劇団EXILE・秋山真太郎が起業して芸能マッチングサービスを立ち上げた理由 テクノロジーでエンタメ業界に変革をもたらす『STAND FOR ARTISTS』とは

 2020年、突如として訪れたコロナ禍により、顔と顔を突き合わせる従来のコミュニケーションが困難となった。多くの企業でリモートワークの導入が加速した一方、仕事の機会損失を被る職業もある。その一つが“エンタメ”に携わっている人たちだ。従来、対面のコミュニケーションを通じて新しい案件の獲得が主流となっていたエンタメ業界。昨今はSNSを活用する人が増えてきているものの、SNSには向き不向きもあれば、事務所のコントロールが効かないことで問題が生じる可能性も。

 そんな状況を打破するべく、新たなマッチングサービスが誕生した。「芸能界に生きる全ての人の拠り所となるようなクラウド」をコンセプトに、タレント・芸能事務所・制作会社を繋ぐ総合情報プラットフォームとして開発された『STAND FOR ARTISTS』だ。

 本サービスを手掛ける株式会社七十八は、劇団EXILEに所属する俳優の秋山真太郎が代表取締役社長を務めている。そこで、自身が感じてきたエンタメ業界への課題を解決すべく立ち上がった秋山にインタビューを決行。同社で経営やシステム開発のサポートに携わるCOOの小宮誠とシステム開発全般を担うCTOの樋口昭太郎にも同席してもらい、サービスの説明や立ち上げ経緯とともに、エンタメ業界へもたらすサービスの将来性について話しを聞いた。(阿部裕華)

タレントと制作会社を繋ぐマッチングサービス『STAND FOR ARTISTS』

ーーまずはじめに『STAND FOR ARTISTS』(以下、『STAND』)がどのようなサービスなのか教えてください。

樋口昭太郎(左)、秋山真太郎(中央)、小宮誠(右)

秋山真太郎(以下、秋山):端的に言うと、制作会社とタレントをマッチングするサービスです。タレントさんには身長・出身地・居住地・趣味・特技・言語・SNSのリンクなどかなり細かい内容を登録してもらいます。制作会社さんは細かく条件を設定して検索することにより、『STAND』に登録しているタレントさんの中から求めているタレントさんを1本釣りできるようなシステムになっています。

 さらに制作会社さんは『STAND』内でオーディションを開催することも可能です。これにより今まで発掘できなかったタレントさんの発掘に繋がります。

ーータレント個人だけではなく、芸能事務所も利用可能なんですよね。

秋山:はい。制作会社さんはキャスティングしたいタレントさんにメッセージを送り、やり取りをしてもらうのですが、事務所に所属しているタレントさんであればそれを管理するマネージャーさんと直接連絡を取れるシステムが組まれています。そのため、早いスピードでキャスティングまでこぎつけることができます。

小宮誠(以下、小宮):当初はタレントさんと制作会社さんだけが登録できるサービスだったのですが、事務所さんから「マネジメント機能がほしい」と要望があったんです。

樋口昭太郎(以下、樋口):一人で複数人のタレントさんを抱えている方もいらっしゃり、バラバラに管理するのは大変なので、たしかにあった方が便利だなと。全部把握していたい事務所さんもいれば個人の管理に任せたい事務所さんもいるなど、いろいろなニーズがあります。できる限りどんなニーズにも対応できるようにシステムを設計しています。

ーー事務所とやり取りできることで、タレントの安全も担保されますね。

秋山:**登録する制作会社さんも僕が必ずお会いして、僕から招待を出さないとシステムにアクセスできないような仕組みにしています。違法な制作をしている企業が勝手に登録することを避けるためです。また、現在は弁護士に依頼して、全社にコンプライアンスチェックの協力もしてもらう予定で動いています。

小宮:信頼のおける制作会社さんにのみ登録いただいていますが、今のところ秋山がお会いした制作会社さんの登録率は100%です。現時点で80社の制作会社さんが集まっています。こういったマッチングサービスで登録率100%はあり得ない数字です。秋山がこれまで培ってきた信頼はもちろんですが、それだけ『STAND』に対する期待値が高いのだろうなとも感じています。

アナログなエンタメ業界に、テクノロジーで大きな変化を

ーー秋山さんはもともと起業志向があったのでしょうか。

秋山:全く考えたことはなかったです。ただクリエイティブなことはすごく好きで、何かやりたいとはずっと思っていました。とはいえ、せっかちな性格ですし、やるからには自由に自己責任でやりたいと考えていて。加えて後世にちゃんと残すものをつくりたいなと。

 また、僕自身も上京して20年、今年で40歳になるので、もう一度何かに挑戦するのもいいかと思い、株式会社七十八を設立しました。

ーー「後世に残すもの」が『STAND』だと思うのですが、本サービスの具体的な立ち上げの経緯についてもお聞かせください。

秋山:劇団EXILEでの役者としての仕事とLDH picturesで映画のプロデュースや脚本の仕事をしていました。そのため、役者・事務所・制作会社、それぞれの抱える課題を見てきていたんですね。その中で一番課題に感じていたのは、これだけITが進んでいる時代であるのに、ものすごくアナログなやり方で仕事を進めていることでした。タレントのマネージャーは重たい紙資料を持って制作会社を回り、制作プロデューサーのデスクに電話をかけて営業するんですよ。逆にプロデューサーは気になるタレントをキャスティングする時、事務所に電話してマネージャーに繋いでもらいます。

 それがコロナ禍により、ものの見事にできなくなってしまいました。出社しない人が増えたことで紙や電話でのやり取りに限界がきてしまった結果、一度仕事をしたことのある人を毎回キャスティングするようになったんです。才能のある子が新しく出てきても伝手も出会いもないから、仕事に繋がりません。そんな困りごとをどう解決できるか5年ほど前から考え、ブラッシュアップしながら今の事業形態に落ち着きました。

ーーマッチングサービスに行きついたのには何かキッカケが?

秋山:海外にも俳優の友だちがいるのですが、アメリカには何十年も前から『STAND』のようなデータベースが複数存在していて、自分に適したサービスを使っているんですよ。海外では事務所に所属せず個人で弁護士・エージェント・税理士などを雇って活動している個人主義なので、こういうデータベースが必要なのは理解できます。

 ただ日本にだって同じようなサービスがあっても良いのではないかと。新しい才能を発掘しやすい、才能のある人がバッターボックスに立ちやすい。いろんな人にチャンスが巡ってくるんですよ。マネジメント機能を追加すれば日本の芸能界の仕組みにも合いますし、とても便利なサービスになると感じています。

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