VRファッションデザイナー・アルティメットゆいに聞く、“メタバースの服がまとう魅力” 「頭で思い描いたものがストレートに表現できる」
ソーシャルVRの世界には、ユーザーが使うアバターや、その“衣装”を販売する人がいる。「アバターの衣装?」と思う方もいるかもしれない。しかし、ユーザーが主に取引しているサイトBOOTHでの3Dモデルのカテゴリは、年間24億円の取引高を記録しており、その規模は年々上昇傾向にある。そしてその衣装こそ、アバターの人気には必要不可欠で、切っても切り離せない重要なアイテムなのだ。
『VRChat』の最新ファッション事情を読み解く 進む「クリエイターと企業の共創」
24億円。この数字は『VRChat』ユーザーがアバターをカスタマイズする際に購入しているサイト「BOOTH」での3Dモデルカテゴ…
以前執筆したコラムでも紹介したように、アバターと衣装は、ゲーム機とゲームソフトのような関係性をもっている。対応した衣装が増えれば増えるほど、アバターはユーザーから選ばれて、そして人気のアバターに向けた衣装を作る人が増える、といったような好循環に入りやすくなる。そのため、アバター制作者側から、衣装の制作者に制作を依頼したり、既存の衣装を自身のアバターに対応させられないかお願いしたりするほどである。
今回は、そんなソーシャルVRの衣装、アバターファッションに携わるクリエイターの一人であるアルティメットゆい氏にインタビューを実施。アバターファッションとの出会いや、氏が手がけるブランド「EXTENSION CLOTHING」を始めた理由や、衣装制作の魅力について掘り下げた。(東雲りん)
服作りとの出会いは、友人からプレゼントされた『世界に1個だけ』のアイテム
ーーまずは、自己紹介からお願いいたします。
アルティメットゆい:アルティメットゆいと申します。「EXTENSION CLOTHING」のオーナー、モデリング、デザイナーをしています。よろしくお願いします。
ーーありがとうございます。『VRChat』を始められたのにはどんなきっかけがあったんでしょうか?
アルティメットゆい:2年ほど前に、VRゲームで遊びたくてMeta『Quest 2』を購入したのがきっかけです。まずは無料のゲームを探そうと思ったところで、たまたま『VRChat』を見つけて。なので、最初から『VRChat』のことを知っていたわけではなかったんです。
ーー自分でいちから衣装を作ろうと思った動機を教えてください。
アルティメットゆい:もともと、アバターのカスタマイズ、いわゆる“アバター改変”をして、それを利用していたんです。けれど、自分の欲しい服が「BOOTH」に売っていなかったんですよね。それで「1回自分で作ってみよう」と『Blender』(3Dモデリング用のソフトウェア)を触ってみたのですが……難しくて挫折してしまったんです。
でもその後、友達がワンオフのアクセサリーをプレゼントしてくれて。それまで私が利用していたBOOTHで購入していた洋服にはない、「世界に1個だけ」というアイテムに感動したんですよ。それをきっかけにまた『Blender』を触りはじめて、まずはアクセサリーから自分の欲しいアイテムを作り始めました。なので、「EXTENSION CLOTHING」では、「アルティメットゆいが欲しいアイテム」を中心に製作しています。
ーーアイテム製作を始める以前から、3DCGには触れていらっしゃったんですか?
アルティメットゆい:そうですね。『Blender』を使ったことはありませんでしたが、Adobe『After Effects』やMAXON『Cinema 4D』などで3DCGを製作したことはありました。とはいえ、衣装を中心にというわけではなく、映像に使うためのロゴ製作のために使っていた感じですね。
ーーアルティメットゆいさんにとって、アバターを使ったファッションの魅力はどういったところにあるんでしょうか?
