“ブラジルの忘れ物”を拾い集めてーー『VCT Masters Tokyo』EMEA代表・Fnaticが2連覇で有終の美を飾る
6月11日から6月25日まで開催されたVALORANTの世界大会『VCT Masters Tokyo』。昨日6月25日は千葉・幕張メッセにてグランドファイナルの試合がおこなわれた。
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決勝のカードはEMEA代表・Fnatic(FNC)対Americas代表・Evil Geniuses(EG)。アッパーブラケット・ファイナルでEvil Geniusesを撃破したFNCと、ローワーブラケットでPacific代表・Paper Rexとの激戦(3-2)を制したFNCの再戦となった。
前回の対戦ではロータスをFNCが13-3で先取、続くフラクチャーをEGが9-13で制し追い付くと、最終戦のスプリットでは13-11とFNCが辛くも勝利をおさめた。FNCがファーストマップのロータスこそ圧勝したものの、その後はpotterコーチ率いるEGも各プレイヤーのポテンシャルの高さやセットアップの完成度、それらの応用力を見せつけて互角の戦いを繰り広げた。
再戦となった決勝は、アッパーブラケットチームであるFNCが2マップのBAN権利を保持。FNCがパールとフラクチャーをBANし、ロータスをピック。EG側がスプリット、FNC側がバインドを選択し、EGのアセントピックで最終マップがヘイヴンに確定した。
1マップ目のロータスは、またしても13-8でFNCが勝利をおさめる。前回の対戦ではFNCが見せた芸術的なセットアップによって完全に封じ込められてしまったEG。攻め手に対して丁寧な形のリテイク、キルジョイのロックダウンに対するFNC側のアクションを予想して逆に罠にはめるなど、前回の対戦を踏まえた対策を講じたように見えた。しかし、それでもFNCの強固な牙城を崩すには至らなかった。Derke選手がCロングをオペレーターで警戒すると同時にAlfajer選手が回転ドアを開けることでBサイト前に斜線を通す、フェイドを操るLeo選手がアビリティを絡めて敵の位置を完璧に把握するなど、美しい連携で終始試合を優勢に進め、勝利を掴んだ。
2マップ目のスプリットでもFNCが多彩な作戦を見せる。1ラウンド目からサイファーのカメラとオーメンのパラノイアを組み合わせたミッド制圧を披露。続く5ラウンド目では先頭のEthan選手を落としたChronicle選手、Boster選手の完璧なパラノイアでカバーキルを防ぎ、さらにそこへChronicle選手のブリーチがフォールトラインで追い打ちをかける。お手本のようなスキル合わせで敵を殲滅していく。EGも持ち前のフィジカルや、ノっているチームならではのジャッジキルを刺して12-11まで食らいつくが、最終ラウンドはFNC側の速攻に翻弄され、13本目を取られて敗北する。
3マップ目のバインドで、EGはこれまで見せてこなかったレイナ・レイズ・スカイ・ブリムストーン・チェンバーという構成を選択した。まさかのエージェントが登場したことに、会場からどよめきがあがる。
この奇策にも見えるピックの意図については、試合後の記者会見でpotterコーチとIGL・Boostio選手が理由を語ってくれた。potterコーチいわく、準備が万端とはいえなかったバインドだったこともあり、用意していた構成ではなく「We winged it.(アドリブだった)」と一種の賭けであったことを明かす。
「実際の選択理由は、私よりもBoostioが答えるほうがいいでしょうね。あの構成に決めた理由は?」と話を振られて答えたBoostio選手によれば、「もともとバインドは徹底して選択を避けていたマップで、スクリム経験も乏しかったんだ。メタ構成で戦っても勝てるとは思えなかったから、だったら自分たちのそれぞれ得意なエージェントをピックして常識外れの試合に持ち込んでやろう、って話したのさ」とのこと。
このピックには、今大会を通して大胆かつ緻密な戦術を披露してきたEGが持つ“もう一つの側面”が表れていると感じた。6月23日に公開された公式番組「On The Spot」特別編において、「チームのプレイスタイルを3語で」という質問にpotterコーチは「斬新、統率、そしてカオス(混沌)」だと答えている。
各選手から飛び出るスーパープレイは「斬新」だ。PRX戦でjawgemo選手はまるでハイライト動画に登場するような“フェイク・シャドウステップ”で見事に相手の裏をかいた。そして、フラクチャーにおいても一般的なセットアップにソーヴァのウルトを完璧に合わせてキルをもぎ取るなど、「統率」の高さも見せていた。そして、最後の「カオス」というジョーカーがここで“アドリブ”として飛び出したのだ。