じっくり読みたい車メーカートリビア  「4つのリングの意味って知ってた?」100年を生きる老舗ブランド、アウディの電動化戦略

 いまは100年に一度の大変革期といわれる自動車産業。その要因のひとつに燃料の変化があげられる。脱炭素化のひとつの手段とされる自動車の電動化、すなわちEVの普及だ。ではEVってどのような特長があるのか。まさにその100年の歴史を生き抜いてきた、アウディについての歴史や最先端の電動化戦略をご紹介しよう。

聴くというラテン語が社名になった100年企業

 アウディといえばドイツの老舗自動車メーカーで創業者はアウグスト•ホルヒ。当時のダイムラー社でエンジニアをしていた彼がダイムラー社から独立し、1899年にホルヒ社を設立したことに始まる。だが彼は創業者ではあったが、当時の経営陣と対立していき、10年後には自社から放逐されてしまう。

 しかし、彼はその後にアウディ社を創設、再び車作りに乗りだすこととなる。ちなみに、社名の由来はホルヒというドイツ語が”聴く”という意味で、それをラテン語に変換した「アウディ」となったのだ。

 紆余曲折を経て、第一次世界大戦後の1932年にはアウディ、ホルヒ、DKW、ヴァンダラーの4社が連合するメーカー、「Auto Union」として再出発。今も使われる4つの輪のブランドロゴ(シルバーフォーリングス)はこの4社を表すものだ。

 技術者が設立したDNAは健在で「技術による先進」をブランドポリシーに掲げてきており、フルタイム4輪駆動システム『クワトロ』はあまりにも有名。世界中に輸出している車だけでなく、関連技術の向上にも熱心だ。最近では環境対策をテーマに掲げており、他のメーカーに先駆けてブリュッセル(ベルギー)をはじめとする主要3工場はカーボンニュートラルをいち早く達成している。

資源循環型のクルマ社会を目指す

 自動車の生産、使用、廃棄の流れでSDGsの観点からすると部品の再利用があげられる。もちろんこれは世界中のメーカーが行っていることだが、アウディで例えるならば『Q4 e-Tron』のガラスは再生品だし、ドイツ本国で活用が始まった自宅に充電設備のないオーナー向けの充電ステーションに使われるリチウムイオン電池は開発や実験で使ったものだという。

 また同社のブランドビジョンである「Future is an Attitude(未来は 考え方ひとつ)」を通じ、CO2の排出や地球温暖化など持続可能な社会の実現の重要性について、一人ひとりが考えるきっかけの場を作って行くことを目的とする「アウディ•サスティナブル•フューチャー•ツアー」を日本で展開。

 どこにでもあって、枯渇せず、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーを積極的に活用している自治体を『e-tron』で巡る同ツアーは、山林で発生する間伐材や製材所で排出される端材を業者より買い取り、施設内の集積所で木質チップにされた後、バイオマス発電に活用の岡山県真庭市や日本で初めて地熱発電の商業運転を開始した岩手県八幡平市に足を運んでいる。

車メーカーが目指すEVもさまざま

 モーターでクルマを動かすモデルは意外に多い。例えばトヨタ•プリウスでお馴染みのハイブリッドカー(HEV)や日産•ノートのeパワー(HEV)、水素を燃料に使うトヨタ•ミライ(FCEV)も同様だ。モーターでクルマを動かすのは同じでも、実はそれぞれ仕組みが異なる。プリウスはスプリット方式やシリーズパラレル方式と言われ、エンジンは駆動も発電も受け持つ。家庭のコンセントなど外部電源からバッテリーに充電出来るプラグインハイブリッド(PHEV)も同じだ。

 ノートのそれはシリーズ方式と呼ばれエンジンは発電に徹し、駆動はモーターのみ。ミライは水素と酸素を化学反応させ電気を作り、モーターを動かす。最近ではエンジンがメインでありながらモーターがアシストするいわゆるマイルドハイブリッド(パラレル方式)も増えている。そして電気を蓄えたバッテリーでモーターを動かすのがいわゆるEV(BEV)だ。アウディはそのBEVを積極的に推進している。

