『VRChat』で空中に文字を書くのは日常茶飯事? 『QvPen』の魅力に迫ってみた

『VRChat』では“空中にイラストを描く”

 空間上に表示されるディスプレイに文字を書く、あるいは魔法を操り指先からほとばしる魔力で文字や呪文を書く……SFやファンタジーの映画、あるいはゲーム作品で“空中に文字を書く”シーンを観たことはあるだろうか。現実にも「3Dペン」など近しいプロダクトは存在するが、接地面が必要であり、“空中に浮いている”わけではない。だが、実はソーシャルVR『VRChat』の世界ではそれが非常に身近で、日常茶飯事の光景となっている。

 『VRChat』では、ユーザーが公開したアセットを使ってワールドに機能を追加したり、あるいはオブジェクトを設置したりといったことがおこなえる。その中のひとつ、『QvPen』は『VRChat』上にて使えるペンで、無料で誰でも使える形で公開されている。このペンを使うと、空中に手書き文字やイラストを描くことができるのだ。

ペンは色ごとに分かれており、コントローラーを使って握り、インクを出すように空中に文字を描くことができる。消しゴムも用意されており、後から消すことも可能だ。

 この『QvPen』はとくに利用率の高いアセットで、『VRChat』において数多くのワールドで利用されている。とくにユーザー間で交流を楽しむようなワールドには必ずと言っていいほど導入されており、もはや事実上の「インフラ」といっても過言ではないほどだ。

 本稿では、空に描けるペン『QvPen』がユーザーの間でどのように使われているのか、今2つの例をご紹介しよう。

 1つ目は単純明快。なにかを説明するときや会議などの場面において、注釈をくわえたりメモをとる用途である。会議中にメモを取りたいときは、ペンを握って空中にそのまま書けばよい。『QvPen』を利用するメリットは、ホワイトボードなどがなくともその場でメモを残すことができる点だ。『VRChat』のカメラ機能を使えば、内容も気軽に見返すことができる。

 また、『VRChat』で他人とコミュニケーションをとる際主に利用されているのはボイスチャット機能だ。そうした中で、『QvPen』ならではのメリットとして挙げられるのが、書いた本人がワールドを去ったとしても、他にユーザーが留まっていれば、書いた内容が消えないところだ。ペンで書いた内容は誰でも共通して見ることができるので、あとからワールドを訪れた人にそのワールドの魅力を伝えたいときなどにも利用することができる。つまり、『QvPen』による会話はボイスチャットと異なる形、“非同期”のコミュニケーションとして機能するのだ。

 とはいえ、ただメモ用途として利用するだけでは、空中に文字を書けることのメリットをそこまで感じられないかもしれない。だが、立体的な造形物に対して注釈をくわえたりするときには、「現実よりも便利かもしれない」と感じられる大きなメリットとなる。

 このメリットが大いに活用された事例として、過去に東京理科大学理工学部が主催したイベントを紹介したい。異分野の交流を目的としたこのイベントでは、それぞれのブースでポスターセッションが開かれていた。その際、坂下 美咲助教が3Dモデルで作られた魚の模型と、『QvPen』を使いながら説明をおこなっていた。

 これまでは指差しやレーザーポインターで説明していたようなことが、これからは空間に注釈を残す形で共有できるようになるのだ。これはかなり画期的で、立体物に関する説明や解説の解像度がいっそう高まるだろう。

 2つ目は、イラストを描く用途だ。先述したとおり、『QvPen』で書かれた文字や線は、接地面を必要とせず空間に浮き、奥行きまでも利用することができる。なので、『QvPen』を利用したイラスト制作では、立体的な絵を描くこともできるのだ。

 ここでぜひ紹介したいのが、『VRChat』で活動するGunberry氏。は『QvPen』だけを使って、“空間に作品を描く”イラストレーターだ。線の多い、細やかに描き込まれた画風と、独特の世界観が詰め込まれたイラストが非常に魅力的で、すべて手書きというのだから驚きだ。くわえて、『QvPen』で描かれた作品であるがゆえ、ワールド内に誰もいなくなってしまえば消えてしまうという“儚さ”も魅力を増幅する。

Gunberry氏

 なにより、空中にイラストを描くのは至難の業だ。きちんと平面になるように描くのも大変で、保存が効くわけでもない。そうした状況下で、一発描きで作品を作るのだ。

 Gunberry氏は2.5次元的なイラストを描くこともあり、そのクオリティも高い。こちらの骸骨が座っているイラストは、座禅を組む足や彼岸花、猫の足跡がすべて立体的に描かれている。写真だとなかなか伝わりにくいかもしれないが、VR空間で見るとその立体感に感動する。

 今回紹介したGunberry氏以外にも、さまざまなユーザーが『QvPen』を使ってイラストを描いている。同氏のような大作を描くユーザーもいれば、座っている友だちに落書き感覚でちょっとしたイラストや文字を付け足す人もいる。『QvPen』で描いたイラストを画角に収めつつ自撮りのスクリーンショットを撮影し、SNSに投稿して思い出を共有することももちろん可能だ。

 このように、『QvPen』は、『VRChat』におけるコミュニケーションだけでなく、構造物の解説やイラスト制作などさまざまな場面で活用されている。そして、とくにイラスト制作においては新たな技法、手法として成立しつつある。かつて映画やゲームで見ていた技術を、『VRChat』ユーザーは当たり前のように使っているのだ。フィクションに存在していた世界は、もうすでに日常になっている。

■関連リンク
Gunberry氏Twitter
『QvPen』(BOOTH)

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