バーチャルフォトグラファー・あまねこに聞く、仮想世界の“熱”を伝えることで溶けゆく「現実との境界線」
「バーチャルならではの制約」と、それを超えることで現実との境界が近付く感覚
――技法についてもお伺いさせてください。写真の勉強をされていく中で、現実のカメラを使った写真と、バーチャルのカメラ機能を使った写真で、共通して勉強になったと感じたことや、習得したことによって自分の写真が一気に変化したテクニックなどはありましたか?
あまねこ:写真というものは、みんなが思っているよりも自由であるということはすごく勉強になりました。勉強するにあたって、ナショナルジオグラフィックの『プロの撮り方 構図を極める』という本を読んだんですが、そこで「大きい風車と草原、川のある場所で写真撮影の練習会を開く」というページがあったんです。
そこでは風車を被写体にして、手前に川を置くような写真が多かったんですが、優秀賞として選ばれたのは「BEST」と書かれた“錆びて潰れたビール缶”を撮影した1枚だったんです。この風景であれば「風車の写真を撮ると良い」と思いがちですが、それに縛られちゃいけないというか。いろんなものを見て、「いいかも」と思ったらシャッターを切るということが大事なんだなと感じて。もう少し空き缶がくしゃくしゃに潰れていた方がいいと思ったら、自分の手でくしゃくしゃにしちゃう。そういうこともやっていいのが写真なんだと気付いて、それはすごくいい勉強になりました。
――それは面白い考え方ですね。ただありのままではなくて、もっと自由に考えてこそ個性が出る、自分の思ってる写真に繋がっていくと。“創作の無限の可能性”を感じさせてくれるようなお話です。
あまねこ:あとは、写真の中ですごく重要だと言われていることのひとつとして「構図」があるじゃないですか。たしかに構図はすごく重要で、それを基礎にした写真は綺麗なんですが、それ以上に「この写真で何を伝えたいこと」のために構図をうまく使うのが重要なのであって、構図自体をテーマにしてはいけないなということも感じました。あくまでも構図は自分の武器、引き出しで、それにとらわれすぎるのはよくないなとしみじみと思いましたね。
――“テクニックありき”になってしまうと良くないというのは、たしかにそうですね。
あまねこ:私は以前、個人でブログを書いていたことがあったんですけど、「記事を読んだ後にその人にどう行動してもらえるかが重要で、見出しや読みやすさはそれを支えるための骨組みにすぎない」ということを「バズ部」さんが書かれていたのがすごく刺さったんです。それに少し似ているかもしれないですね。
ーーあまねこさんはバーチャルフォトグラフの魅力はどういうものだと考えていますか?
あまねこ:「バーチャルならではの制約があること」がすごく面白いと思います。というのも、私は今のところ、バーチャルでは、祭りで見る「汗が噴き出るような熱量」が伝わるような写真は絶対に撮れないと思っているんです。祭りで汗をかいて、鬼のような形相で神輿を担いでいる熱気とか、そういったことをバーチャルで表現するのはすごく難しくて。その熱気を伝えるためにどうしたらいいのかを考えるのがすごく面白いですね。それを伝えることができたら、もう一歩現実とバーチャルの境界線が溶けていっていることになるのかなと思うので、突き詰めていきたい部分です。
それ以外にも、リアルとの違いでいえば「光」ですね。太陽の光があったり、蛍光灯や街頭があったり、いろんな光が組み合わさって、1枚の写真に映るとすごく美しく見える。バーチャルフォトグラフにおいてもいろんな種類の光がありますが、現実にはどこかバーチャルには及ばない“深み”があるなと思います。
――バーチャルにおける人工的なライティングは必要最小限になりがちですが、現実は意図せずとももう少し複雑なライティングになっていることが多いですもんね。
あまねこ:そうです。個展である方から感想をいただいたときに、「こんな見方もあるんだ」と良い意味でショックを受けた写真があるんです。すごく写実的でリアルかバーチャルか分からないという評判をもらった、すごく自信のある1枚で、自分でも「これはリアルっぽく撮れているな」と感じていたんです。
でも、その方にとっては違ったようで、「だまし絵みたいで面白いね」と言われたのがすごく刺激的で、黒電話のケーブルに影がないのでそう思ったみたいなんです。バーチャル世界の仕組みでいえば、影がないのは仕方ない話でテクスチャを貼っているだけで「オブジェクト」としての情報がないから、というだけなんですが、驚きました。
まだまだ写真を通じてリアリティを突き詰めることができると思いましたし、まだ気付けていないことがたくさんあるんだなと思いましたね。カメラマンとして、「これはまるで現実のようだ」と“提案して”鑑賞していただくことはできますが、見る人によっては「ここに影がないのはおかしいんじゃないか」ということになってしまう。それを写真家としてどう乗り越えようかと考えるのはすごく楽しいです。バーチャルフォトグラフの面白さのひとつは、そういうところにあると思います。
――今後、技術の進化によってそういったことも自然と解決されていくかもしれませんね。そういう意味では、バーチャルの環境が偶発的に変わっていく分、その時代の機能や環境“でしか撮れないもの”もあるでしょうし、バーチャルフォトグラフにはそういった面白さもあるのかもしれないですね。
あまねこ:そうですね。なので、記録を取っていくことはすごく重要で、かつ面白いものだと思います。私の体感としては、「バーチャルの世界は今後もずっと続くだろう」と思っているんです。現代でさえも、気がつけば『VRChat』や『cluster』や『Roblox』を起動する人がたくさんいて、そこでコミュニケーションが生まれたり出会いが生まれたりしているので、プラットフォームが変わったとしてもこのあり方は変わらないだろうと思っていて。そう考えたときに、2023年の今頃、私達はどんな活動をしていたかという記録を残して10年後、20年後にメタバース展のようなものをやったとき、今とは違った味わいが生まれると思います。
今の私からは熱量が見えない写真でも、20年後に見れば「20年前でもこんなに熱いものがあったんだ」と感じる人がいるかもしれない。そう考えると、写真を撮り続けることはすごく大事なことなのかなと思います。
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