これまでにない新ジャンルの製品『Apple Vision Pro』も登場! 今年も盛り上がった『WWDC23』キーノートでの発表内容を総ざらい

『WWDC23』開催、Appleが新製品を発表

順当に新製品と次期OSを発表

 予定どおり6月5日(日本時間6月6日)から『WWDC23』が開幕した。夜中、眠い目を擦りながらキーノートスピーチのライブ配信をかぶりつきで見ていた人も多いだろう。内容としては事前に予想していたとおり。まずはMacの新製品が発表された。

○『MacBook Air』の15インチモデルが登場
 既存の13インチ『MacBook Air』のディスプレイを大きくしたもの。画面サイズ以外は従来の13インチとまったく同じ。唯一異なるのはサウンドシステムが4スピーカーから6スピーカーになったぐらいだろうか。

WWDC23結果 画像その1
13インチと15インチの価格差は3万4000円。より大きな15インチディスプレイが欲しいけどMacBook Proまでの性能は必要ないと考えている人にはおすすめのモデルだ。

 

○『Mac Studio』がM2チップ搭載に
 これまでM1 MaxもしくはM1 Ultraを搭載していた『Mac Studio』がM2 Max、M2 Ultraにパワーアップ。それに伴い128GBまでだった最大メモリサイズが192GBまでと増えた。ディスプレイ出力も8K対応とパワーアップしている。

○ついに『Mac Pro』がAppleシリコン化
 唯一残っていたインテルプロセッサ搭載のMac ProがついにAppleシリコン化された。搭載するのはM2 Ultra。内部にPCI Express gen 4スロットが6つあるので各種ボードの追加が可能だ。まさにプロ中のプロ向けMacといえる存在だ。

WWDC23結果 画像その2
ハイエンドな画像処理や映像制作などプロフェッショナルな用途向けのモンスター級Mac。『iMac』のような一体型ではないので好みのディスプレイを繋げて使える利点もある。

 

引き続きAppleデバイス向け各OSの時期バージョンがお披露目となった。

○iOS 17
 「電話」や「FaceTime」、「メッセージ」といったコミュニケーションに関するアプリを強化。iPhone同士を近づけるだけで連絡先が交換できる「NameDrop」や、手軽に日記が書ける「ジャーナル」アプリなどが紹介された。

 そのほかにもiPhoneを横向きに充電スタンドに置くと表示が切り替わる「StandBy」や、“ヘイSiri”と言わなくても“Siri”と呼びかけるだけの応答、「写真」のピープルで犬や猫もサポート、など新機能も追加される。

WWDC23結果 画像その3
コミュニケーション系のアプリが大幅にアップデートされ、よりパーソナルで直感的になったのがiOS 17の特徴だ。

 

○iPadOS 17
 iPhoneに搭載されているロック画面のカスタマイズ機能がiPadでも利用できるようになる。そのほかにもiPadの画面サイズを活かした「ヘルスケア」アプリの搭載や、フィールド内の識別や「メモ」アプリで管理しやすくなったPDFの作業など新機能の追加や今までの機能のアップデートが行われる。

WWDC23結果 画像その4
ロック画面のカスタマイズなど、これまでiOSなら使えるのにiPadOSではサポートしていなかった機能が追加される。

 

○次期macOSは「Sonoma」
 Macに搭載される次期OSの「Sonoma」が発表された。ちなみにmacOSはバージョン番号を使わずこのような呼び名が付いている。以前はTigerやLeopard、Mountain Lionなど猫科の名称を使っていたが、ネタ切れしたのか途中からカリフォルニアの地名に切り替わった。バージョン番号だとSonomaはmacOS 14になる。

 Sonomaでは、今まで通知センターに表示していたウィジェットがデスクトップにも配置できるようになる。ウィジェットの扱いがiPhoneやiPadと同じになったのだ。

 FaceTimeを初めZoomやWebexといったビデオ会議で、自分の姿を共有している資料の上にオーバーレイ表示できる。風船や紙ふぶき、ハートなどを映像に加えるリアクション機能も使えるようになる。

 Webブラウザの「Safari」ではプライベートブラウズが大幅にアップデートされてセキュリティ性がこれまで以上に向上する。

 仕事に関することだけではない。ゲームをプレイする際にCPUやGPUの優先性を高くしたり、Bluetoothのサンプリングレートを上げてコントローラの操作や音声の遅延を少なくするゲームモードが導入される。

