yukishiroが解説する、最弱予想から世界3位に登りつめた「ZETA DIVISION」の強さ【後編】

 2022年4月10日から開催された、タクティカルFPS『VALORANT』の世界大会『Champions Tour 2022: Stage 1 Masters - Reykjavík』。そこへで日本代表として出場したZETA DIVISIONは世界3位というeスポーツ史に残る偉業を成し遂げ、Twitterでも「#ZETAWIN」がトレンド1位となるなど大きな話題となった。

 しかし、「世界3位」という結果ばかり独り歩きし、どのようにしてZETA DIVISIONがそこに至ったのか、なにが勝因で、誰が重要だったのか、そうした内実はあまり鑑みられなかった。そこで今回、同大会にて解説を務め、ほか他にも数々のキャスターとしての実績のあるyukishiro氏に、放送では話しきれなかった「#ZETAWIN の正体」について質問。後編では、ZETA DIVISIONの快挙の要因について、具体的な例を交えながら解説してもらった。(Jini)

yukishiro氏

ZETA DIVISIONの強みは“引き出しの広さ”

――では今回の本題でもある「ZETA DIVISIONがなぜ世界3位にまで勝ち残れたか」という疑問なのですが、やはりZETAはそうしたチームとしての強さで勝てたのでしょうか。

yukishiro:ZETA DIVISIONの強みは戦略の多様さ、要は“引き出しの広さ”ですかね。多くの守り方、攻め方を熟知した上で、それぞれを完璧にこなせるように練習をしたことだと僕は思っています。たとえば、攻め側の定番戦略の一つに「ラッシュ」というものがあります。マップの特定の地点に素早く攻めこんで制圧する戦略ですが、あまりに有名なので対策も多くあります。ZETAの場合、そうした「対策」に対する「対策」が徹底しているように思います。「相手はこういう構成だから、相手がこのアビリティを使ったらあそこから狙撃してくるよ」といった予測をちゃんとして、それを迎え撃つような対策。

――ただ単にたくさん作戦を作っておくだけでなく、その作戦への対策にまで答えを用意しておくと。

yukishiro:特にZETA DIVISIONの印象的な部分は、とにかく地力が強いということ。このゲームには「エリアコントロール」といって、自分たちがマップ上でどれだけ安全な場所を確保できているかという概念がありますが、ZETAはエリアコントロールの取り方が本当に徹底していました。それは事前に用意した戦略がうまく機能しているだけでなく、その戦略を実際にチームが実行できるだけの地力がある証拠でもあります。

――事前に用意した作戦と、実戦における地力はどう違うものなんでしょうか?

yukishiro:地力というと、自分たちが用意した作戦が通らなかった時に、じゃあ次はどんな手を打とうかと即座に考えて判断できる能力ですね。たとえば、MastersにおけるZETA DIVISIONの初陣となるDRX戦ですが、ここでZETAは惨敗してしまいましたよね。この試合におけるDRXはまるで軍隊のように完璧に作戦を実行してみせました。いつ、誰が、どのタイミングで、なんのアビリティを使い、この時間には設置して、仲間はその間どこでカバーするのか、その順番まで全部決めて事前に練習していたと思います。だからこそ、ZETAは手も足も出ずに負けてしまいました。ただ言い換えれば、そこでDRXは自分の手札をかなり見せてしまったんです。

――ZETA DIVISIONは一週間後のLower Bracket Round 2で再びDRXと対戦し、勝利しました。あの惨敗から1週間でリベンジ達成という、非常にドラマチックな展開でしたが、これにも理由があると。

yukishiro:たとえば、DRXが得意とする戦術に「VS設置」というものがあります。これは「アイスボックス」というマップで、マップの中央からエージェント「セージ」が壁を作って陣形を分断し、その間に最速でエージェント「ジェット」がBに設置するというもの。ZETA DIVISIONは初戦、このDRXの見事な「VS設置」を前に敗北してしまいました。言い換えれば、「VS設置」は中央から攻める意外性を活かした奇襲であって、次にZETAがリベンジをした時には、最初から中央に守りを意識しつつ、既にセージが壁を作った時点で「VS設置」を予見して迎撃してみせました。DRXの作戦が見事なものでも、ZETAはチーム間での対策とコミュニケーションをしっかりした上で修正できた。ZETAの地力の高さをうかがえる例の一つですね。

(1:08:31〜)マップの中央を最速で駆け抜ける「VS設置」
(01:0745〜)残り時間25秒からの「VS設置」を完璧に防ぎ切るZETA DIVISION

――裏をかいた「VS設置」に対して、そもそも裏を潰してるってことですよね。ここにちゃんと置いておくという。

yukishiro:そうです。DRX側の視点で考えたとき、「VS設置」を潰されたときに別の一手は何なのかっていう、引き出しをたくさん用意しておくことが望ましいんですが、どうしても戦術には限りがありますし、それがなくなった時はアドリブ、いわば「地力」が問われる。その時、僕も直接DRXのプレイヤーに聞いたわけではないですが、ZETAが対応していく中でDRXはどうしても初戦ほどの完成された動きができず、迷いを見せた瞬間があったように思います。

――なるほど、実際にチームの「地力」とは、選手個人のものでしょうか、それともチーム全体での練習で培われるものでしょうか。

yukishiro:どちらも重要ですね。各プレイヤーの能力もさることながら、プレイヤー同士での連携、コミュニケーションも重要になります。仮に安定して戦える戦略があったとしても、もちろん弱点、突破口は必ずあるわけですよ。たとえば、ZETA DIVISIONが手堅く攻める時、よくチームで広く展開して相手の出方をうかがうような動きをします。ですが、それに対して守り側が一点集中で3人ほど逆に仕掛けられると、かなり苦しくなる。

――実際、ZETAのライバルチームはそういう動きをしましたよね。

yukishiro:そんな時、ZETAのプレイヤーはここに3人集まっているから、ほかは手薄だよと素早く連携して逆に攻めるような判断ができていたり。あるいは3人に追い込まれた1人のプレイヤーが、その状態でも1人は持っていくという、ここぞという場面の撃ち合いの強さもやっぱり光りましたよね。ラウンドを連続して落としてしまった時でも、コーチとタイムアウトを取って戦略を切り替え、すぐにラウンドを取り返し始めるというシーンもよく見られました。

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