テレビとSNSで“ギスギスしない笑い”を広く届けるためにーー『有吉の壁』など手がける橋本和明 × 伊吹が語り合う「飽くなき探究心」

切り抜き動画が3700万(※)再生超! 『名アシスト有吉』成功の秘訣は?

(※リアルサウンド調べ)

伊吹(伊吹とよへ)

――そういった考え方をするにあたっては、やはりクリエイターがストレスなく創作ができる、という環境も必要かと思います。伊吹さんは、クリエイターでありながら、QREATIONの取締役という立場にもなったわけですが、そのあたりの視点についてはいかがでしょう。

伊吹:取締役をやらせていただいているのは、やっぱりクリエイターの気持ちが分かるからだと思います。企業はどうしてもビジネスとして利益のことを考えなければならないから、クライアント重視になってしまうところもあるんです。だからこそ、どちらの立場も理解できる僕は、クリエイターファーストでありたいと思っています。

――SNSを主戦場として活躍される伊吹さんにとって、テレビはどのような存在ですか?

伊吹:テレビ番組は、SNSクリエイターと比べて制作費を莫大に使えるので、ぶっ飛んだ企画もやることができるんですよね。なので、僕たちでは考えもつかないアイデアを、思いつくことができる。だから今までは、テレビの存在が大きくて、SNSは小さいものだと思っていました。でも、最近はもう変わらないな、とも思っています。これからはもっと垣根がなくなっていくんじゃないかな。

橋本:そうなっていかないように、テレビはもっと頑張っていかないといけないですよね。テレビでも戦っている人間としては、テレビが面白くあってほしいという気持ちは変わらないので。やっぱり、シンプルに映像作りの原点に立ち返る時なんでしょうね。何が見せたいコンテンツなのかを徹底的に考え抜いて作る。テレビのプロデューサーやディレクターも、もっと外部の人とたくさん話をした方がいいと思っています。そのことで今の時代、若い人にも見せたいものがクリアになっていくのかなって。テレビはまだまだ進化する余地が残っているし、そこも考えていきたいです。「気づいたら6時間もTikTok見ちゃってた!」なんて生活は、44歳のおじさんにはもう無理なんで(笑)。

伊吹(伊吹とよへ)、橋本和明

――橋本さんが退社後に手がけた『名アシスト有吉』(Netflix)は、反響がすごかったですよね。

橋本:挑戦的な試みでしたね。Netflixの方々に楽しい機会をいただけて。「配信だからといって、高級な料理ばかり並んでいるのはもったいない」と思っていて。おしゃれをして高級フレンチを食べに行きたい時もあるけど、家でジャージでカツ丼食べたい時もあるじゃないですか。疲れた時に気軽な気持ちで見られる映像があってもいいんじゃないかと。それを、Netflixの方々が面白がってくださって。すごい度量ですよ(笑)。本当に自由に楽しく作らせてもらいました。

ーー伊吹さんも同番組のTikTok告知動画に出演されていましたね。

伊吹:そうですね!TikTokLIVEとショート動画で、芸人さんたちがやっていたのと同じ企画(足ツボ長縄跳びや酢うどん全食い)に挑戦して。本家を超えられるか必死でした(笑)。

橋本:SNSは伊吹くんの主戦場なので、どうやったら若い世代にも楽しんでもらえるか、沢山意見をもらって一緒に作らせてもらいました。

伊吹:Netflixが公式SNSアカウントで本編映像の数十本の切り抜き(※1)に取り組まれたことに驚きましたね。作品ごとに、各SNSプラットフォームのオーディエンスを意識した作品の視聴きっかけ作りや、作品をオーディエンスと一緒に楽しむための宣伝の取り組みを細かく企画されていて。TikTok LIVEの配信では同接8000人を超え、切り抜き動画も1本あたり50万再生を超えていますので、番組をSNSを通じて一緒に楽しんだ感覚があります。SNS×配信サービスの可能性をすごく感じましたし、SNS×テレビが持つ今後の可能性についても考えさせられました。いろんな連携の仕方がこれから生まれてくるんだろうなと。人々が一つのコンテンツを様々なプラットフォームを横断しながら楽しむ時代が来るんでしょうね。

伊吹(伊吹とよへ)

(※1)切り抜き……動画の一部を“切り抜いて”動画投稿サイトなどに投稿されるショート動画。テレビ番組や配信番組・アニメなどの切り抜きを一般SNSユーザーが行うことは著作権的にNGであり、制作者にも好まれないケースが多い。今回の例のようにプラットフォーム自体が数多くの切り抜き動画を出すことは珍しい。

――今回のTikTokコンテンツにおいて、とくに意識されたことはあったのでしょうか。

伊吹:やっぱり、ギャップは大事だなと思いました。人間誰しも、ビフォーアフターが好きなんですよ。すっぴんからメイクしたらこんなに変わったとか。ギャップを意識した動画は、再生回数が取れることが多い。だから今回も、かわいい動画が人気の女性クリエイターが竹筒に流れてくる酢うどんを一気に食べてむせちゃうとか、普段は見られないみなさんの意外な一面やギャップに重きを置いたコンテンツ作りを意識しました。

――では、最後に。おふたりの今後の目標を教えてください。

伊吹:YouTuberさんの間で、コント的な作りこんだコンテンツがウケる流れがきていますよね。『ぐるナイ』(日本テレビ系)の「ゴチになります!」のパロディがあったりと、どんどん作りこむ方向になっていて。僕は個人的に、ザ・ドリフターズのようなものをやってみたいなと目論んでおります。

橋本:伊吹とよへがやるライブ感あるコントは面白そう(笑)! 笑いだって、今の時代だからできる、SNSだからできる新しい発明が生まれてくると、面白いですよね。バラエティは本来、時代にあわせてどんどん形を変えていくものなので。誰もが面白いコンテンツを発信できるようになった今こそ、個人がとんでもないコンテンツを作って、バラエティの文法が変わるかもしれない。コンテンツの大小問わずに、強度があるものが熱狂的な支持を受けるようになってきています。そんなバラエティの転換期にせっかく生きているわけですから、そうやって時代が移り変わる様子を伊吹くんのような人と最前列で見てみたいと思っています。それがQREATIONに入った理由ですね。僕はテレビが作ってきた歴史を踏まえて、その良さを活かしつつ、後に続く後輩のためにも、新しい映像文化を作っていけるように頑張ります。

橋本和明

関連記事