音楽活動における「記録媒体」の重要性ーーMUCC・逹瑯を支える二人に聞く、“大容量ポータブルSSD”が起こした現場のイノベーション

 ハードウェア・ソフトウェアが進化した近年、さまざまなデータのやりとりがクラウドへ移行しはじめて久しい。一方で、クリエイターたちはデータ保存のしやすさや安全性、セキュリティ面など、様々な理由から外部記憶媒体を活用している。

 ここ十数年に焦点を当てると、最も大きな技術革新は「大容量ポータブルSSD」の登場だろう。数TBのデータを高速で転送でき、手軽かつ安全に持ち運ぶことが可能になったことは、クリエイターたちに大きな恩恵を与えた。

 そこで今回は大容量ポータブルSSDによってイノベーションが起こった現場にスポットを当てるべく、人気バンド・MUCCの原盤ディレクターを務める冨岡 準氏と、ボーカリスト・逹瑯のソロプロジェクトをサポートする足立房文の2名にインタビュー。IO DATAの8TBを誇る大容量SSD『HDPD-SUTB8S』を用いたことで、アーティスト・クリエイティブ活動に起こった大きな変化とは。

「作業中の“ながら”がなくなり、イマジネーションの継続にもつながる」

ーーお二人は、音楽アーティストの裏方としてお仕事をされていますが、具体的にどういった内容のことをされているんでしょうか?

足立:「MUCC」のヴォーカリスト・逹瑯さんのソロ活動におけるマネージメントと、原盤制作や作曲など、それにまつわることをさせていただいています。

ーー足立さんと逹瑯さんとはいつごろから親しかったんですか?

足立:5〜6年前、MUCCのメンバーがそれぞれの楽曲をバンドに持ち寄る際、デモテープ作りのために逹瑯さんがうちにいらっしゃったんです。うちの音楽制作会社には、マイクやプリアンプなど機材もいろいろと揃っていたので、いいんじゃないかなって、おっしゃっていただいたんです。逹瑯さんは楽器を演奏しないのですが「思い描いたものを形にしてほしい」ということで。それ以来、よく遊びにいらして、遊びの延長で「こんなコード進行はどうですか?」って提案すると、「それ、いいね! そこにメロディをつけたい」みたいな。そういう仲が続いています。

ーー逹瑯さんのソロ楽曲で、制作する際に彼がどんなところをポイントにしているかなども、足立さんは俯瞰しているわけですね。

足立:ソロ活動を始めてからはとくにそうですね。それ以前は、ご本人から“こういう時代感”とか“UKっぽい”とか“歌謡曲っぽく”など、大きな括りで題をまずいただいて、それに沿って曲を作っていく感じでした。でもソロ活動を始めてからは、“こういうドラマーやベーシストがいて、ギタリストはこういう感じで、鍵盤が二人いる”など、具体的なイメージをいただくようになって、それに対してこちらがアプローチをすると、「あっ、それそれ」とか。この1年ぐらいで、こちらの打率もだんだん上がってきたところです(笑)。逹瑯さんの好みが分かってきたような感じなんです。

足立房文(左)、冨岡準(右)

ーー逹瑯さんは、ここ数年でシンガーとしての歌唱力がものすごく上がってきたと感じるんですよ。そのへん、実は足立さんがキーになっているんじゃないかと。

足立:いやいや……。

冨岡:でも、そういう感じはありますね。ソロ活動で足立さんと制作を始めたことや、ソロ一作目では足立さんも含め、いろんな方から楽曲を提供していただき、逹瑯さんの”味”みたいなものも出せたので、それがシンガーとしての成長につながったのかなと思いましたね。

足立:あと、MUCCのリーダー・ミヤさんは音質に一切妥協しない方なので、ここ数年は、制作もライブも世界トップレベルのモニター環境でおこなっているんですよ。ミヤさんが作ったモニターイヤフォン、通称“ミヤモニ”は、世界最速のスーパーカーみたいなもので、それを日常的に使っている。だから、メンバーも音に対する全てに耳が肥えているんだと思います。

足立房文

冨岡:だからMUCCのレコーディングには、後輩のバンドマンの方々がよく見学に来たりするんですよ(笑)。

ーーそんなMUCCの制作現場に欠かせないのが冨岡さんですが、今はディレクターを担当されていらっしゃるんですよね?

冨岡:もともとはMUCCの現場マネージャーをやっていて、同時に原盤ディレクターをしていた時期もあったんですが、いまは原盤ディレクターだけですね。

ーー仕事内容は具体的にどういうものですか?

