NHK×Spotifyの相乗効果で生まれた「音声コンテンツの新たな可能性」 『その後のプロフェッショナル 仕事の流儀』住吉美紀&制作キーパーソンが語り合う

激動の時代だからこそ、リスナーの心に寄り添う番組作りを意識

ーー15年の時を経て、コロナ禍を含めさまざまな困難を乗り越えたゲストの方々のお話は、とても興味深かったです。

住吉:15年という期間は、本当に絶妙だと思ってます。5年だとあまり変わっていないこともあるし、20年を超えると引退される方も出てきますから。15年の間にそれぞれいろんな人生の変化や事件があったり、いろんなことを経験されたりしていて、その話を聞いてるだけでもおもしろいのは、さすがプロフェッショナルの皆さんですね。その期間にはもちろんコロナ禍という、人類みんなが体験した困難も含まれているので、プロフェッショナルの方々はそこをどう過ごして何を考えたか、興味深いです。今この時期に番組が実現したのは、素晴らしいタイミングだと思います。

 今回ゲストの皆さんと再会するにあたって、当時の映像を見直したのですが、昔の自分は見た目だけでなく中身も若くて衝撃的でした。私も少しは成長できているなと感じましたね。あのとき聞きたかったことと、今聞きたいことが違っていたりするんです。それに当時は聞き手に徹していましたが、今は私も相手に伝えたいことがあるので、「自分はこう思うけど、あなたはどう思いますか?」という聞き方に変わりました。リスナーの皆さんには、自分もその場にいて会話を聞いている感覚を味わってほしいので、一方的なインタビューではなく、対談形式となるよう心がけています。

ーー音声コンテンツとしては、ゲストの方が一方的に話されるよりも、対談形式の方が聞き心地がいい気がしますね。番組への反響はいかがですか?

西:『その後のプロフェッショナル』は、視聴時間が長いことが特徴として挙げられます。コンテンツが最初から最後まで聞かれた割合を意味する「聴取完了率」というものがあって、私たちはこれを「コンテンツクオリティ」と呼んでいて、クオリティが高いコンテンツは、離脱率が低いんです。多くの番組では、この数字をどう改善するかを議論することが多い中、『その後のプロフェッショナル』の場合は最初から聴取完了率が高く、良質なコンテンツとはこういうことなんだと示す良い例となりました。

住吉:嬉しいですね。私もSNSなどで、すごく熱量の高い感想をいただくことがあります。「ちょうど同じことで悩んでいたので参考になりました」、「働く元気が出ました」とかって言っていただけてありがたいです。ただ本当は、もう少し反響がほしいところです。今の時代にはたくさんのコンテンツがありますから、その中で埋もれないよう、認知を拡大していかないといけないと感じています。聞いていただければ、おもしろいと思っていただける自信はあるんですけどね。

末次:僕も同じように、聞いてくださった方からの評判はすごくいいと感じています。その中で印象的なことが2つありました。1つは、「ながら視聴」がポッドキャスト・音声コンテンツの大きな強みだということ。ランニングや家事をしながらでも聞くことができるのは、映像コンテンツにはない良さですね。

NHKエンタープライズ 末次徹氏

 もう1つは、仕事や人生にフォーカスしたコンテンツへの興味が、皆さんの中で強まっていると感じたことです。コロナ禍などもあって先行き不透明な世の中において、どう働くべきか、どう生きていくべきかといった価値観がゆらいでいるんですよね。従来のモデルがなくなってきている中で、プロフェッショナルな方たちが十数年で体験してきた変化や苦労の話は、リスナーにとってすごく価値があるようです。多くの人が「生き方」についてより真剣に考えている現代だからこそ、この番組を制作する意義があると思っています。

住吉:15年の間にどん底を経験している方もたくさんいました。そこから地道にコツコツ努力を重ねて、別の道を切り開いたなんて方も。一見完璧に見える方でも実は大変な目にあっていて、それでもなんとか生きているとわかると、少しほっとするんじゃないかな。「その後のプロフェッショナル」は、向上心の強い方向けの番組という印象があるかもしれませんが、そんなことはなく、いろんな人生があっていいと思える要素もたくさんありますので、どなたでもお気軽に聞いていただけたらうれしいです。

ーーテレビ番組の『プロフェッショナル』は、超一流の生き様をかっこよく見せて、視聴者のモチベーションを高めるような番組作りでしたが、ポッドキャストでは優しく背中を押すような構成になっていますね。一般の方にフォーカスした『となりのプロフェッショナル』も、個人的に興味深く拝見しました。

末次:視聴者の中には、超一流の方たちが登場する『プロフェッショナル』を見るのが正直しんどいと感じる方もいると思うんですよ。同じようにがんばれと言われても、なかなか難しいこともありますよね。先行きの見えづらい不安定な時代ですし、自分の力だけではどうにもならないことも多く、僕もその気持ちはよくわかります。

 ただ『プロフェッショナル』のコンセプトは変えられないので、より多くの方が共感できる番組も作りたいと考える中で生まれたのが、『となりのプロフェッショナル』でした。プロフェッショナルとして活躍するスターたちを応援する側、つまり“推し活”に勤しむ人たちを特集したんです。多くの方は応援する側ですから、より共感しやすいのではないかと。『プロフェッショナル』というコンテンツを大事にしながら、時代にフィットさせていく方法を模索した結果です。

 僕がポッドキャストへの展開に積極的だったのも、根底にこの問題意識があったからですね。タイトルには「仕事の流儀」と入っていますが、仕事だけではなく、人生の方にも触れるように意識しています。人生の紆余曲折や、挫折エピソードなどが聞けるといいなと。

住吉:そうすると「実はこの仕事大好きなわけじゃないんだよね」といった本音が、本当にたくさん出てくるんですよ。プロフェッショナルの皆さんも、かっこいい時間ばかりではないんです。みんなもがきながらも、少しでも幸せに近づけるように生きていると感じていただけると思います。

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