「アーマード・コア」ホワイト・グリントにはなぜ“敵のパーツ”が? 設定と戦歴から考察する2つの説

非企業勢力の機体を、敵であるはずの企業が支援している?

 ネクストに乗るのが“リンクス”だが、リンクスとは言っても、企業お抱えの専属と、どこにも所属しない独立傭兵というふたつのタイプが存在する。専属の場合、雇用主である企業のパーツを中心に機体を組んでいるケースが多い。オーメル社のリンクスならネクストもオーメル製で、GA社のリンクスならこちらも同様にGA製になる。

『ACfA』に登場する機体、ステイシス。オーメル社の切り札であり、パーツは同社製で統一されている

 ここで興味深いのが、ホワイト・グリントのパーツ構成だ。すでに書いたように、頭部を始めとする基礎的な部分はラインアークの内製だが、武器やブースターには他企業のものが使われている。『ACfA』の企業は国家に匹敵する存在であり、世界の統治者とも言える彼らが、非企業勢力に自分たちの装備が流れていることに気が付かないとも思えない。

 ホワイト・グリントとその機体に使われている他社製パーツを細かく見ると、『AC4』で起こったリンクス戦争とのつながりが見えてくる。

 オーメル社は、主人公が所属していた陣営の筆頭。レイレナード社は敵陣営の中心的企業ではあるが、リンクス戦争後は多くの技術者がオーメルに流れたという経緯がある。『ACfA』のオーメル社とは、実質レイレナード社も兼ねていると言っていい。

 GA社はオーメル陣営の一角であると同時に、『AC4』の主人公からすると、利害の一致とはいえ経済危機に陥っていた故郷を助けてくれた存在でもある。主人公はオーメル側ではあるが、実質GAグループの味方だった。MSAC社はGAグループの傘下であり、BFFは元々レイレナード陣営だったがリンクス戦争で壊滅、その後GAによって吸収された。アルゼブラ社はリンクス戦争当時はイクバールという社名で、オーメル陣営に属していた。

 つまり、ホワイト・グリントの武器や内部パーツに関わっているオーメル、レイレナード、GA、MSAC、BFF、アルゼブラ(旧イクバール)とは、すべてリンクス戦争におけるオーメル陣営か、あるいは戦後に旧オーメル陣営に吸収された企業だ。

 そうなれば、敵対している勢力のネクストに上記の企業がパーツを融通している理由もそれとなく分かる。作中では明言されていないので推測になるが、ひとつはリンクス戦争時の恩返し説。アナトリアの傭兵なくしてオーメル陣営は勝てなかったわけで、そのときの恩から、敵同士になったいまも義理を通している。GA社はパーツこそ融通していないが、代わりにBFFやMSACといった自社のグループ企業をわざわざ介している点に、リンクス戦争前からの付き合いがある主人公への誠実さを感じられなくもない。

 オーメルを始めとする他社が自社製を提供するなか、なぜGAだけがグループ企業を通すのかは不明だが、そこはラインアーク側の機体構成や運用条件だったり、GA側の政治的な理由があるのだろう。

 恩返し説のほかに、オーメル社の口止め料という線もある。『AC4』のリンクス戦争終結後、主人公は突如としてアナトリアを襲った戦友、ジョシュア・オブライエンと一騎打ちとなり、これを退けた。この戦いが同作における最後のミッションとなる。NORMALモードではジョシュアを倒すとエンディングになるのだが、HARDモードではさらにセロというリンクスが増援でやってくる。登場時の「存外、そんなものか。あるいは…」という彼のセリフから察するに、本人に慌てた様子はなく、むしろ一連の戦いを予期し、観戦していたようにすら思える。つまりセロは一騎打ちを事前に知っていた可能性が高いわけで、彼が所属しているのはオーメル社だ。

 リンクス戦争でレイレナード側もオーメル側も疲弊していた。そのなかで傭兵稼業によって莫大な報酬を得ていたのが、主人公の所属するアナトリアと、ジョシュアがいるアスピナ。国家的な存在である企業に取って、味方とはいえ独立した外部の勢力に出し抜かれるわけにはいかない。戦友であるジョシュアがいきなり主人公の故郷を襲うこと、その戦いにオーメル社に所属するリンクスが関与していたことから、『AC4』の最後のミッションには、英雄になったふたりをつぶし合わせて、残った方を奇襲で仕留めるという、戦後の主導権を見据えたオーメルの思惑が見え隠れしている。

 しかし、セロは主人公によって返り討ちにされてしまう。オーメル社はアナトリア側に露見してしまった裏切りの事実を隠すため、『AC4』の主人公らに口止めとして装備を売っているのかもしれない。戦後、レイレナードを吸収して資本も技術力も肥大化したオーメルが動くなら、GAを始めとするほかの企業も追随するだろう。

 反企業勢力の機体であるホワイト・グリントに、本来なら敵である企業側のパーツが使われていることに関して、ここまでに恩返し説と口止め料説のふたつを書いた。個人的には最初に挙げた恩返し説を推したい。ロマンがある。だが、『アーマード・コア』に出てくる企業は血も涙もないところばかりで、自分たちにとって目障りな存在は普通に粛清する。シリーズの世界観になぞらえるのなら、むしろ口止め料という線の方が合っているのかもしれない。

 今回は『ACfA』に登場するホワイト・グリントをピックアップし、本機と搭乗者の設定や戦歴から、推察できることをいくつか挙げてみた。多くを語らないフロム・ソフトウェアのゲームは、そのために考察の余地が広い。とうとう来月にまで迫った『AC6』では、どのような考察が生まれるのだろうか。

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