アルティメットゆい:現実では着れない服を着れたり、作れたりすることだと思います。リアル(現実)だと作るのが大変な服でも、VRだと頭で思い描いたものがストレートに表現できるんです。
あとは、ファッションのデザインとして「派手すぎるんじゃないか」「肌面積が多すぎるんじゃないか」という部分を気にする必要がないところも好きですね。体型も気にしなくてもいいですし、顔も整っているので少々派手でも様になるんですよね。
ーーたしかに、お店にあるマネキンのような感じで、何を着せても服が輝きますよね。
アルティメットゆい:なので「この服を着たらどうなるだろう」みたいなことを考えるのが結構楽しみになっちゃって、アバター改変や製作が楽しくなるわけです。
ーー“リアルで作るのが大変な服”というお話が先ほどありましたが、アルティメットゆいさんはリアルで服を作られた経験もおありなんですか?
アルティメットゆい:少しだけあります。もともと、リアルでアパレルブランドがやりたかったんですよ。知り合いにもアパレルブランドを手がけている方が多かったので、色々と話を聞きながら「もう少しでオープンできる」というところまで準備していたら、コロナ禍になって。それで計画がストップしてしまいました。
ーーその頃の知見が、いまのアルティメットゆいさん、ひいては「EXTENSION CLOTHING」に生かされているんですね。
アルティメットゆい:そうなります。とはいえ、まさかこういう形になるとは思いませんでしたね。
萌芽しつつある“アバターの個性” 「リアルと同じように体型に応じて似合う服と似合わない服が出てくる」
ーーリアルの衣服とアバターの衣装製作を両方やられてみて、どんな違いがありましたか?
アルティメットゆい:違いばかりですね。アバターの衣装は結構物理法則に反していても大丈夫なんです。たとえばスカートなんですけれども、重力が無いので、常にかわいい形をキープできて、しなって形が崩れたりしないんですよ。
ーー常に理想の形にキープできるのは、デザイン的には結構大きなことですね。
アルティメットゆい:そうですね。でも、シルエットという面で考えると、アバターの体型に依存するところもあります。
というのも、少し前のアバターと今のアバターでは体型のトレンドが変わってきているんですよ。最近のアバターは、足が太くて肉付きのいいものが多くなっていて。そうすると、使うアバターによってはバランスが気になることもあるので、服のサイズを変えたりしますね。そうなってくると、やはりリアルと同じように体型に応じて似合う服と似合わない服が出てくるというのはありますね。
ーー近年、アバターファッションの市場規模が右肩上がりに拡大していくなかで、リアルのアパレルを手がける企業が参入してくるケースも増えつつありますよね。アルティメットゆいさんのなかで、衣装製作のお仕事と趣味の割合はどの程度でしょう?
アルティメットゆい:半々ぐらいですね。好きでなかったらモデリングはしていないですし、服や小物を作るのも、休日の過ごし方の一つという感じです。
衣装を買う人が増えてきて、大きな収益をあげている方もいると思いますが、それをモチベーションにするかは人によると思います。服やアクセサリーなどを作るときに、たくさん売って多くの人に届けたいのか、自分の好きなものを作ってそれを売るかの違いですね。自分の場合は、もともと服が好きということもあって、こういう服があったら良いな、というのを考えたり、実際にそれを作ったりすること自体を楽しんでいる方です。
ーー最後に今後チャレンジしてみたいことがあれば教えてください。
アルティメットゆい:いま、イベントなどもも開催できるような形の店舗を『VRChat』上に作っていて、早ければ夏ごろにはお見せできるかなと思います。オープンした後は、色々とやってみたいことがたくさんあるので、今から楽しみにしています! 去年はひたすら作りたいものを作って、アイテムのラインナップを増やしていったのですが、今年はプラスアルファの要素として“服を面白くする”ような活動をできたらと思っています。
■関連リンク
「EXTENSION CLOTHING」(BOOTH)
アルティメットゆい公式Twitter
メタバースによって接近する“アバターとファッション” DJ RIO × awai(fale)が語り合う
毎回「メタバース×〇〇」をテーマに、様々なエンタメ・カルチャーに造詣の深い相手を招きながら、多面的な視点でメタバースに関する理解…