冨岡:最初に、メンバーとどういう方向性の作品にするのかというヒアリングをします。そして、あとは全体のスケジュール管理や段取りですね。作品のリリースに向けて、いつまでに何をやらなくちゃいけないのか、スケジュールを組んでいくんです。必要に応じてレコーディングデータの用意や整理なんかもしています。

 MUCCの『新世界』のレコーディングで言うと、ミヤさんから「アナログ・レコーディングしたい」という要望があったので、そういう録り方のできるスタジオを探したり、デモ曲ができてからは、たとえばヴァイオリンを入れたいなど、メンバーからの要望を聞いて、ヴァイオリニストの方とのやり取りなどもやっています。それで、逹瑯さんがソロ活動を始めるタイミングでお声掛けをいただいて、今は逹瑯さんの原盤ディレクションも手伝っています。

冨岡準

ーーMUCCとソロ活動の逹瑯さんが作品を出すにあたって、ともかくいなくちゃならないお二人であると。そのお二人が相棒のように普段から持ち歩いているのがMacですが、パソコンは仕事に欠かせないツールですよね。ハードディスクが標準の時代からパソコンを愛用していました?

足立:そうですね。あとは昔使っていた外部記憶媒体で、ZIPやMO、フロッピーなんかもありましたね(笑)。

ーー懐かしい(笑)。Macも、10数年前までは最大搭載メモリーが1GBだった自体がありましたね。

足立:そうですね。僕にとって、Macを使う入口になったのが『Power Macintosh G3』だったので、まさにそんな時代でした。

ーーパソコンや周辺機器の進化は日進月歩の世界ですよね。買い足しや買い替えは新しい機種が登場するたびにされてきましたか?

足立:最近はそうですね。もともと僕はずっと貧乏性で、最新から3年遅れぐらいの型落ち機種にアップデートしていくタイプだったんですよ。けれど、逹瑯さんのソロ制作に関わり始めてから、全ての機材を最新に切り替えたんです。そうしたら、仕事の時短ぶりがハンパじゃないんです。エンコードや書き出し、音のバウンス、どれだけプラグインやインストゥルメンタルを使っても、何も止まらないのには驚きました。全てが快適でストレスもなく、パソコンにありがちな「今、再起動します」という時間も必要ないんですよ。

冨岡:OSをアップデートすると前のソフトが使えなくなってしまう、という悩みも減ってきましたよね。

足立:そうですね。MacのM1チップを搭載したモデルも、「Rosetta2」で過去のソフトがちゃんと使えるので、何の問題もなく全てが進みますね。

ーー最近のパソコンはSSDを標準搭載したものが一般的になってきましたが、ハードディスクからSSDに切り替えたときの感動って、やっぱり凄かったですか?

冨岡:そうですね、あの速さには驚かされますよね。

足立:まるでアナログテレビから地デジになったときのような感動がありました(笑)。

足立房文(左)、冨岡準(右)

冨岡:書き込み速度がハードディスクとは段違いでしたからね。レコーディング期間中は、終わりが深夜帯になることも多く、収録したデータをスタジオのパソコンからメンバーや自分のハードディスクにバックアップしてもらうんですが……。その工程だけで2〜3時間ほどかかっていたんです(笑)。それがSSDになってからは、全員分のSSDにコピーしても30分ぐらいで終わる。以前はコピー待ちで終電を逃すこともあったんですが、いまはそういうこともなくなりましたね(笑)。

足立:じつは、僕が音楽業界に入ったときは、まだカセットテープやMDを使っていた時代だったんです(笑)。CD-Rが普及したときも感動しましたね。それがやがてハードディスクになったり、USBになっていったりしたんです。当時は2chのラフミックスに落とした音源をもらっていたんですが、そのうち「録った全てのテイクをください」という時代になって。けど、それがハイレゾの192KHz/24bitで録ったものになってくると余裕で100GBを超えるデータになりますからね(笑)。

冨岡:なので、現場で仕事をする僕らからすれば、SSDの存在は欠かせないものですね。でも、最初に使い始めたころ、SSDのことをちょっと疑いませんでした(笑)? 1曲のデータをコピーする速度が速すぎて、10秒ぐらいで終わっちゃうじゃないですか。ずっとハードディスクに慣れていたから「本当にコピーできてるのか?」って。

冨岡準

足立:たしかに(笑)。選択範囲を間違えたのかとか、音源データを元データではなくMP3で書き出してしまったのかとか、何かしら人為的なエラーが起こっている可能性を感じちゃって。これだけ速いってのは「何かがおかしいのかな」って(笑)。

冨岡:確実に、現場で小休憩するタイミングを逃すようになりましたよ。

足立:そういえば、作業中の“ながら”がなくなりましたね。コピーの待ち時間のせいで集中力を切らすことがなくなりましたし。イマジネーションの継続にもつながると思うので、クリエイターにとっていいことだと思います。

足立房文とIODATA『HDPD-SUTB8S』

冨岡:SSDは物理的なディスクを内蔵しているハードディスクと違って、強度も全然違いますね。ハードディスクをスタジオやライブ現場まで持ち歩くのは、やっぱり気を遣うんですよ。で、ハードディスクを立ち上げて異音がしたときには……ね(苦笑)。「なんか……カリカリいってる……」っていう絶望感が(笑)。

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