 駆動バッテリーの電圧はメーカーやクルマによって異なるが、約400Vから800V。そしてこの駆動バッテリーは大変な重量物でもある。その重さはおよそ700kg前後。バッテリー自体の重さもあるが万が一の衝突時に備え、例えるならば堅牢な鎧で覆っているから。重量物は極力下に置いた方が走りにはプラスになる。

 そこでEVは床下に上記のバッテリーを敷き詰めているのだ。ちなみに多くのバッテリーを搭載するためには専用のシャーシがあると有利。すると前後輪の間隔が大きく開き、広い車内を実現できるデザインやパッケージ面のメリットもある。例えば下記の画像はQ4 e-tronの後席だが、足元スペースはかなり広い。もしEVなのに後席のセンタートンネルがあるのならばそれはEV専用のシャシーではないとも言える。

 なお、EVの走りの特徴はモーターによって動き出す瞬間からトルクを感じられ、素早いレスポンスを体感できること。巡航中は余分な振動もなく高い静粛性があげられる。そして「回生ブレーキ」も忘れてはならない。減速時のタイヤの転がりを電気に変えるものだ。分かりやすく例えると、昔の自転車のダイナモライトである。前輪に接したタイヤの回転力(抵抗)でライトが着く。その抵抗が回生ブレーキと同じ考え。

 クルマの減速を使って電力を回収するのが回生ブレーキで、今はその度合い(ブレーキの効き具合)を調整できるモデルも増えてきている。もちろん、回生ブレーキの他に通常のパッドで挟むブレーキも使用するのだが、その介入時の違和感も少なくなってきている。走りを楽しみながら電力を無駄にしない技術も確実に進化している。

EVの宿命的な課題をどうクリアしていくか

 ただ、環境にもデザインにもありがたいEVだが万能ではなく、課題もかかえている。そう、「充電」だ。例えば50kWhのバッテリーを積むクルマに100kW出力の充電器なら理論上は30分で済む。しかし50kW出力の充電器からチャージした場合、満充電に必要な時間は1時間。倍もかかってしまう。またバッテリーの性質上、実質100%まで充電したり、充電残量10%以下の低い電圧状態にしたりすると性能が著しく低下する。これを踏まえて、世界中のメーカーはおよそ8%(メーター表示は0%)-96%(メーター表示は100%)の範囲でバッテリーを使っている。実際に使えるバッテリー量や充電時間を考えるとこまめに充電できるスポットや、急速・大容量充電の拡充がほしい所だ。

 そこで、アウディは電動化戦略として販売店の充電ネットワーク強化を掲げる。「ウルトラチャージャー」と呼ばれるそれは150kW(定格総出力180kW)のパフォーマンスを持つ充電器だ。

 これを2023年までに全国102拠点、102基を拡充予定(2022年末現在は52拠点52基)。このほかポルシェやVWといったディーラーネットワークで90-150kWのプレミアムチャージアライアンスを利用すれば全国210拠点222基の高速充電器が使えるように整備している。この他、移動中ではなく時間をかけての充電ができるようなシーン、例えばホテルでの宿泊やゴルフ場など滞在中用にも普通充電器によるアウディ独自のデスティネーションチャージャーネットワークを構築中だという。常に車の歴史とともに歩んできたアウディのEV化戦略にこれからも注目していきたい。

◎参考情報
アウディ
https://www.audi.co.jp/jp/web/ja.htm

アウディ初の旗艦的クロスオーバー 『Q8e-tron』『Q8Sportback』はクーペとワゴンの良いとこ取り?

アウディ初のEVモデル『e-tron/e-tron Sportback』が今回大幅にアップデートされた。その後継モデルにはアウデ…

関連記事