特集「プロゲーマーになる方法と、そのセカンドキャリアについて」(Vol.2)
新たなチャレンジのために必要なものは“好奇心” or “危機感”! 『スマブラDX』現役プロゲーマー・aMSaと考える「セカンドキャリア」
2001年11月21日に、ニンテンドーゲームキューブ用のアクションゲームとして発売された『大乱闘スマッシュブラザーズDX(以下、スマブラDX)』。日本国内ではもとより海外でも爆発的なヒットを遂げた本作は、その競技性の高さも認められ、発売から20年以上が経過した現在も根強いトーナメントシーンの盛り上がりを見せている。
そんな『スマブラDX』シーンで活躍するaMSa(あむさ)は、「このゲームはアメリカの国技だ!」と表現する者も多い北米地域の大会において、日本人ながら数々の輝かしい成績を残し、2014年に国内史上初の『スマブラDX』プロゲーマーとなったプレイヤーだ。
海外大会への出場経験も数多く、それゆえに海外のプレイヤーとも親交の深いaMSa。長きにわたって国内外のコミュニティに貢献し続けてきた彼は、現在のプロゲーマーを取り巻く環境や、プロゲーマーのセカンドキャリアの現状についてどのような視点を持っているのだろうか。(山本雄太郎)
【特集】プロゲーマーになる方法と、そのセカンドキャリアについて
ゲーム開発協力を経て感じた「その後の立ち振る舞いの難しさ」
――始めに、プロゲーマーとしての現在の活動内容について教えてください。
aMSa:新型コロナウイルス感染症が流行し始める前の2019年までは、『スマブラDX』のプレイヤーとしての選手活動を中心に、さまざまなメディアへの出演や、国内外の大会の実況・解説などのお仕事をしていました。
一方でコロナ禍に入ってからは、『スマブラDX』がオンライン対戦環境のないゲームということもあり、選手活動そのものが難しくなってしまいました。ですから、ここ2年間ほどはYouTubeへの動画投稿やTwitchでのライブ配信といった、ゲーム配信者寄りの活動に重きを置いています。
ただ、昨今はゲーム配信者が群雄割拠しているような状況でもありますし、「そのなかで自分だけの強みは何だろう?」と考えたときに、“自分は『スマブラDX』にしっかり取り組んでいくべき”だと改めて感じたんですよね。従って現在は、選手活動を主軸に戻しつつ、配信者としても、より『スマブラDX』に特化したコンテンツを発信していく方向で取り組んでいます。
――『スマブラDX』の競技シーンにおいて、やはりコロナ禍が与えた影響は大きかったのでしょうか?
aMSa:そうですね。『スマブラDX』は20年以上前に発売されたゲームですから、最近のゲームとは異なりオンライン対戦機能が搭載されていません。必然的にプレイヤー同士で集まってオフライン対戦をするしかなく、大会の開催はおろか練習試合すらも難しい状態が続いていました。
最近は少しずつ各地で大会が再開されるようにもなってきたのですが、『スマブラDX』の競技シーンがもっとも盛んな地域は北米ということもあり、渡航に関してさまざまな行動制限があったことも選手活動の障壁になっていました。
――そもそも、『スマブラDX』でプロゲーマーを目指そうと思った理由について教えてください。
aMSa:私がプロゲーマーとしての活動を始めたのは2014年ごろ。当時のシリーズ最新作であったWii版『大乱闘スマッシュブラザーズX』は、それまでの作品とはコンセプトやゲーム性をガラッと変えてきた、という印象を個人的に持ちました。
『スマブラDX』には特有の高難度テクニックが無数に存在しており、シビアな操作精度が求められる点や、それゆえに戦略の自由度が高い点なども気に入っていたので、私としては最新作ではなく『スマブラDX』のほうにのめり込んでいったというのが最大の理由です。
また、その後2018年に発売されたNintendo Switch版『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL(以下、スマブラSP)』では、私自身がゲーム開発に一部協力しているということもあって、様々な観点から競技者としての活動は自粛しつつ、おもに実況解説や初心者から中級者の指導を中心に活動しました。
――『スマブラSP』の開発に携わることになった経緯について、可能な範囲で教えていただけますか。
aMSa:初めて公式側と接点を持ったのは、2014年の“E3”(※1)です。任天堂さんが、自分をE3に招待してくださったんです。
その後、競技者として活動を続けるなかで、『スマブラSP』の開発協力のお話をいただくことになりました。開発にどんな形で、どの程度関わっていたかという部分は守秘義務の関係上、明かすことはできないのですが、“開発に関わった後の立ち振る舞い”には、とても気を付けるようになりました。
(※1)E3……Electronic Entertainment Expo。アメリカのゲーム業界団体が主催する、世界最大規模のゲーム見本市。
――“開発に関わった後の立ち振る舞い”とは、たとえばどのようなことでしょうか?
aMSa:普段の発言から行動まで、すべてに気を遣うようになりました。たとえば、仮に私が公の場で「このキャラは弱い」と発言したとしたら、「いや、強くしろよ」、「開発に関わっているんだからうまく調整してほしかった」と思う人がいてもおかしくありません。これは極端な例でしたが、私の立場なりに『スマブラSP』を盛り上げたいと思う一方で、『スマブラSP』に関わる配信などの表立った活動は難しいなと感じました。
現在では競技者としては『スマブラDX』の活動一本に絞りつつ、『スマブラSP』では一歩引いて実況解説、初めてスマブラをプレイする新規参戦者向けの情報発信を行っています。
私個人としては、現状“開発に関わったプレイヤー”を競技シーンでどう扱うかという部分が整備されていない以上、関わったタイトルで競技者になることは諦めるべきだと考えていますし、表立った活動が難しいのも仕方がないかなと思っています。ただ、それでもゲームの開発に関わる機会というのは、なかなか得られる経験ではありません。今後皆さんが”プロゲーマー活動”か“開発に関わったプレイヤー”のどちらかになれる選択があった時は何度も何度もよく考えて後悔しない選択をしてください。
私自身はもちろん『スマブラSP』の競技活動に興味がなかったわけではありませんが、それでもゲーム開発という一つの夢が実現することができて本当に良かったと思っています。このような機会をくださった関係者の方々には感謝してもしきれません。