有名YouTuber事務所参入と「推し活ガイドライン」の発出。新旧勢力の動きに見るVTuber業界の”広がり”

新旧勢力の動きに見るVTuberの”広がり”

有名YouTube事務所もVTuber業界に参入

 2023年は様々な事業体がVTuber業界への参入・強化を進めている。設立ペースは黎明期と言われる2018年を彷彿とさせるほどだ。設立件数を計上しているわけではないのにそのような空気を感じるのは、ビッグネームの参入が目立つからだろうか。

 5月18日に名乗りをあげたKiiiもその一つだ。先日「SUSURU TV」ともエージェント契約を締結した有名なYouTuber事務所が、「viiins」という名前のVTuber事務所を設立したのである。6月に1期生がデビューし、先駆けて声優の田中理恵、村瀬歩が公式アンバサダーに就任。イベントのほか、「オリジナルVキャラクター」の発表も予定されているとのことだ。

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 デビュー前から著名な声優も起用したプロモーションを仕掛けるなど、その戦略はまさに「大手感」がある。一方で、すでにYouTuberも多く所属している事務所が、あえていまVTuberにも乗り込もうという動きは興味深い。YouTuberを軸に展開してきた企業にとって、VTuberとはどのようなものなのか、いまどのような価値を見出しているのか、純粋に気になるところではある。

 興味深い点をもうひとつ挙げるとすれば、「Vtuberリユースプロジェクト」なるものを予定していることだ。日の目を見ずに終わるVキャラクターに新たな人生を与えるという、現段階ではまだ抽象的なプロジェクトだ。事務所設立前に頓挫し活用されなくなったアバターを用いるのか、それとも引退済みのVTuberのアバターを再利用するのか……詳細を待ちたいところだが、この内容次第でKiiiのVTuberに対するスタンスが見えてくるかもしれない。

ホロライブのファン活動啓発が意味するところ

 一方、2018年から走り続けてきたVTuber事務所「ホロライブ」は、「サポーターガイドライン」なるものを発表した。耳慣れない言葉とともに提示されたのは、ファンに対するタレント応援の指針だ。タレントが失敗しても応援し、見守り、他者の価値観や考え方を尊重してほしい――といったことを、啓発するメッセージが投げかけられている。

 正直なところ、自分は「ここまで言わねばならないのか」と驚いた。タレント、というよりかはネットでの他者への触れ方として、基本的な内容であるように感じたからだ。こうした声明がオフィシャルに発せられたことに、「ホロライブ」が現在置かれている状況を察する。

 一方で、こうした考え方が当たり前ではない人がいるのも一理ある。ネット文化に触れて間もない人――特に若年層にとっては、こうしたメッセージは純粋な教育・啓発として作用する可能性がある。インターネットは万人へ普及したが、求められるリテラシーは万人が獲得しているとは言えない状況のなか、「誰もが知るタレント」からこうしたメッセージを発する意義は大きいだろう。届くべき人にこのガイドラインが届くことを願いたいものだ。

メタバース業界に資金調達の動き

 メタバース業界ではこまごまとした、しかし注視しておくべきニュースが続いた。

 まず、国産メタバース『cluster』を提供するクラスター株式会社が52億円の資金調達を実施した。これまで14億円の資金調達を実施した同社は、今回で累計調達額が66億円に達する。今回得られた資金は、「海外展開や法人・クリエイターにclusterを活用してもらうサービスを展開する子会社設立」と「教育分野」への進出に充てられるとのことだ。

 日本生まれのメタバースである「cluster」は、とりわけイベント利用に強い。個人主催イベントから法人イベントまで数多くのイベントが実施され、資金調達プレスリリースでは累計動員数が2023年1月時点で2,000万人を突破したことも明かした。今後は海外展開なども仕掛けることで、より多くのイベントニーズを拾い上げていくことも可能だろう。まずは子会社設立に注目したい。

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 『Fortnite』でのメタバースコンテスト制作に長けた株式会社NEIGHBORも、J-KISS型新株予約権の発行による、追加資金調達を実施した。とにかく人口の多い『Fortnite』に特化した同スタジオは、これまでも様々なIPとタイアップした『Fortnite』マップを手掛けている。今回の調達資金は、『Fortnite』上でのメタバース都市の構築に充てられるとのことで、今後の動向にも注目しておいて損はないだろう。

Introducing the Creator Economy | VRChat Dev Update

 一方、『VRChat』はにわかに「クリエイターエコノミー」の構築へ乗り出し始めた。まずはユーザーのグループ管理ができる機能にマネタイズ機能を追加し、「グループ支援者への特典付与」が行えるような体制を整えるとのことだ。ワールド内の限定エリアへのアクセス、支援者向けのVIPイベントの開催……まだ構想段階とはいえ、様々な使い道が考えられる。

 ユーザー数やコミュニティの熱量が抜きん出る『VRChat』では、これまでプラットフォーム内での決済ができないという、厄介な欠点があった。クリエイターやパフォーマーへの支援やアイテム購入などは、『Patreon』や『BOOTH』などの外部サービスに依存しているのが現状だ。この問題が解決されれば、『VRChat』の中にも経済圏が生まれる可能性がある。そこから育まれる未来が良いものなのか、あるいは悪いものなのかは不透明だが、プラットフォーム発展の大きな一歩になることは間違いないだろう。

グリーがVTuberマネジメント事業を会社化した理由 代表に聞く“シーンに感じた可能性”

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