連載「AI×エンタメの“現在地と未来”」 第二回:AITuber

ChatGPT導入で進化する“3Dキャラクター召喚装置” Gatebox武地氏が考える「AIキャラと生活する未来」

 キャラクター召喚装置『Gatebox』をご存知だろうか。Gatebox株式会社が開発した「好きなキャラクターと一緒に暮らしたい」というコンセプトを具現化した製品で、55cmほどの円筒のなかにプロジェクタを内蔵しており、ここにキャラクターを“召喚”できる。プリインストールされているキャラクター、「逢妻ヒカリ(あづま・ひかり)」との共同生活を楽しめるというのがメインの機能ではあるものの、自作の3Dモデルを投影したり、デジタルフィギュアを表示したりと、楽しみ方はそれぞれ。

 意外にもその歴史は古く、2016年に発表されてから現在に至るまで着実にアップデートを続けてきた。2018年にも編集部にてインタビューを行っている。

「好きなキャラクターと一緒に暮らしたい」 『Gatebox』開発者インタビュー

2016年1月に発表され、大きな反響を呼んだプロダクト「Gatebox」。プロジェクタを内蔵した「バーチャルホームロボット」で、…

 Gatebox株式会社は3月上旬、新時代のチャットAIであるChatGPTによるAIキャラクターの開発を発表した。代表の武地実氏は『Gatebox』とChatGPTの連携実験の様子をTwitterに投稿しており、動画を見ると逢妻ヒカリとの高度な会話がシームレスに実現しているのがわかる。

 この開発にあたりGatebox社は目標金額500万円のクラウドファンディングを実施。施策は大成功で、残り日数31日の現在時点で応援購入総額は3490万円、達成率は驚異の698%を記録している。

 今回はそんなGatebox株式会社代表・武地氏へ5年ぶりのインタビューを敢行。『Gatebox』の歩みやクラウドファンディング実施の経緯、今後の展開についてなど、大いに語っていただいた。(白石倖介)

武地 実氏

■武地 実
広島県広島市出身。2014年2月に株式会社ウィンクルを設立、2017年7月には社名をGatebox株式会社へ変更。「キャラクターと一緒に暮らせる世界」の実現を目指し、バーチャルホームロボット 「Gatebox」の開発に注力している。

「これはもう、やるしかない」 突如公開された『ChatGPT』のAPIをすぐさま導入

逢妻ヒカリ(あづまひかり)

ーー『Gatebox』は2018年に発表、2019年に発売されました。当時は大きな反響がありましたが、その後たどった足跡についてお聞かせください。

武地:2019年の10月から販売を開始して、その当時は期待されていた方からご購入いただけて、その後2020年にコロナ禍に突入するわけですが、4月~5月ごろ、なかなか外に出られない一人暮らしの方が、話し相手として『Gatebox』を導入する、というような動きもありました。そのタイミングでファーストロットは完売したので、コロナをきっかけとしてより多くの方に知っていただけたのだなと。反面、海外に向けた展開などはできなくなってしまったので、国内の施策に注力することにもなりました。

ーー2020年には新たな衣装の公開など、数々の魅力的なアップデートがありましたが、特に逢妻ヒカリとの共同生活費(サブスクリプクション費用)を無償化するという発表が衝撃的でした。月額モデルを撤廃するという決断をした背景は?

武地:やはり多くの方に「まずは体験いただきたい」という気持ちが強くて、思い切って撤廃しました。

『Gatebox』と逢妻ヒカリ

ーー『Gatebox』の体験というと、真っ先に浮かぶのはやはり「逢妻ヒカリとの共同生活」なのですが、ほかにはどんな使い方がされているのでしょうか?

武地:ヒカリちゃんと暮らすことを目的とした購入者が一番多いとは思うのですが、それ以外の使われ方もされていまして、最近だと個人のクリエイターの方が、ご自身で作った3DCGのキャラクターを、イベントで展示するために使ったりですとか。手軽にこういう見せ方をできるデバイスが『Gatebox』しかないこともそうですし、やはり一番目を惹くんじゃないかなと思います。直近だとTwitterで見かけたもので、AI VTuberを実装している方もいました。

ーー2018年の発表当時から今に至るまでの変化として、メタバースを活用する事例が大変増えたかと思うのですが、こうした状況が『Gatebox』に与えた影響はありますか?