 

WWDC23結果 画像その5
ウィジェットによるパーソナライズやSafariの機能強化、ビデオ会議の機能向上などのアップデートが行われる「macOS Sonoma」。

 

○watchOS 10
 『Apple Watch』のOSもバージョンアップする。どの文字盤からもデジタルクラウン(竜頭)を回すとスマートスタック化されたウィジェットが表示できるなどデザインや操作性を一新。これまでのミッキーマウス&ミニーマウスに加え、スヌーピー&ウッドストックの新しい文字盤も追加される。

 心のケアを行うメンタルヘルスや日光の下で過ごした時間を測定することで視覚の健康にメリットをもたらす機能などを追加。ハイキングやサイクリングに関する機能も搭載される。

WWDC23結果 画像その6
登場以来、最大のアップデートになる今回のwatchOS 10。設計し直されたアプリやスマートスタック、文字盤、サイクリングとハイキング。心の健康など新機能が提供される。

○オーディオ&ホーム
 周囲の状況に応じて外部音取り込みとノイズリダクションを上手に組み合わせる「Adaptive Audio(適応型オーディオ)」機能の『AirPods Pro』(第2世代)への追加。Apple TVへのFaceTime導入(ZoomやWebexも年内にはサポート)などにも触れた。

 iOS 17をはじめiPadOS 17やwatchOS 10は同日、開発者向けのデベロッパーベータ版が公開。来月にはパブリックベータ版が提供される予定だ。正式版のリリースは今秋を予定している。今までの経験からすると9月ごろに登場する次のiPhone(iPhone 15シリーズ)と同時にiOS 17が公開されるはずだ。

今回の目玉は『Apple Vision Pro』!

 さて、ここまでは今までの「WWDC」でも繰り返されてきた新モデルと新OSの紹介だが、最も凄い発表が最後に待っていた。かつてスティーブ・ジョブスがこうした発表の席で『そうそう、もう1つあったんだ』と、とっておきの製品を発表した時に用いた“One moro thing”というフレーズと共に『Apple Vision Pro』が発表されたのだ。

 注目の新製品なので、すでに各所で取り上げられているし、詳細に関してはキーノートスピーチやAppleのサイトをみてもらった方が一目瞭然なので、ここでは『Apple Vision Pro』の何が凄いのか、登場した意義を語ってみたい。

 Appleにとって『Apple Vision Pro』は、これまでにないまったく新しいジャンルの製品だ。噂どおり仮想現実(VR)と拡張現実(AR)を組み合わせた複合現実(MR)を利用できるヘッドセットだが、あえてAppleはその単語を使わず「空間コンピュータ」と呼んでいる。Apple曰く『デジタルコンテンツを現実の世界とシームレスに融合しながら、実世界や周囲の人とのつながりを保つことができる革新的な空間コンピュータ』となる存在が『Apple Vision Pro』なのだ。

WWDC23結果 画像その7
本体をバンドで固定する既存のVRゴーグルと同じスタイルだが随所にAppleらしいデザインや素材を使用している。バッテリは外付けで2時間の駆動が可能。Macと繋げて使えば2時間以上の利用も可能だ。

 

 正直、こうしたヘッドセットはメタの「Quest」シリーズやマイクロソフトの『HoloLens 2』など、今までも同様の製品が存在している。しかし『Apple Vision Pro』が違うのは、Appleが提唱する空間コンピュータを実現するために、一切の手抜きなしで製品を仕上げてきたことだ。

 例えば正面からの写真に装着している人の目が映っているが、実はこれはゴーグル越しに透けて見えているのではなく、あらかじめスキャンした利用者の顔データからリアルなアバターを作成して、それを前面に搭載したディスプレイに映しているのだ。利用者が『Apple Vision Pro』越しに外の様子が見えている時は目を映し、仮想世界に没入している時は別のイメージを映すことで周囲の人も状況がわかるようにしている。作成したアバターのおかげで、ビデオチャットを利用しても相手に『Apple Vision Pro』をかけていない姿を映し出してくれる。

