『Weekly Virtual News』(2022年11月14日号)

再びメタバースに現れるピューロランドと、アバターの自己表現と販売戦略をめぐる物語

 一方で、個人クリエイターが活躍できる領域であるアバター市場で、法人は意外に立ち回りが難しいかもしれない、という事例も見られた。『VRChat』向けアバターを手掛けてきたU-Stella株式会社が、11月11日をもって市場撤退し、進行中のアバター製品プロジェクトを中止・延期することを発表したのだ。

 同社が手掛けるアバターは、44,000円の「CCD-0500[FEE]」を筆頭としたハイエンド路線だった。しかし、10ヶ月連続リリース企画「プロジェクトソルシエル」では、当初販売価格を18,000円で設定していたものを、9月に5,000円へ価格改定していた。

 5,000円という価格は、『VRChat』向けアバターのおおよその平均ラインである。おかげで多くの人の手に取りやすくなったが、単純な一体あたりの利益現象と、購入済みユーザーへの返金対応によって、赤字は避けられなかったようだ。個人クリエイターと法人では、必要な利益ラインは異なるということを痛感させられる。

 市場撤退に伴い「プロジェクトソルシエル」も、折り返しの5体目となる11月発売分で凍結の見通しだ。さらなるラインナップが見れないことに、寂しさを感じる愛好者も見られた。

 しかし発表の翌日に、「プロジェクトソルシエル」の素体データの無料提供が始まった。素体をベースにした、新たなアバター制作・販売に加え、素体を用いた制作依頼対応や、イラスト制作時のトレース、教育機関の素材、素体利用アバターのVTuber利用も許可(※一部用途は要問い合わせ)されている、異例の対応だ。

 市場から去るタイミングで、中止したプロジェクトのコアなデータを無料で公開するのは、業界・界隈への愛がなければ難しいようにも感じる。6体目以降のソルシエルシリーズ、あるいはまた「別の可能性」が芽生えるかどうか。アバターをめぐる物語は、まだまだ続きそうだ。

関連記事