、どういう風に感じておられますか?
たまき:産まれた時から女の子の服を着せられていたので、それが普通なんだと思ってたんですけど……「そうじゃないんだ!」ってあとから知りました(笑)。
ーー男の娘好き以外の犬山たまきさんのファンはどんな反応でしたか?
たまき:「男の娘である意味ある?」とはめっちゃ言われてて、嫌でしたね(苦笑)。「女性キャラクターでいいじゃん」って。当時はやっぱりのりおママのことを知らずに、純粋に犬山たまきを好きになってくれたファンもたくさんいたので、「男の娘であることに何の意味があるんだろう」「男じゃなかったら推せてたのになー」なんてよく言われていました。
ーージャンルへの理解は人それぞれですからね……。反対に「男の娘だから可愛いんだ」という人も多いと思うんですよね。
のりお:そうですよね。けど、その性癖が刺さらない人からすると「なぜ?」となってしまうんでしょうね。
ーー「男の娘が好きでファンになった」という方もいますか?
たまき:「男の娘だからボクのことが好き」っていうファンは結構いて、「ボクが男の娘に産まれた意味はあったんだな」ってその時は思ったんです。
ただニッポン放送のよっぴー(吉田尚記)さんに初めてラジオへ呼んでいただいたときに「男の娘なのは何故?」って言われたんです。「純粋に女の子の方が多分受け入れやすいし、ファンの獲得もしやすかったと思うんだけど」って。あと「プロデュースしているのは『のりお』っていう男性の名前の女性漫画家で、『たまき』は見た目が女の子なのに女装をしている男性って、分かりづらすぎる!」って言われて(笑)。「けど、それがのりお先生とたまきくんのやりたいことなんだよね」ってよっぴーさんに言われて「そうなんですよ」と答えました。
ーーたしかに(笑)。存在を覚えてもらうという意味では、男の娘というのはインパクトがありますが……。
たまき:そうですね。それを言われて、これから一般層とかにリーチしていくときに、わかりづらいというのはたしかにあるな、とも思いました。ただ、当時はVTuberが一般層にリーチするというビジョンが何もなかったころなので……。
多くのリスナーが行く末を見守った“織田信姫物語”のひとりとして
ーー2019年に入ってからは登録者数10万人を越えています。2018年9月デビューとは思えない勢いですね。ここまで急成長する個人チャンネルはなかなかないと思います。
たまき:当時は「嫌われてもいいからとりあえず名前を知ってもらおう!」と思って、下ネタや過激な企画など結構めちゃくちゃやってましたからね(笑)。だから、相応にアンチも多かったですね。でも、嫌われるより「知らない」って言われることの方が怖かったので、今でも後悔はしていないです。
でも、そこまで伸びたのは、当時活動していた織田信姫さんのおかげです。登録者が多かった先輩の信姫さんが取り上げてくれたのがきっかけで、物怖じせずに信姫さんに絡んでいきました。
ーープロレス芸を積極的にしていましたよね。当時かなり絡みもあったのに「絶対コラボしない」というお約束みたいなのがあって、それが面白いなと思っていました。
のりお:多分あれは「いつコラボするんだろう」と“見守ること”自体がコンテンツになったんだと思います。「こんなに絡んでいるし、仲良くプロレスもしてるのに、一体いつコラボするんだろう?」って。行く末を追いかけたくなる要素を信姫さんが演出してくれていたんだと思います。
ーーたまきさんは信姫さんのどういうところがお好きでしたか?
たまき:そもそもピンク髪のキャラが好きで、見た目もめちゃめちゃタイプだったんです(笑)。それに、信姫さんは最初からすごい可愛がってくださっていたのも大きかったです。なんでこの人こんなに優しくしてくれるんだろうと思うくらいに。プロレスの範囲で結構きつい言葉も浴びましたけれど、その中にも愛を感じていたので、どうにかボクからもその愛情を返せないかなと考えていました。
ーーひとりの個人VTuberに対する愛情の示し方ではなかったですね。
たまき:そうなんですよね。「可愛い後輩でいよう」という意識はめちゃくちゃありました。だからこそ、活動も頑張るし、結果も出さなきゃって。「こんだけ寵愛を受けてるのに、犬山たまきは何もできてないじゃん」みたいには絶対思われたくなくて。「信姫さんを超えなきゃ」という思いがありましたね。
ーー信姫さんは当時、「犬山たまきが登録者数10万を超えるまでは関わらない」みたいな話をされていましたね。その時期をたまきさんはどのように感じていましたか?
たまき:とても嫌でしたね。その当時のボクは、活動の理由自体が信姫さんになっちゃってたんですよ。この人とコラボするために活動してるし、この人と仲良くなって認められたいから活動を頑張る、という思いになってしまっていました。多分、これだと犬山たまきは信姫以上になれない、と多分信姫さんも分かっていたんでしょうね。親心で突き放してたんだと思うんです。
でも、当時はショックでした。やっぱり本当にコラボできないんだって。ファンからの「いつコラボするの?」というプレッシャーもすごかったですし。
ーー僕も当時行方を追っていたいちリスナーとして「信たまは終わるのかな」と不安でした。
たまき:「めっちゃ信たまを推してくれてて嬉しい」っていう気持ちの反面、「信姫ちゃん、コラボする気ないから本当はたまきのことマジで嫌いなんじゃないか?」という説も出ていましたからね。ボクとしては、それはない……いやそれはないけど、でも……なんかそう思えてきちゃって辛いなぁ……みたいな。そんな時期がありました。
ーーなるほど、それがあってこその、信姫さんとの“最後の一週間”だっ たんですね。それまでの時間を取り返すかのように、怒涛の勢いでコラボをしていましたよね。
たまき:信姫さんが「犬山たまきがいて、信姫の物語は完結するから、協力してくれてありがとう」と言ってくださったんです。「これからの物語は“犬山たまきの物語”だから、あんたの仲良くなった人たちと新しく、私のことなんか忘れて楽しくやりなさい」と。今はもう、信姫さんの名前も知らないVTuberファンだっていると思うんです。けど、ボクは今でも「好きな人は誰ですか」って聞かれると絶対に「織田信姫さん」って答えています。