『Weekly Virtual News』(2022年12月26日号)
2022年の「バーチャル」はどうだったか。メタバース、XRデバイス、VTuberの三軸から振り返る
VTuber業界は“安定期”に入ったのか
大変化が起こったメタバースやVRと比較すると、2022年のVTuber業界は安定期に入ったように見える。
『ホロライブ』と『にじさんじ』の二大巨頭は特に、メディア露出やグッズ・マルチメディア展開、イベントや無料ライブ開催などで、ブランドを強化する動きが見られた。テレビなどに登場する機会も増え、なにより若い世代を中心にYouTube経由の認知度は着実に上昇している。
『にじさんじ』のANYCOLORが上場したこともあり、VTuberは一般層に広く知られ始めている段階だろう。一方で、黎明期に見られたカオスさ、尖った姿は、上層部に行けば行くほどに減じつつあるように感じる。
そうしたなか現れたのが、『にじさんじ』の壱百満天原サロメだった。2018年であっても第一線に立ったであろう、圧倒的なキャラクター、タレント性、ポテンシャル。VTuber史上最速の100万人登録達成という快挙もあり、間違いなく歴史に残る一人となった。安定期に入ってもなお、まだ見ぬ逸材が生まれる余地があるのは、VTuberというカルチャーの可能性を示しているようにも思う。
一方、最上層の2グループ以外は、三者三様の一年だった。『774inc.』はこれまでと同様に安定路線を進んでいる。『KAMITSUBAKI STUDIO』はWeb3系列の展開も見せているが、強力なアーティストを主役とする姿勢は変わらず、そして強い。
大きな変化といえば、『RIOT MUSIC』『あおぎり高校』『ぶいすぽっ!』『Palette Project』の4グループが、「Brave Group」として合流したことだろう。それぞれ強みを持つグループが、一つの傘下にまとまることで、大きな存在感を発揮しつつある。
国外勢力と思われた『VSHOJO』は、まさかのkson参戦とともに、日本へも本格進出を開始した。また、『NIJISANJI EN』は着実に勢力を伸ばし始めている。とりわけ男性グループ「Luxiem」は100万登録達成者を2人も輩出し、5名の100万登録達成者を有する「ホロライブEnglish」とは違った存在感を示している。
こうした「企業勢」に対して、個人勢は企業所属ならではのしがらみにとらわれない「自由さ」が再び注目されている印象だ。特に、自分の3Dアバターを自分の裁量で『VRChat』などに持ち込みやすいのは、個人勢の強みとなるだろう。また、尖ったアクションも企業所属よりかは取りやすいはずだ。
念願の「埼玉バーチャル観光大使」となった春日部つくしなど、長い活動の積み重ねが花開く個人勢も現れている。「有名事務所所属がゴール」という環境は、少しずつ変化しているのかもしれない。
バーチャルとリアルの境界を超えて
今年は、“最初の一人”であるキズナアイが休業期間に入った年でもある。しかし、「親分」不在の状況となっても、様々なプレイヤーがしのぎを削っている。VTuberというカルチャーの大きさを、こういったところからも感じる。
そして、VTuberではない純粋なフィクションのキャラクターが、VTuberのような「生きているキャラクター」として活動するケースが増えた。とりわけ大きな存在といえば、『ONE PIECE FILM RED』のヒロイン・ウタだろう。
ルフィやシャンクスの関係者という出自も大きいが、映画放映前にVTuber的な動画を公開。その後もいくつかの展開を経て、その存在は「映画オリジナルヒロイン」という枠から大きく飛び出し、ついには『NHK紅白歌合戦』への出場という快挙につながった。
ウタがウタとして、紅白歌合戦という現実の晴れ舞台に立つ。その事実こそ、バーチャルな存在がこの世界に根付き始めた証左だろう。奇しくも、ウタの3Dまわりの制作には、キズナアイを生み出したActiv8が携わっている。キズナアイから生まれた「バーチャルなひと」は、バーチャルとリアルの境界を超えて活躍できる「新時代」を、たしかに切り拓きつつある。
(メイン画像=Generated by niji・journey)