初代『メイド イン ワリオ』の独特なテイストから思い返す、“シュール味”を突き詰めようとしていた当時の「ワリオ」シリーズ

当時のワリオは“シュール味”を突き詰めようとしていた

 では、なぜ初代にはこんな“シュール味”が強く出ているのだろうか。それは考えるに、当時の『ワリオランド』シリーズの動向が影響したのだろう。

 初代『ワリオランド』は携帯ゲーム機『ゲームボーイ』向けのゲームとして誕生した。その後は一度『バーチャルボーイ』へと進出しつつも、『ゲームボーイ』を中心に続編を発売し続けた。

 『ゲームボーイ』時代の『ワリオランド』は、全体的に『スーパーマリオ』シリーズ寄りのコミカルファンタジー的なテイストと、システムもあくまでそれを継承したものだった。元々、マリオの主演作を奪う形で誕生した経緯と、ワリオ自身がいわゆる「マリオファミリー」の一員であることを踏まえれば、テイストやシステムが似るのは必然と言える。ただ、ゲームシステムの面においては主人公であるワリオが不死身(無敵)になった『ワリオランド2』から独自路線を走るようになり、徐々に脱却していった。

 反面、独自路線を走りだした頃も、世界観やキャラクターのテイストは、若干マリオに寄っていた。『ゲームボーイ』という、表現の面において制約のあるゲーム機だったという事情も大きいが、「マリオ系の作品である」というイメージは付いて回っていたのである。それでも『ワリオランド3 不思議なオルゴール』ではアメコミ調のキャラクターが一部登場するなど、イメージ面での脱却を図った痕跡はみられる。

 そして、『ゲームボーイカラー』から『ゲームボーイアドバンス』へと移るに当たり、イメージ面での脱却は本格化する。「今までのテイストを通せば、マリオとほぼ変わらなくなるのは確実」「では、マリオとは異なるワリオらしいテイストとはなにか……」と考えられたのか、次の『ワリオランドアドバンス ヨーキのお宝』(以下、ワリオランドアドバンス)では大きく路線が変わった。

 そこで示されたのが“シュール味”と“アメコミ感”だった。見た目はマリオ系の作品に登場するようなデザインだが、やたらと濃い絵柄のボスキャラクターが出てきたり、かと思えば可愛い雰囲気のステージが登場したり、ボーカル曲が流れる場所で敵に襲われる変わった展開が発生する。そうした“なんでもあり”の方向性を強化し、シリーズの作風を確立させたのが『ワリオランドアドバンス』だったのである。

 『メイド イン ワリオ』はそんな『ワリオランドアドバンス』に次ぐ時系列上の新作として発売されている。そうした路線変更を実施した作品が前身にあったからこそ、シュール味が強く出るに至ったのだと思われる。

 そうして登場した『メイド イン ワリオ』。とりわけ可愛い動物たちが登場する「プチゲーム」を中心に構成されつつも、やたら哀愁漂う演歌が楽曲として採用された「カット&アナ」ステージは、『ワリオランドアドバンス』の路線を最も強く継承していた部分だ。アメコミ感のあるキャラクターや、濃い絵柄のキャラクターが現れたりするのも『ワリオランドアドバンス』の影響といえるだろう。

 それから、音楽も全体的にシュール味が強い。この辺りは作曲担当のスタッフが『ワリオランドアドバンス』と同じであることや、一部同作からの楽曲が流用されていることも理由だ。

 結局、その後のシリーズを見れば明らかな通り、シュール味の強さは初代限りのものになった。音楽も、続編からは作曲担当のスタッフが変わったため、だいぶテイストが変わってしまっている。

 しかし、おかげで初代はシリーズが続編を多数重ねた2023年現在になっても独自の魅力を残し、ほかとは一線を画す味が楽しめる作品として存在感を残し続けている。

 加えて、筆者がプレイしたようにNintendo Switchを含め、これからどんな新しいゲーム機で遊べるようになっても、初代のプレイスタイルは一貫して変わることがない。十字キー(方向キー)、Aボタンがあれば、どんな形状をしていても遊べてしまうシンプルな操作性もまた、初代の大きな魅力と言えるだろう。

 その面でも、初代はこれから何十年先も遊ばれる強い名作と言っていいのかもしれない。逆に、以降のシリーズは奇抜な操作で遊ぶことを売りにしており、それゆえ復刻に関するハードルが高まっていきそうなのが不安なところだが……。

シュール味の強いワリオの帰還はあるのだろうか

 それにしても、初代を含めシュール味の強い『ワリオ』シリーズは、プレイした時に受ける印象の強さでも並外れていたように思う。その始まりとなった『ワリオランドアドバンス』は言わずもがなである。

 ダメージを与え続けると表情が大崩壊してしまうボスと言い、「時のCD」と呼ばれる音楽ディスクに収録された楽曲の訳の分からなさなど、『ワリオ』シリーズがマリオとは違う世界に突き進んでいこうという気概に溢れていた。

 初代『メイド イン ワリオ』も、BGMに演歌が流れたり、実写グラフィック主体で構成された「Dr.クライゴア」ステージではところどころで奇声のような効果音が流れたり、あるいは各種ミニゲームのタイトル画面が無駄に凝っていたりと、そのシュール味が際立っている。

 その後、シュール味を継承したワリオのゲームでは、『ニンテンドーゲームキューブ』向けに発売された『ワリオワールド』がある。グラフィックの見た目こそ、3Dのマリオを踏襲しているが、あくまでもそれは序盤だけ。

 中盤からは明らかに「マリオ」シリーズで出てくるはずがない、リアル調なデザインのボスが現れたり、顔はコミカルなのに体の一部分だけ異様に生々しく描かれた巨大な蜘蛛が出るなど、シュール味を感じさせる要素が出てくる。『スーパーマリオオデッセイ』の誕生など、2023年現在では「マリオ」シリーズでもこうしたキャラクターを出せる余地が生まれている。だが、まだそうではなかった当時からすれば、嫌でも印象に残りやすいものになっていた。

 結局、『ワリオワールド』を最後にシュール味の際立つワリオの新作は減り、『コロコロコミック』的なノリの新作がシリーズの代名詞になっている。それが多くのプレイヤーに受け入れられたのだから、寄っていくのは当然の流れではある。ただ、いい意味で“毒”を感じさせられるような新作もたまには見たいな、と思いもする。

 ここしばらくのワリオは『メイド イン ワリオ』が主体で、アクションの『ワリオランド』シリーズは15年以上も中断状態にある。もし今後、再始動した暁には、できればあの頃に感じたシュール味が蘇っていたりしないものかと、初代『メイド イン ワリオ』を遊びながら思うこの頃だ。元々、悪役として誕生したワリオである。たまには“下ネタ以外の毒”を放つところを見てみたい。

 とはいえ、『おすそわける メイド イン ワリオ』のコラムでも書いたように、一番見たいのはやはりワイルドなヒーローとしてのワリオである。今後ワリオがどんな活躍をしてくれるのか、楽しみに待ちたいと思う。

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