『17LIVE』新COO・Alex  Lien氏に聞く、「カルチャー」が評価される日本における戦略とは? 「ライブ配信=“可愛い女の子”を見ること」を払拭できた理由

『17LIVE』新COO、日本における戦略を語る

 コロナ禍で盛り上がりをみせたライブ配信サービス。新規プラットフォームの参入が相次ぐなか、世間的にはリアルの場への回帰が促されており、変革期に突入しているように思える。そのなかでもトップを走り続け、「イチナナ」の愛称でも親しまれる『17LIVE』では、2022年の秋から運営元である17LIVE株式会社のGroup Chief Operating Officer(COO)兼 代表取締役に、新たにAlex Lien(アレックス・レン)氏が就任した。アレックス氏はコロナ禍以後のライブ配信業界をどう捉え、今後の『17LIVE』をどのように成長させようとしているのか。これまでの国内外での歩みを振り返りつつ、展望を語ってもらった。(Nana Numoto)

「ライブ配信=“可愛い女の子”を見ること」というイメージを払拭するために

――今秋にグローバルのトップになられたとのことですが、これまで担っていた台湾におけるゼネラルマネージャーおよびCEOとしての功績も伺っています。具体的にはどのような施策を打ったのでしょう。

17LIVE株式会社 Group Chief Operating Officer(COO)兼 代表取締役 Alex Lien(アレックス・レン)氏

アレックス・レン(以下、アレックス):私は2019年に17LIVEに入社しましたが、当初は台湾マーケットのみを担当していました。2015年の創立から数年経っていたため、台湾のライブ配信に関するマーケットは既に成熟していましたが、成熟したマーケットの中で会社をさらに成長させるためには何をするべきかが自分の中での大きな課題となりましたね。

 当時の台湾では、ライブ配信のプラットフォームで活躍するライバーの多くがいわゆる“可愛い女の子”であったため、「ライブ配信とはそういうものだ」という先入観が存在しており、その多様性に欠けた部分を変えたいという気持ちがとても強かったのです。ライブ配信をより多くの人たちの日常に根差したプラットフォームにしたいという考えから、バスケットボールのスポーツチームや様々なアーティスト、スポーツドリンクなどのブランドと協業することで、『17LIVE』のイメージを幅広い人たちに親しみやすいものに少しずつ変えていきました。

ーー施策に対して世間からはどのようなリアクションがあったのでしょうか?

アレックス:男性アイドルグループが定期でライブ配信をすることにより、彼らのファンが『17LIVE』を利用するようになってくれたことなどがありました。そういった地道なブランディングで、プラットフォーム自体の雰囲気もどんどん多様化していったのです。認められた結果として、2021年には台湾の大統領の地位である総統から表彰されるまでに成長しました。

ーー日本市場も担当していくことへの意気込みを教えてください。

アレックス:これまで、私は台湾だけでなく香港、東南アジアとインドも統括してきました。そして今回日本も包括して担うこととなり、率直に非常に楽しみでわくわくしています! 日本には多くのビジネスの機会があると思っていますし、なんといっても人口が多くマーケットも大きい。加えて、アニメや漫画やゲームといったカルチャーの部分でもたくさんの選択肢があるのです。私は元々ゲーム業界(エレクトロニック・アーツ社など)で仕事をしていましたので、『17LIVE』でもライブ配信とゲームを結び付けた施策を進めていきたいと考えています。

――おっしゃる通り日本にはたくさんのユニークなカルチャーがありますが、この資産をどう伝えていきたいと思いますか?

アレックス:日本のカルチャーはすでに世界中に浸透しています。そのような環境の中で、我々ライブ配信プラットフォームに何ができるかというと、それはやはり“リアルタイムに伝えられることが可能”だということではないでしょうか。今後見据えているのは、主にアジア圏内で人気が高まっているV-Liver(ブイライバー:バーチャルライバーの略。モーションキャプチャー技術などを駆使し3Dアバターで配信するライバー)を使って、ゲームなど日本のコンテンツをリアルタイムに紹介するなど、グローバルでの親和性の高さとスピード感を活用して伝えていきたいと考えています。

――日本のライバーは現状、言語の壁が高く日本語圏から出にくい部分があると思いますが、それを超えていくための取り組みはありますか。

アレックス:翻訳などをサポートするテクノロジーはあると考えています。もちろんマーケットの規模にもよりますが、AIやマシーンラーニング機能を強化し「リアルタイム字幕」といったものを導入するべく今後しっかりと投資していけば、世界中の方が日本語で配信されたコンテンツをリアルタイムに楽しむことができるようになると思いますよ。

アフターコロナではオンライン・オフラインを行き交える施策を提供

――ここ数年のコロナ禍でライブ配信が爆発的に人気になった背景には、ステイホーム中に自宅から好きな時間に自由に配信できるということもあったと思います。コロナが収束しつつあるなかで新しい可能性を切り開くフェーズに入ったように感じますが、現時点で大きく変わった部分などがあれば聞かせてください。

