クリエイターの課題を解決する「ファンコミュニティ」のあり方とは? SKIYAKI代表取締役・小久保知洋氏に聞く
誰もが誰かのファンであり、誰もがクリエイターになれるこの時代。特にコロナ禍に入って以降、ファンとクリエイターの関わり方には急速な変化が起こっている。テクノロジーを活用して物理的な距離を乗り越えざるを得なくなったここ数年において、ファンコミュニティサービスが活況となったことは、社会の変容をあらわしていると言えるだろう。
今回はそんなファンコミュニティサービスにおける代表格のひとつであり、アーティストや団体のオフィシャルサイト、ECサイト、電子チケット販売など多様なジャンルを網羅するオールインワン型プラットフォーム『Bitfan』を運営する、SKIYAKI代表取締役の小久保知洋氏をインタビュー。自身の経歴や業界の動向を踏まえ、クリエイターファーストを貫きながらファンとの架け橋をつくるサービスの現在や、これからのファンコミュニティのあり方などについて聞いた。(編集部)
ファンコミュニティが秘めるマーケットでのポテンシャル
――これまで株式会社オン・ザ・エッヂ(株式会社ライブドア)、NHN JAPAN株式会社(現LINE株式会社)など、数多くのIT企業を経てきた小久保さんですが、株式会社SKIYAKIで『Bitfan』へ携わるに至った経緯とは?
小久保知洋(以下、小久保):私のキャリアを遡ると、それぞれの企業で「人と人を繋ぐコミュニティ」に関わってきており、このコミュニティを発展させるのが人生のテーマだと思っています。そのうえで、SKIYAKIが取り組んでいる「アーティストやクリエイターとファンを繋ぐ」ことに非常に興味が沸きました。私はなにかの熱心なファンというわけではないのですが、エンタメに対する帰属意識が人間の心の支えとして重要なことは理解していますし、多様化していく社会のなかで自分の好きなものを見つけることが難しくなってきているからこそ、あらゆる文脈において「ファン」の存在が欠かせなくなってきていると思っているんです。
クリエイター自身も個人での活動を含め、幅広い選択肢が生まれています。そんななかでSKIYAKIは「創造革命で世界中の人々を幸せに」というテーマを掲げており、そこに共感したうえで、マーケットにおけるポテンシャルも感じたこともあって入社を決意しました。
――「人と人を繋ぐコミュニティ」に関わってきたとのことですが、アナログなマッチングとテクノロジーを用いたデジタルなマッチングの両方に取り組まれてきたと思います。そのうえで小久保さんが気づいたことは?
小久保:前職ではアナログとデジタルの両方を活用しました。アナログなことでいえば、街コンや婚活パーティーをはじめ、海外で需要のあったマッチングサービスを日本に導入するなど、どれもすごく大変でしたし、それらを経験したうえで、自分にはオンラインで人と人を繋ぐことに適性があると感じました。直接お客様を目の前にはしないのですが、ライブ配信のコメント欄やチャットのコメント欄、SNS上のコミュニケーションなどを見ていて、さまざまな形で喜んでくださっているのが伝わってくるのは、シンプルに楽しいです。
――楽しさを感じた具体的なエピソードがあれば教えてください。
小久保:ライブ配信はすごくわかりやすいです。システムの監視も兼ねてライブ配信を覗きに行くことがあるのですが、やはりライブにはそこにしかない熱狂が存在していて。それまで具体的な活動を存じ上げなかった方でも、1時間ほど見させていただくとその方のことがいつの間にか好きになっているんです。チャット欄でもファンの方がテキストで団結してサビを盛り上げたり、イントロが流れた瞬間に一斉に盛り上がったり、「この曲人気あるよね」と共感しあったりと、本当に楽しそうで。「ライブに友人を連れてったら、その方がそのままファンになる」というケースは、実際のライブでも多いですよね。私が感じているのはそれに近いような感情だと思うので、これと同じようなことをオンライン上でもっと活発にできないかと考えたりしています。
ファンコミュニティが今後直面する課題は「マネタイズと集客を両立する難しさ」
――逆に、小久保さんが感じているファンコミュニティプラットフォームの課題とは?
小久保:ファンコミュニティプラットフォームは、アーティスト側からすればファンとの交流ツールでもあり、マネタイズのツールとしての側面もあります。ファンにとってはアーティストのファンコミュニティは楽しくてお金を払う価値のあるものなので問題はないのですが、アーティストが今後どうやってファンを増やしていくのかという“集客”については、課題があると思っています。これは我々のサービスだけではなく、他社や国外のサービスも同様です。以前、米国の『Patreon(パトレオン)』というサービスが実施した利用者アンケートでも、多くのクリエイターが「何に困ってますか?」という質問に対して「ニューオーディエンスを捕まえたい」と回答していました。
現状、アーティストの集客モデルは、SNSやメディアで知ってもらうことがメインで、そこからエンゲージメントを高めるツールとして我々のサービスがあるため、我々が集客を兼ねるのは難しいんです。そこに対して、テクノロジーを使って解決ができないかというのは長期的な課題だと感じています。
ーーすべてを兼ねるのは難しいのではと思いつつ、たしかにそれが解決できるプラットフォームだとありがたいですね……。
小久保:もちろん、ディスカバリーとマネタイズのツールというのは棲み分けたほうがベターだとも思っています。ユーザーにレコメンドすることがディスカバリーになるYouTubeやTikTokが一番良い例ですが、レコメンドによってファンが常に注意散漫な状況に置かれるのは、アーティストやクローズドなコミュニティを作りたい方にとっては不都合でもありますから。我々が積極的にレコメンドを行うことがオーナーにとって本当に良いことなのかについては、やはり慎重に考えざるを得ないと思っています。この問題については、我々一社だけで向き合うのではなく、他者と組むのも良いのかもしれません。最終的にはクリエイターが自立して食べていける世界をどう作るかが大切なので。
――お話のなかで『Patreon』の名前が出ましたが、同サービスはベンチマークしている存在として大きいのでしょうか?
小久保:はい。『Patreon』に関しては、彼らのブレない企業姿勢が好きなんです。創業者のジャック・コンテ氏が元ミュージシャンというのも大きいと思いますが、彼らは最初から最後まで常に「クリエイターをどうやって経済的に自立させるか」「自社の従業員が幸せになるか」を追及しているんですよ。僕が感動したのは、『Patreon』で月額の費用をオーナー側が設定する際に、1ドル以下にしようとすると「あなたのクリエイティビティはもっと評価されるべきだから、そんなに金額を下げるべきではない」と警告して、その理由が書かれたブログやコンテンツに誘導したうえで、もっと勇気を持って高い値段に設定することを促してくれるところ。
ーー素晴らしいですね……。
小久保:そう思いますよね。こういうのは一朝一夕ではできない企業文化だと思いますし、一方でそのサジェストをよくよく調べてみると、しっかりA/Bテストを実施しているような、信頼の置ける結果であることもよくわかるので、改めて「悔しいな、すごいな」と感じさせられます。
ただ、国による文化の違いは大きいので、これらをそのまま参考にするかどうかについては、慎重に見極める必要があると思っています。コロナ禍になって、海外のサービスと日本の文化はぐっと近づきましたが、昔からのファンクラブ文化をはじめとした日本独自のカルチャーとの相性は考えなければなりません。また、”推し”に感謝の気持ちを込めて投げ銭をする、というくらいで十分だったのに、プラットフォーム側が複雑になり、トークンを発行したりDAOで意思決定ができるようになるなど、なんでも出来るようになることが本当に日本で求められていることのかな、とは思っています。