『Weekly Virtual News』(2022年6月6日号)

止まらない壱百満天原サロメ旋風と、メタバースに起こった国際的&学術的な動き

 「にじさんじ」所属のVTuber・壱百満天原サロメの快進撃は続く。チャンネル登録者数は引き続き伸び続け、本記事執筆時点で90万人を突破、「にじさんじ」全体で3位となった。このままいけば、史上最速の100万人突破すら夢ではない。「お嬢様言葉」を中心にミームの流行も始まっており、スタープレイヤーの誕生と言えそうだ。

 VTuber業界でサロメ旋風が吹き荒れる一方、メタバース方面では細かくも興味深い事例が多く見られた。まず5月31日、日本国内のメタバース関連団体に「協調」の姿勢が生まれた。一般社団法人Metaverse Japanが、一般社団法人日本デジタル空間経済連盟、およびNPO法人バーチャルライツとの相互入会を発表したのだ。

 「Web3」を軸に業界や企業の垣根を越えたハブとなることを目指すMetaverse Japanと、経済団体の側面が強い日本デジタル空間経済連盟、そしてメタバースネイティブとクリエイターの側に立つバーチャルライツとでは、見えている世界や信念はかなり異なる。見解相違で衝突を起こすより、それぞれの視点の差異を埋め、理解を深めていくことが賢明であるという判断なのだろう。乱立傾向にあったメタバース関連団体が、今後どのように歩調を合わせるか、あるいは違えていくか、注視したいところだ。

 バーチャルライツは6月2日、韓国の「VR文化権益委員会」とともに、「国際メタバース協議会」の設立発表も行った。国際的にメタバースが拡大する中で、各国の規制動向などの情報共有、アライアンス構築が主となる。

 その2日前となる5月31日には、バーチャル美少女ねむと人類学者・Liudmila Bredikhinaにより、韓国を対象としたユーザー調査「ソーシャルVR国勢調査:韓国」が発表された(※1)。回答数は231とやや少なめなものの、「ゲーム大国」とも言われる韓国におけるソーシャルVRの実態を探る手がかりがひとつ生まれた形だ。その翌日には、VRSNSアバター向け規約テンプレート「VN3」がアップデートされ、韓国語と中国語の簡易翻訳に対応した。

 文化調査、アバター規約テンプレートの対応、そして国際組織の設立と、3つの異なる動向には韓国のソーシャルVR文化への注目が共通している。にわかに規制の声も聞こえ始めた韓国のソーシャルVR事情に、隣国である日本の関心も高まっているのだろうか。国境を越えたアクションがメタバースでどのように起こるかも、今後注目するべきだろう。

 第三者による「ゆっくり茶番劇」の商標登録が大きな騒動になったことを発端に、「ネットの共有財的な文化」をどう守るか、という問題が浮上している。おそらく、現時点で最も効果的な自衛策は「悪意のない者が先手を打って商標登録する」だ。しかし、出願を行うと実名や住所などが公開されるため、踏み込めない人も一定数存在する。

 そんなジレンマを解消する一手として期待できそうな事例が6月3日に起きた。「VRChat」の代表的な飲み屋街ワールド「ポピー横丁」の商標を、制作者の代理として「バーチャルマーケット」運営の株式会社HIKKYが商標登録を出願したのである。「ポピー横丁」の名前を守るための先手を打った商標登録であり、「将来にわたり一切の権利行使を行わない」ことを、HIKKYは宣言している。

 ユーザーやクリエイターに距離の近い企業による代理商標登録出願は、奇しくも「ゆっくり茶番劇」騒動の中で株式会社ドワンゴも行っている。これが最善策となるかはまだわからないが、制度改善までの次善策として、こうした動きが今後も見られるかもしれない。

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