WWDC23結果 画像その8
前面ガラスの奥に搭載したディスプレイに利用者の顔の一部を投影することで、「Apple Vision Proをしていますが周囲は見えています」と周囲に知らせている。

 

 周囲の様子を『Apple Vision Pro』内に映すためのカメラもオマケ的なものではなく高画質のものを使用している。ミラーレスカメラのビューファインダー越しに被写体を見ているのと同じような高画質を提供するのだろう。現行のVRゴーグルにも外部を映す機能はあるが、画質が荒かったりモノクロだったりと、あくまでも周囲を確認するための簡易的なものだ。

 『Apple Vision Pro』内のディスプレイ部分もカスタムマイクロOLEDディスプレイを採用。それぞれの目に4Kテレビよりも多くのピクセルを提供する。『Apple Vision Pro』では肉眼で見ている時と同じ体感ができるよう、こうした部分にも手を抜かず仕上げてきたのだろう。

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『Apple Vision Pro』の正面には周囲の様子を検知するLiDARセンサーやTrueDepthカメラに加え、目の前や手元をを捉える下方カメラ、サイドカメラを搭載している。
WWDC23結果 画像その10
『Apple Vision Pro』の内側に搭載したLEDとIR カメラで視線の動きを追跡する。メガネを使用しているユーザ向けに光学メーカーのZEISSから視度矯正レンズが用意される予定だ。

 

 VRゴーグルではお馴染みのコントローラがないのも『Apple Vision Pro』の特徴だ。視線を動かすだけでアイコンやボタンが選択でき、2本の指同士を閉じることでタップ(クリック)操作になる。文字入力も音声で行える。目と手と声を使ってコントロールできるのだ。最初にiPhoneを発表した時、『せっかく指という入力デバイスがあるんだから』とスタイラスペンを突っぱねたスティーブ・ジョブスの言葉を思い出した。

WWDC23結果 画像その11
手や指の動きも下方カメラで捉えてくれるので、目の前に上げなくても自然な姿勢のまま操作ができる。

 

 こうして、こだわり抜いて惜しみなく高性能な部品を採用したためか、『Apple Vision Pro』の価格はなんと3,499ドルもする。現在のレートで単純に換算しても48万円を超える高価格だ。この値段だけ見て『Apple Vision Proは失敗』とか『一般向けではない』といった批判もあるが、答えを出すのはまだ早い。

 もし『Apple Vision Pro』が他の製品と似たり寄ったりの性能だったら、単にゲームやコンテンツ視聴を楽しんだりPCの画面を映しだしてVRデスクトップが利用できる、Appleが作った高価なデバイスになってしまう。「空間コンピュータ」として新たなジャンルを開拓していくには、リファレンスマシンとなる存在が必要なのだ。

 それには現状で考えられる最高の性能や使い勝手を提供できる製品でなくてはならない。こうした高いスペックで世に出すことで、開発者が『Apple Vision Pro』ならではのアプリや使い方を生み出す可能性が高まる。これから来年の販売まで時間をかけてじっくり練り上げていこうというのがこのタイミングで発表した意図であり、今回の『Apple Vision Pro』の使命なのだと思う。

日本で入手できるのは2024年後半?

 いますぐにでも体験したい『Apple Vision Pro』だが、米国では来年初旬より、その他の国や地域では来年の後半から販売開始を予定している。残念ながら日本で入手できるのは1年上先になりそうだ。

 iPhoneも最初は『こんなのは使えない』とか『携帯電話に置き換わる存在ではない』と言われていたものが、いまや生活に不可欠な存在になった。『Apple Vision Pro』もこれから空間コンピュータという新たなステージを開拓していくだろう。

『Apple Vision Pro』は、iPhoneのように誰でも持てる一般的な製品には直ぐにはなれない。名称からProが取れたコンシューマ向けのApple Visionが世間に広まり、『そういえば昔はスマホの小さい画面を覗き込んでいろいろ操作してたね』とか『パソコンに何台もディスプレイを繋げてたっけ』と懐かしむ時代が必ず来るはずだ。そこまでの進化を見守りたい。

◎参考情報
米国AppleのApple Vision Proのページ
https://www.apple.com/apple-vision-pro/

Appleのイベント WWDC23
https://www.apple.com/jp/apple-events/

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