「音楽そのものが空間であってほしい」 キヌとmemexが語りあう“VRにおける音楽と空間表現”の醍醐味
音楽が空間を塗り替えていくことを表現する
ーーキヌさんのパフォーマンスは先程も話題に出た『アルテマ音楽祭2』でバズって以降、より多くの方に認知されたという印象です。
〈ライブ映像:【VR Live】kinu 1st live "Eternal Line" at アルテマ音楽祭#2【Official Live Video】〉
キヌ:そうですね。ワールドは少し前に公開していたんですが、ライブに出たのは『アルテマ音楽祭2』が最初で、ここでいっぱい見てもらえました。
ーーライブの制作にはどれぐらいかかりましたか?
キヌ:Unityを色々触って試行錯誤していた期間もあるので、具体的にどれだけかかったかは覚えてないんですけど……多分1ヶ月くらいですね。何か参考にしないと全然手掛かりがないなと思っていた時に、八月二雪さんのBOOTHで「Particle Music Player」を見つけて、「こうやって作ってるんだ」とその中身を見ながらなんとか作れました。
ーーライブにおいて、キヌさんが「こういうところを見せたい、聞かせたい」と強く意識する部分はどこですか?
キヌ:「見せたい」と「聞かせたい」はニアリーイコールなのかもしれません。「音楽」って元々それ自体が世界になってるし、音楽自体が空間になっていると思っていて。自分で作れるVRChatの空間に入って音楽をやる以上は、音楽そのものが空間であってほしいなと思っているので、そのまま表現しようとしているだけというか。説明するときによく使う喩えなのですが、ライブ会場でアーティストが出てきてガッと音を鳴らした瞬間に、その空間は塗り替わってアーティストが空間を掌握して、もう好き放題されちゃうじゃないですか。その感じをやりたいなと考えていたんです。空間の中を私のことで満たしていく、塗り替えていく感覚を得られればいいなと思っています。
ーーキヌさんのライブはたしかに、空間全部が掌握されているように感じますね。
キヌ:リアルのライブでは、具体的なものが見えてるかわかんないんですけど、実際に観客はそう感じてると思うんですよ。
ーーキヌさんにとって音楽とVR表現は不可分なんでしょうか。
キヌ:そうじゃないと作れないところはあるかなという気はしています。先ほどオーディオリアクティブの話が出ましたが、物理的な音に対してではないですが、意味的・文脈的にはオーディオリアクティブなのかもしれない。
ーーお三方は音楽を表現する時に体感的に見せることの面白さはどのあたりにあると思いますか?
キヌ:音楽が世界を侵食していくのを直接的な形で表現できるのが面白いです。ライブの場合はそこにお客さんもいるので、音楽を媒介にしてアーティストがお客さんの感情や意識を徐々に飲み込んでいく感じをそのまま目で見えるようにできるのが、すごく面白いところです。オーディオリアクティブも視覚と聴覚が揃って連動する気持ち良さを感じられるのが面白いですが、すごく動物的なものだと思うので……説明するのが難しいですね。
ぴぼ:オーディオリアクティブだけに関して言うと、VRに限らず、僕がすごく好きな表現は「この曲、こういう音もあるんだ」というのを視覚によって気づかせてくれるものです。僕自身は音を音のまま楽しみたい感覚があるので、音に没入させてくれるものとしてオーディオリアクティブを捉えていますね。
アラン:リアル空間で言う、ウーファーの振動が心臓に響くような体験から臨場感を覚える、みたいな感覚と似ているのかなと思います。聴覚以外から得られる情報で、さらに音楽を立体的にしたり、世界観を拡張したり、深みを与えたりする効果を感じます。
ぴぼ:たとえばVR空間で空間オーディオ的なものを使うのは、既存のスピーカーの位置が固定されているライブ音響からすると新しい表現と言えます。カテゴリーとして用語があるもので言うと「インタラクティブミュージック」が好きで。ゲームの中のプログラムの制御によって、ゲームプレイにあわせて音楽の展開に変化をつけていく表現全般のことなのですが、ゲームエンジンの上のメタバースで活動している身としては技術的にもっと身近になってほしいと思っています。なので、ゲームの分野で主にBGMを彩るためにやられていることを、memexを含む音楽アーティストの歌のような、ポップな音楽の表現としてやりたいと思っているんです。VRを使うことで、音楽活動がもっと面白いものになるという可能性を提示したいというのが、memexのVR空間での活動における核なので。
VRパフォーマーは食べていけるのか?
ーーキヌさんは昨年の『SANRIO Virtual Festival 2022』にも出ておられますが、出演の経緯についても聞かせてください。
キヌ:監督の方がVRChatのいろんなイベントやライブを回っていて、そこで気になった方に声をかけながら演者を探していたみたいです。それで「ALT3」の0b4k3さんとも知り合ったようですし、私も「パフォーマンスしませんか」とお誘いいただきました。
ーー昨年や今年の出演ラインナップやスタッフを見ると、監督さんはVRに対してガチだなと感じさせられます。
キヌ:本当にそう思います! AMOKAが出ていたり、今年はYSSが出たり。サンリオさんと「GHOSTCLUB」が並ぶというのは誰も想像していなかったですよね(笑)。
ーーキヌさんは昨年観た人の間でものすごく話題になっていましたが、どんな手応えでしたか?
キヌ:自分と直接繋がらないようなところにまで届けることができたのがすごく印象的でした。その後のSNSとかでいっぱいの人が反応してくれたり、イベントからしばらく経った後にも「あの時に見て気になってました」とか、「あの話を知ってVRChat始めました」と言ってもらえたり。いろんな方に届くようになったのは嬉しかったですね。
ーーサンリオのイベントにお三方とも参加されるにあたって、大きい会社が入ってきて動かしていくことに対してメリットを感じていますか?
キヌ:大きなところが入ってくるっていうことはそれだけお金がかかっている、イコール人や社会とのつながりが大きくなっている、ということですよね。たくさん社会とつながっていくことで、VRやメタバースというのはしっかりと社会の中の存在として成り立っていくと思うので、すごくメリットがあることだと思います。ちょっとマクロな話にしてしまいましたが、身近なところだと、やっぱり個人活動だけでお金にしていくのは難しいと思うので、しっかりとお金を出すことのできるところが入ってきてくれるのは活動者にとってメリットだと思います。それによっていっぱい活動者が増えると嬉しいですね。
ーーあっ、リアル社会とVRの「コネクト」ですね。
キヌ:そうですね。そういう意味も意識においていました。
ーーmemexさんが自分たちで、clusterでライブをやってきて黒字が続いているっていうのを聞いて驚きました。今後VRパフォーマー、ミュージシャンとして食べていける人が現れると思いますか?
ぴぼ:現れると思います。ただ、現状は僕はVR空間での表現のみにあえて収入源を絞る必要はない、という立場です。音楽活動に限らなければ既に生計を立てられている人もいますが、音楽活動に絞ると、具体的に収益化する機能がアクセスしやすいものにはなってないという現状があったり、生活圏としての普及度に依存するものかなと思っていて。「メタバースでの音楽活動で生計を立てられるか」というのは、「メタバースが普及してそこで生活することがもっと普及しますか」という質問とほぼイコールになるのかなという気はしています。人間は便利なものは使うので、最終的には普及するんじゃないかなと思っていて、そうなったときには現れている、と思います。