SNSで1467万回再生された“弁天様”が話題に 注目のメディアアーティスト・志茂浩和が開催する個展『弁天舎ブックフェア展』レポート

 架空の出版社である“弁天舎”が開いた『弁天舎ブックフェア』が、8月17日〜27日の10日間、西八王子のギャラリーいちょうの木で開催された。会場にはSNSで1467万回再生された『弁天様』や、同じくSNSで1984万回再生された『本に挟まる人』など、まさに今注目を浴びている作品が展示されていた。

 本記事では2023年8月26日の様子を、『弁天舎ブックフェア』の主催者であるメディアアーティスト・志茂浩和氏のコメントとともにレポートしていく。

架空の出版会社『弁天舎』の実体

 まず入り口で出迎えてくれるのは、弁天舎の営業担当であるこちらの男性。狭い空間の中で電話対応をしていたり、時間を気にしたりと、忙しない動きをしている。

 演じているのはプロダンサーのKELO Hirai / 平位蛙(ひらいけろ)。弁天舎の営業をたった1人で担っており、どうやら話しかける暇はなさそうだ。

 中に進むと現れたのは、おびただしい数の“表紙”。こちらは2022年から制作が始まった『Fakebook』という作品で、弁天舎が出版した“表紙だけの架空の本”である。今回は今までの『Fakebook』シリーズがすべて展示されており、その数は144部となる。

 本は磁石で取り付けられており、実際に手に取って見ることもできる。

 志茂氏は、『Fakebook』に関してこうコメントした。「ジャンルがバラバラに見えるようにしました。出版社なので、書籍はそれぞれ違う人が作成したように見せる努力をしています」

 志茂氏の発言の通り、表紙のテイストは一冊一冊まるで違う。だけど、どれもどこか不気味であり、目を離せない力を放っているところが魅力的である。また、表紙にはそれぞれタイトルがつけられている。タイトルと表紙を照らし合わせながら見るのも、楽しみ方の一つだ。

『Fakebook』公式サイト:https://shimo-works.sakura.ne.jp/hiroyasushimo/items/items_controller/items_index.php

 今のところあるのは表紙のみだが、志茂氏のサイトでは本の物語を募集している。表紙やタイトルから誰でも想像を膨らませて、オリジナルストーリーを執筆することができるのだ。自分のお気に入りの一冊を選んで、表紙の裏に潜む物語を書いてみるのもいいだろう。

 『Fakebook』の先に展示されているのが、SNSで1984万回再生された『本に挟まる人』という作品だ。

 “挟まっている人”は、一般から公募した人物を撮影した映像を使用している。志茂氏は2018年に『挟まる人』という作品で、文化庁メディア芸術祭第22回アート部門審査委員会推薦作品に選出された。冒頭で紹介したプロダンサーのKELO Hirai / 平位蛙(ひらいけろ)の作品然り、限られた空間で魅せる人間の感情が、来場者の心を強く揺さぶるのではないだろうか。

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