『がんばれ森川くん2号』など手がけた“ゲーム×AIの先駆者”森川幸人に訊く 「生成AIとゲーム」の理想的な関係って?

100人のデジタルクローンが生み出す「人間とまったく違う形の知性」

ーーあらためて、現在の「生成AIブーム」を森川さんはどう見られていますか?

森川:現状の生成AIが世界を変えるとまでは思っていなくて、わりとクールな立場かもしれません。しかし生成の枠を超えて、「デジタルクローン」の領域までいけると面白くなるんじゃないでしょうか。

 AIが自分ーー「森川幸人」の情報を全部取り込んで、あたかも生きている自分のように振る舞い、物事を語れるまでにステップアップする。“タンパク質の肉体が朽ちても、情報は永久に生き残る”ようになると面白い遊びができそうです。

 物理的な世界では私は1人しか存在できませんが、バーチャルの世界に制限はありません。きちっとクローニングができれば、同時にそれぞれが違う経験をし、出会える人の数が一気に増えます。自分の人生がいっぱいある放置ゲームみたいになるのかな。

 自分のクローンが100人いたとして、全員が巨大なクラウド上で情報交換して……そうしたら、個々の知識を超えたものが生まれるかもしれない。人間はこういうことをすると喜ぶ、こんな時間に活動しているだとか、AI同士が情報共有しあって集合知が生まれたら、なんか面白い世界が発生するのではないかと。あとは、それをどうゲームに落とし込むか、だけの話になると思っています。

 逆に、AIは身体を持っていないから人間の「死にたくない」という根本的な欲求は理解できないので、「AIの身体性」は大きな課題になってくるんじゃないかなと。

ーー「個による集合知」というと、まるでマンガやアニメにおける“脳内会議”の表現のようですね。今後森川さんとしては、どのような構想をお持ちかうかがってみたいです。

森川:たくさんイベントを生成するようなオープンワールド型RPGで、ユーザー同士がイベントを生成して共有するエコシステムみたいなものができると面白いと思っています。「UGC(User Generated Content、ユーザー生成コンテンツ)」を細かくプログラム化するというよりは、生成AIを使ってラフに作ったものがゲーム内で広がっていくイメージです。

 プレイヤーも、人間だけじゃなく、AIも混ざっている混沌とした世界も作れそうです。

ーーチューリングテストに近いというか、相手がAIなのか、人間なのか判断が付かない世界も訪れそうです。やはりここでも「集合知」がキーになっていますね。

森川:そうですね。先ほどもお話した通り、「集合知」という部分にはとても興味があって、今回のマーダーミステリーも、集団の群知能を使えばちょっとした物語や事件、イベントが生成できるんじゃないかなと思ったから選んだんです。

 一つの空間にいろんな性格の人を放り込んで、人間関係を設定すれば、殺人事件が起こったあとも個々人の行動は自律的に変わってきそうですよね。ある人は逃げ出し、ある人は犯人をかばう……というように。

 集団になったとき、個人の判断とは別の判断が入りそうなので、設計者が思いもしないイベントや集団が生まれたりするかもと。極端な話、全員が殺人者になってしまうとか。

ーーAIが集合知を取り入れるには、集団心理学的な前提条件が必要になりますし、ほかにも臨床心理学やさきほど出た認知学の知見も関わってきそうです。

森川:ゲーム業界の人って、他の作業領域、業界の方との交流があまりないんですよね。特に認知学や言語学の研究者の方とは、もっとコミュニケーションをとって知見を得るべきだと思っています。

 AIが人間とまったく違う形の知性であることは間違いありません。そんな生成AIの文章を体系的に語れるのは、やはりプロの方々でしょう。

 私が関わっているゲーム以外の分野でいえば、たとえばメンタルヘルスケアの領域でしょうか。病気と診断される一歩手前、そんな苦しい精神状態の方の話し相手になれるような生成AIツールの開発にも取り組んでいます。

 話が外に漏れてほしくない、周囲に心配をかけたくないなどの理由から、「親しい人に悩みを打ち明けられない」というケースは結構あって、そういうときにAIだと話しやすくなる、秘密が守られているという安心感があるようなんです。

 それだけでなく、たとえばAIが普段の雑談の中からマイニングして心理状態を解析する、もしくはセラピストや精神科医へデータ提供をすることで、ケアが必要な方と医療との橋渡し役を担えるのではないでしょうか。

ーーゲーム業界とAIや他業界の橋渡し、というと森川さんはもちろん、三宅陽一郎さんも活躍されている領域でしょうか。

森川:もう本当に、「ゲーム×AI」の将来は三宅さんにかかっていると自分は思っています。世界的な資産だと思っているので、彼を中心に自分はその後ろで支援する、という後見人のような立場でいきたいです。

 先ほどナレッジの共有をしたいと話しましたが、それもゲーム業界の人々にわかりやすく伝えてAIに明るいプランナーが増えれば、もっと面白い世界になると思っています。

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