音楽&音声は脳にどのような影響を与える? 脳科学者が注目する“主観の世界”と“デフォルトモードネットワーク”
脳科学的に音楽を探究することに価値がある
――脳科学の観点から、日常のシーン別に適切な音楽のジャンルがあればお聞きしたいです。
田中:これは人によってかなり違いますよね。少し視点を変えて話すと、病院の手術室で手術中に音楽を流すことがよくあるそうです。オペ中はモーツァルトの静かな室内楽が合いそうな気がしますが、アメリカの病院ではロックを選ぶ医師もいるみたいですね。
私自身も大学の講義中に、小さい音でクラシック音楽を流すという実験を行ったことがあります。BGMを流して集中できるか否かを確かめるため、声楽(オペラ)や弦楽器など、いろんなジャンルのものをかけましたが、一番良かったのはショパンのピアノ曲「ノクターン」でした。たくさんあるので、ずっと流していても大丈夫でした。
日常でも、リラックス効果を得るためにBGMを流すことはよくありますよね。曲の選択は人によって異なりますが、副交感神経が活性化するような曲をなんとなく選んでいるのでしょう。アルファ波が出る音楽というのも同様の効果です。「アルファ波が出る曲と、そうでない曲の違いはなにか」という問いに関しては、これも人によって異なるので、一概には答えは出せないと思います。
音楽の反応は「主観」によるもので、私はそれで良いと考えています。その主観の世界を「脳科学的に探究することにより価値がある」というのが自分自身の考えです。最近では小説をよく読むようにしていて、作者が主観の世界を言語化しようと試みているのが、すごく研究のヒントになっていて、刺激を受けているんです。
――昨今、オーディオドラマやポッドキャストなど“音声”に注目が集まっています。Spotifyのレポートには、いわゆる「ニューロマーケティング」の可能性が提示されていますが、有識者の立場からデジタル音声の広告はどのように捉えているのでしょうか。
田中:人間は、音声に対して特別な感覚を持っています。赤ちゃんが母親の声を聴くことから始まって、生きていくうえで、ほかの音より重要な情報を持っていることが多く、人間の聴覚系は音声に対する反応性が高いのです。
先ほど私の講義で声楽曲を流すことが結果的に良くなかったのは、たとえ小さい音であっても聴き流すことができず、学生の聴覚系が反応してしまうからです。当然、ニューロマーケティングの観点からも音声は効果的ではありますが、上手に使う必要があると考えています。音声であふれる環境は心が休まらない場合もあるため、快適な環境を創っていくことが大切だと思います。
近年では心地よい声の研究も進んでいますので、脳科学と絡めたニューロマーケティングを実践するといいのではないでしょうか。私自身も、好きな声とそうでない声というのはよく意識に上がります。ちなみに自分の声は、ほとんどの人が嫌いだそうです。声の好き嫌いは売り上げにかなり影響するのではないでしょうか。
――最後に今後の活動における展望について教えてください。
講演や研究発表を行うと、毎回多くの脳に関する熱心な質問をいただき、その質疑応答が本当にエキサイティングに感じています。正直、まだ研究が行われていなくて答えられない質問も結構ありますが、これまでに行ってきたたくさんの実験結果を紹介しながら説明しています。
現在、私は音楽関係では日本声楽発声学会と日本音楽表現学会という2つの学会の会員です。これらは音楽家で構成される音楽家のための学会ですが、脳科学の重要性を認識されていて、これからは脳科学も必要とのことでお声がけいただき、それぞれ理事と編集委員をしています。
今後も、しばらくは音楽家や音楽愛好家の方々との対話を続けていくつもりです。音楽と脳科学という異なる考え方と歴史をもっている分野が出会うわけですから、やはり対話が重要だと思っていて、もっといろんな方と話していきたいですね。
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