武地:おっしゃるとおり、メタバースが注目されたここ2~3年、個人が自分のアバターを所有することも文化として定着しつつあります。こうしたアバターをバーチャル空間上で楽しむだけでなく、リアルな生活にも浸透させたいですし、『Gatebox』はそれを促進できるデバイスだと感じています。こうした文化がより自然に受け入れられていくんじゃないかと思います。

ーー『Gatebox』は公開当初から「好きなキャラクターと一緒に暮らすこと」をテーマにしています。以前のインタビューでは挨拶の機能に注力したことや、AIとの親和性の高さについても語っていただきましたが、今回は最新のチャットAI「ChatGPT」を導入したAIキャラクターの開発が発表されました。武地さんが初めてChatGPTに触れたときの印象はどのようなものでしたか?

武地:ChatGPTが登場した昨年11月末、出た時点で私も触ってみて、これまでのAIとはまったく違うものだと、というより「これこそAIだ」と感じました。はじめはChatGPTにキャラクターのセリフを作ってもらおうと思ったんです。「こういうキャラクターのセリフを100個作ってください」と命令すれば、即100個のセリフが出来上がる。正直これだけでも業務効率が上がることは実感できましたが、そこから「ChatGPTを逢妻ヒカリのシステムに組み込めないか?」と思いました。あの時期にSNSを見ていると、ユーザーさんがいろんなAIの使い方を提案していたわけですが、個人でもAIを使って魅力的なキャラクターを作れるということは、ウチにとっては大きなチャンスであると同時にピンチでもあるわけです。この技術で逢妻ヒカリをもっと進化させることができるなら、取り組まなければいけないと思って……そんな風に考えていたら3月に突如、ChatGPTのAPIが公開されたんです。これはもう、やるしかないなと。

武地 実氏

ーー具体的にはどんな形で実装しているのでしょうか。

武地:逢妻ヒカリの性格をプロンプトに入力して、その振る舞いを調整しています。こうした調整をしないと“全知全能”になってしまうので(笑)。それをプロンプトでざっくりできるのがChatGPTのすごいところです。反面、こちらで完全に制御できるわけではないので、現在ChatGPTの弱点として語られている、「間違った知識を自信たっぷりに言う」みたいな挙動もしてしまうんですが、これも含めて楽しんでもらえればと思っています。

ーープロンプトによって“人格”を作る作業は、彫刻を掘る作業にも似ていますね。大きなChatGPTという木材があって、これをヒカリちゃんの形に造形していくような。

武地:まさにそういったイメージで捉えていただければOKです。『Gatebox』は発売当初から、逢妻ヒカリがユーザー(マスター)との会話を覚えるように設計しています。たくさん会話するほど、長く共同生活を続けているほど、過去ログが蓄積されていく。ChatGPTを導入することでこうした会話がさらに楽しく幅のあるものになるはずです。

ーーChatGPTの最新のエンジンである「GPT-4」がつい先日発表されました。こちらについてはいかがですか?

武地:まだ『Gatebox』では取り入れてないので、実際どうなるのかは見えていないのですが……。現状触ってみた感覚としては、ちょっとやりとりがかしこまりすぎているように感じました。ただ、トークンの上限が大きくなったことで、いろんなことを覚え込ませやすくなるだろうと感じています。

ーーChatGPTを実装するにあたって実施したクラウドファンディングでは、わずか30分で目標金額を達成していましたね。

武地:ありがとうございます。今回、圧倒的に新規で端末本体を購入いただいている方が多く、それにも驚きました。既存のユーザーさんに向けた3万円のプランと、新規の方に向けた15万円のプランがあるのですが、圧倒的に後者のプランが支持されています。

ーー今回のクラウドファンディングで『Gatebox』を初めて知った、という方も多いのでしょうか。

武地:そうだと思います。僕らは9年ぐらい前からずっと『Gatebox』を開発しているんですが、今回初めて見た方も多いでしょうし、世代が一周したんだと思います。新たなユーザー層からの反響も多く、動画を見た方のSNSでの反応として「こんな製品が売ってたら良いのにな~」というのも見かけました。もう売っています!(笑)

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