アレックス:昨今の日本では、多くの人が以前のように外出し、外で食事をしたり、友人と会ったり、旅行にも行くようになったことで、ライブ配信を視聴する時間は少し減っているかもしれません。そこで気付くべきは「今後どうプラットフォームを強化していくか」ということです。我々としてやるべきことは常にライバーをしっかりとサポートすることであり、ユーザーのニーズに応えるということだと考えています。

 一方で、コロナ前に行っていたオフラインのイベントが再開しつつありますし、来年はさらに積極的にイベントを開催しようと考えています。台湾ではライバーが一堂に会し、複数のステージで様々なパフォーマンスを行いながら交流ができるというフェスのようなものを開催しており、リスナー(ライブ配信視聴者)さんも楽しんでくれていて好評なんです。こういった場では、ライバーが実際に歌って踊る姿も見られて、そのなかでイベントやコンテストを開き、オンラインでもオフラインでも楽しめるような空間になっています。

――これからはイベント以外でもオフラインでの機会が増えていくのでしょうか。

アレックス:来年実施を目論んでいるのは、ミュージシャンがライバーとなる企画です。大きなプロジェクトの傘のもと、毎日ライブ配信でパフォーマンスを披露し、一定の配信期間を経たら、今度はライブハウスでファンの人にリアルのライブを観にきてもらう。そういったハイブリッドの形が理想だと思っています。ですが、そこに到達するためには毎日しっかり配信をしてファンとの信頼関係を築いていかなければなりません。そこへのライバーのみなさんの努力が、リスナーとの関係値をより強固にし、夢実現へ実を結ぶということに繋がるのです。

ライブ配信は「人」で成り立つからこそライバーとリスナーを大切に

――日本には現在、たくさんのライブ配信アプリがあります。他のアプリと比べて『17LIVE』が意識している取り組みはありますか。

アレックス:先ほど申し上げた、我々が取り組んでいるオフラインのイベントがかなりの差別化につながるのではないでしょうか。ライブ配信に注力する競合他社が多く、オフラインのイベントを大々的に実施しているプラットフォームはあまりないと思います。もうひとつ、他社はライバーに対してエージェンシーとの連携が中心となっていますが、我々は社内でライバーの育成や支援のためのチームを置き、サポート活動をしっかりと行っているということです。

 ライバーを続けるのはなかなか大変なんですよ。自分でも配信をやってみたのですが、何時間も喋り、リスナーを楽しませ続けることなど到底できないと感じました。それだけでも大変なのに、なおかつギフティングしたいと思わせる力量を持つところまで到達するのは本当にすごいことです。だからこそ、ライバーが最初にギフティングをもらう瞬間は特別ですし、もらった時の彼らの表情には大きな感動があります。こうした特別な体験を提供できるギフティング機能やライバーへのサポートを通して、やりがいを持てるサービスを目指しています。

ーーライブ配信はやはり「人」で成り立っているサービスだと考えさせられます。

アレックス:おっしゃる通り、ライバー、リスナーという「人」で成り立っており、そして大変さに関してはライバーだけでなくリスナーも同じですよね。サービス当初から日本でも台湾でも自分の好きなライバーを応援し続けてくれるリスナーがたくさんいるのですが、配信を何時間も見て応援するのは本当に大変なことです。そういった意味では熱量の高いリスナーとライバーで成り立つコミュニティがきちんと形成されている。ライバーをしっかり支えようという気持ちを持つリスナーがいてくださるということも、我々のプラットフォームの強みであると思います。

――『17LIVE』には多種多様なライバーがいて、それぞれの個性でリスナーと関係性を築いていますが、サービスをずっと続けてもらうために貴社が提供していることはありますか?

アレックス:ライバーとリスナーの架け橋となるようなコンテンツはやはり大事ですよね。それに関しては雑談や音楽、アートやクリエイターなど、様々な分野でリスナーが楽しめるサービスを提供できていると思っています。加えて人間同士の繋がりの部分、つまりライバーとリスナーの化学反応がとても重要だと私は思っています。ですから、そのための基本的なトレーニングをライバーに提供していますし、過去の事例のデータを見せて適切なアドバイスなども行っています。

ーー「人」を大切にしている『17LIVE』だからこその視点だなと思います。

アレックス:ただ成長につなげていくだけではなく、同時に精神面でのサポートもしています。フォロワーがなかなか増えないと、ライバー自身がへこたれてしまうこともありますので、そこに関してのフォローもしっかりと行っており、定期的にライバーの話をヒアリングして状況を見守り、寄り添ったアドバイスを行っているんです。2017年の日本サービス開始以降よりこのサービスを実施しており、今ではかなりのデータを有していますので、それを元にライバーに適切なアドバイスができているのではないでしょうか。

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