Yossy×スイニャンが確信した“国内eスポーツシーンの転換点”【後編】 「推し選手に会いたい女性ファンが増えた」

2022年のeスポーツ(後編)

 世界規模で成長を続けるeスポーツ市場において、競技シーンの動向を追いかけるYossy氏とスイニャン氏にフォーカス。リアルサウンドテックでは、精力的な情報発信を心がけるお2人を招き、2022年のeスポーツシーンを振り返る対談企画を実施した。

 後編となる今回は、国内eスポーツのターニングポイント、コロナ禍におけるメディアのあり方や2023年度のeスポーツ市場に対する所感などを語ってもらった。Yossy氏とスイニャン氏の経歴や交流、そのほか2022年度に流行したeスポーツタイトルについては前編をお見逃しなく。

“女性用トイレの混み具合”で分かった国内eスポーツのターニングポイント

――昨今はeスポーツイベントの視聴者数もかなり増えましたが、お2人は変化の兆しをいつ頃から感じていましたか?

Yossy:先ほど(インタビュー前編を参照)も話題に上がりましたが、僕の中では「女性」というキーワードがあって。eスポーツイベントやLANパーティーの主催経験がある田原さんに取材した際、「昔のeスポーツは部活の県大会みたいな感じ。観客も選手かその家族ぐらいしか観ていない」という話をしていて、すごくイメージが掴みやすかったんです。僕自身で変化があったと感じるのは『サドンアタック』だと思っていて、2010年ごろの全国大会に女性ファンが多く来ていた気がします。これまでは選手の彼女らしき人を会場でちらほら見かける感じだったけど、この兆しは『PUBG』の国内リーグでも見られたんです。女性ファンが配信を見て応援するとか、会場にやって来るという光景も見られるようになりました。『荒野行動』などのモバイルゲームも若い子が多いし、『RAGE』や『2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2』(決勝戦)はとにかく観客層の変化に驚きましたね。あそこで一番面白かったのは、会場内に設置されたトイレの混み具合が違ったことですね。例えば女性ファンが推しの選手に会う前に、化粧室でメイクを直してからファンミーティングへ向かう……といった具合に。僕はまったく知らない世界だし、スイニャンさんから聞いて感心しました。

スイニャン:eスポーツイベントの会場って男子トイレの方が混雑するイメージでしたけど、女性用トイレの混み具合を見たとき、「昔と違う!」と本気で感じましたね。

――先ほど「昔のeスポーツイベントは県大会に近い」と聞きましたが、時が経つにつれて次第に変化していったイメージでしょうか。

Yossy:まさにコロナ禍を経験した後の『RAGE』がそうだったと思います。今までは実際にそのゲームを遊んでいる人や知っている人しか来ていませんでしたけど、Twitchの配信やYouTubeの動画を見た人、プレイはしていないけど推しがいる人が”選手を見たくて来る”という光景が増えたんでしょうね。

『RAGE VALORANT』にて 選手を応援する手づくりボードも文化として定着した

スイニャン:私はずっとそういうテーマで記事を書いてきましたけど、やっぱりeスポーツイベントはゲーマーのものだったんだよね。雰囲気も県大会だし、そこへ選手のファンが「〇〇選手がんばれー!」って入っていったら、実際にすごく浮くと思う(笑)。そこからファン層があったにせよ、それでも大半はゲーマーだったし、「この作品の未プレイ者は来るな」みたいな雰囲気が少しはあったと思っていて。ただ、「そのゲームを実際に遊んでいなくても選手やチームを応援していい」という私の考えは、韓国にいた頃からあったと言うか、当たり前のように変わっていません。体験談になりますが、向こうだとeスポーツを追いかけている女の子でも実際にゲームを遊んでいる子が意外と少ない。なんなら、ファンミーティングの場で「ゲームをプレイしたことがある」と手を挙げた段階で拍手されている女性ファンもいたんです。だからゲームを遊ばずともルールを知っていれば楽しめるし、好きな選手の応援だってできます。もちろん考え方の違いもありますけど、選手の皆さんが応援してくれるファンを大切にする文化がここ数年で浸透しているように見受けられます。

コロナ禍で体感したメディアの変化 ご当地キャラクターの格ゲー大会が契機に

――日本では2018年前後からeスポーツに対する注目度が急速に高まり、それらを取り扱うメディアにも変化が訪れました。プロのライターとして勤しむお2人はこの光景をどのように捉えていますか?

Yossy:最近の話なんですけど、コロナ禍の影響でeスポーツの大会レポートがかなり減っていると感じ、実際に数えたことがあるんです。調べてみるとオフラインイベントが無いからとか、取材記事の反応が伸びないなど、環境面に関するさまざまな原因があるように思えました。とはいえ最近はオフラインイベントも段々と増えてきたし、再び大会レポートも増えはじめています。個人的に面白いのはローカルメディアの掲載記事で、「eスポーツ施設ができました」「eスポーツ大会を開きました」というような出来事を、地元メディアが細かく取り上げているんです。昔はそんなこと一切無かったから、近年はしっかり追いかけているんだというのを感じますね。

スイニャン:私はメディアから執筆を請け負う立場として、「オンラインイベントの記事掲載は難しい」という話を聞いていました。そんな中で知ったのが、ご当地キャラクターが格ゲーでNo1を決める『Intel Presents. SFV LOCAL CHARACTER GP JAPAN 2020』だったんです。私がご当地キャラクター好きだったこともあり、「これは絶対に取材したい!」と言って(笑)。私からメディアへ企画を提出し、先方もオンラインでの取材を許可してくれました。この時のわたしの記事を、Yossyさんが先に触れた調査記事で紹介してくださったんです。ありがたいことに、次の開催時には先方から「事前インタビューをお願いしたい」とメディア側へ提案をいただいたんです。私は格ゲーにすごく詳しいわけじゃないけど、ご当地キャラクターのファンは格ゲーを一切知らない人もたくさんいらっしゃるので。出場選手の紹介はこちらでカバーできるし、逆にこのぐらい特殊な大会じゃないとコロナ禍の大会レポートはメディア側に届かなかったかもしれません。そういう意味で言えば、eスポーツメディアではないリアルサウンドテックやananさんから連絡を受けたときもびっくりしました。「いよいよ本格的にeスポーツが文化として根付きつつあるのかな」という感覚がありました。

Yossy:それまでは、馴染みが無い人には「eスポーツ?」と言葉の説明からしなければいけなかったよね(笑)。

スイニャン:言われたところでイメージしにくいですからね。とはいえ、日本でも「ゲームの大会?」と言ってもらえるぐらいにはなったと思います。そこまで来たら文化の定着段階にあるのかな。

Yossy:テレビでも普通に見かける機会が増えた気がします。僕の息子もゲームで遊んでいたら親戚に「ゲームばっかりして」と言われていたけど、最近はゲームで遊ばない人からも「プロゲーマー」というワードが出てきてめちゃくちゃビックリした(笑)。だから、意外な人からeスポーツの言葉が出るくらい普及はしたんだと思います。eスポーツって気軽に言っても通じる世界になってきたし、区別がつかなくてもその言葉が出るだけで十分じゃないでしょうか。

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