空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」第八回

帰ってきた観客たちの受容は変化し、パフォーマンス・アクトは密教化するーーhuez代表・としくにが語るコロナ禍を経た"ライブ演出”の現在地

世相に応じて変化するライブ演出

ーーこうした世相をふまえた結果、huezのライブ演出に起きた変化はありましたか。

としくに:新型コロナウイルスが5類に移行したこともあり、オフラインでのライブについては制限の少ない形で演出を組み立てることができるようになりました。いろいろ思うところはありますが、「お客さんを意識して作っているのか、意識しないようにしているのか」というのはあるかもしれない。

 コロナ以前の、コールアンドレスポンスのある現場、モッシュしたり、飛び跳ねたりするような身体に制限のない現場では、お客さんの視野は絶対に狭くなるんですよね。目の前に大柄な人が居たら、音楽しか聞こえていない可能性もある。これがもともとデフォルトの状態で、僕らはそこに演出を仕掛けていたわけですが、コロナ禍ではコールアンドレスポンスは当然NGだし、お客さんのリアクションは拍手だけ。こういう状況だと観客の視野が広くなったんです。絵の印象や映像のかっこよさみたいなものが観客の中に残りやすくなった。だから、コロナ禍では僕は意識して「見世物」を作っていたんです。

 声出しどころか、着席ライブになるともう、やばいんですよ。お客さんが「映画鑑賞」みたいなテンションで座っているところからライブがスタートするので、すごく冷静に、広くライブを観ることになる。その視点は演出する側の、それこそ僕らの姿勢に近くなっていたんです。

 huezの演出チームっていうのは、客席の一番後ろで腕組んで見ているようなやつらなんですよ。いろんなお客さんが舞台のいろんな場所を見るなかで、僕らは全体を見なきゃいけない。すべてのパーツが成立しているのかを目測しつつ、それが全体としても成立しているのかをチェックするお仕事なんですけど、コロナ禍を経てその目線がお客さんにも養われたように感じます。

 だから、「静かに見てね」みたいな演出もやりやすくなりました。ビジュアルを演出する側としてはお客さんの受け取り方が広がったおかげで、バリエーションの広い演出を仕掛けられるようになった。苦しい期間だったとは思うんですけど、それを経た結果、いろんな形でライブを楽しめるようになったりライブのフォーマットが変わったりしたのはすごく大きなことだと思っています。

 逆に、ある程度不親切な、尖った演出も“入れちゃってOK”になったと思っていて、テクニカルなhuezっぽい演出、インタラクティブな演出に関してはもう説明するのはやめました。コロナ禍でテクノロジーの活用方法がいろいろ増えて、お客さんのリテラシーも高まっているし、問題ないだろうと。

ーーそういった変化を経て、今度は「身体に制限のないライブ」が可能になって、観客もそれを渇望している、揺り戻しが来ていると思います。

としくに:新世代も次々と入ってきていて、最近気づいて面白かったのは、ライブアクトって「小さな箱からキャリアをはじめて、Zeppを埋めて武道館へ」みたいな感じで、箱の大きさとキャリアが連動していたと思うんですけど、コロナ禍に売れちゃったアーティストって、いきなり「ホール公演・声出しOK」の舞台に立つことになっちゃったんですよ。

 これまでのアーティストだと、Zeppに立つような方々の場合、お客さんも精鋭が揃っていて、「ここでコールアンドレスポンス」「ここで歌う」みたいな観客の取り決め、暗黙の了解がバッチリ決まっていたんですけど、いきなりZeppに立つものだから観客の動きも全然デタラメで、声出しに本当に慣れてないっていうのが初々しくて。僕はその一体感のなさに“良いいびつさ”を感じていて、面白いです。

ーーそういった場所に対して仕掛けられるような演出も考えられますね。

としくに:演出で手を加えてるという意味だと、たとえばフェスに立つようなアーティストのライブを観ると、お客さんのコールアンドレスポンスやクラップの精度がすごく高い。「この曲ではこう」っていう取り決めをお客さんが知っているから、「この曲では絶対にこういう反応がある」ということを前提に演出を仕掛けて行くわけですが、今まではその精度を箱の規模で測っていたんですよ。「この規模感の箱でライブするなら、絶対お客さんも一緒にできる、ついてこれるだろう」みたいな判断ですよね。それこそ演出で「だからここでコールアンドレスポンス入れよう」とか。でもこの物差しは前述の理由から、ちょっと通用しなくなってきた。

ーーライブにおける「盛り上がりの波」というか、観客とアーティストの間に張られたテンションに生じる“傾斜”をどう作るのかを考えるのが演出家の仕事の一つだと思いますが、それを測る物差しが一つなくなってしまったと。

としくに:VTuberさんとか、すごいんですよ、1stライブで平気で3000人キャパを埋めたりするから、「箱の規模の物差し」がまったく通用しない。なのでたとえばそれが初めてのオフラインライブなら、お客さんの反応を煽るような行為、特に曲中の煽りとかはなるべく単純にした方がいいんです。

 先日担当したDUSTCELLのライブ演出でも同様のことがあって、演出家は僕ではなくYAVAOなんですが、イントロを伸ばせるバンドセットの曲があり、そこでMCの煽りを入れて曲を始めたい、というような演出プランがあったんですけど、僕は止めたんです。理由は2つあって、、1つはほかの曲で出ているノリのままでアクトを続けたほうが、お客さんのレスポンスが返ってくるから絶対にテンションが上がっていくはずなので、それに任せちゃうほうが生々しくて良いんじゃないかということ。そして、2つ目は本人たちもお客さんも、まだ煽りと声出しに慣れていないから、ついてこれないんじゃないかと。こういう部分の演出はかなり注意して見るようにしています。

DUSTCELL TOUR 2023『ROUND TRIP』

 

関連記事