『遊戯王 マスターデュエル』待望の新パックリリースも多くの課題。最大の問題は「自動デュエルBot」への対応

『遊戯王 マスターデュエル』が抱える多くの課題

シングル戦の恩恵を受ける「自動デュエルBot」

 『遊戯王』というカードゲームは、先攻で一気に展開して強力な盤面をそろえ、後攻の相手ターンに何もさせずに勝利する「先攻制圧」が強力なカードゲーム。また、カードプールの多さゆえに強力なコンボが多く、先攻1ターン目で相手のライフを削りきる「先攻ワンキル」デッキも存在する。

 アナログTCGの大会等では、2本先取の「マッチ」戦が主流で、1本目終了後に、準備しておいたデッキ調整用のカード(サイドデッキ)から、対策カードを投入できるルールでゲームバランスを保っている。しかし、『マスターデュエル』では1戦で勝負が決まる「シングル」ルールのため、こうした戦略がTCG以上に強力で、環境上位の殆どが「先行制圧」を得意とするテーマだ。

先行制圧といえば「ドライトロン」
先行制圧といえば「ドライトロン」

 ゲームバランスや環境の多様性のためにも、こうした環境を変えていく必要があることは間違いないが、最大の問題は「シングル戦」のみの現状を悪用したBotの存在だろう。

 前述のとおり、『遊戯王』は先行で相手のライフを削りきるようなコンボが存在しているが、こうした「ワンターンキル」デッキは先攻をとらなければいけないことに加え、成功率を考慮すると、安定して勝利を目指すならば環境上位・中堅デッキに軍配が上がる。

 しかし、勝利報酬として入手できるゲーム内通貨(ジェム)を集めることを目的に、「ワンターンキル」をオートで回すBotが登場。Botに数をこなさせて報酬を得ようという訳だ。「シングル」戦では、対策カードが手札に無い場合、コンボが決まってしまえばBotが相手であろうと何もできずに敗北してしまうため、不満や不公平感を感じるユーザーは少なくない。また、こうしたBotは、一部のカードの処理が非常に早かったり、特定の状況で意味のない行動を連発したりといった特徴があるものの、ぱっと見では実際のプレイヤーと見分けがつかないため余計にタチが悪い。

 筆者が調べたところ、『マスターデュエル』のBotは、インターネット上で販売されており、プレイせずに報酬を得たいプレイヤーがBotを購入して使用しているようだ。また、同じサイトではアカウントも販売されており、アカウント販売業者がBotを使用しているケースもあるだろう。

悪用を防ぐため詳細は伏せるが、中国のサイトではアカウントやBotが販売されている
悪用を防ぐため詳細は伏せるが、中国のサイトではアカウントやBotが販売されている

 ユーザーもBotに対抗して、環境デッキにも刺さる対策カードを多く積んだり、Botに強いテーマが注目を集めたりと、デッキの内容を変化させる動きがあった。特に話題になったのが、Botがよく使用していた「D.D.ダイナマイト」と、このデッキの対策方法だ。このデッキはこちらのEXデッキを除外するカードを使用した後、除外されているカード分のバーンダメージを与える「DDダイナマイト」を複数枚使用し、こちらに何もさせずにライフを削りきるデッキなのだが、EXデッキを上限の15枚よりも2枚少ない13枚にすることで、除外されるカードを減らし、バーンダメージで即死しないように調整したデッキが見られるようになった。

D.D.ダイナマイト
D.D.ダイナマイト

 その後、Botはデッキの内容を変更したり、別テーマでのワンターンキルデッキを使用してくるようになったり、かとおもえばBotの使用するデッキに強い「真竜」が注目されたりと、いたちごっこの状態となっている。皮肉なことに、新カードやリミットレギュレーションの変更ではなく、Botへの対抗意識で環境が変化しているのだ。

 もちろん、運営サイドも無策ではなく、Botを使用しているアカウントを処分しているはずだし、reddditでは勝利報酬が得られる試合数に上限が設けられたという投稿も存在する(https://www.reddit.com/r/masterduel/comments/tvwy8x/good_news_daily_gem_drop_cap_might_have_been/)。しかし、公式からBotに関するアナウンスが一切ないため、その実情は不明だ。

課題は多いが、ポテンシャルは確か

 『遊戯王』は、『マスターデュエル』リリース前から動画サイトで一定の視聴者を獲得していたコンテンツであり、『遊戯王』の小噺的な情報を発信するチャンネルや、パックの開封動画が人気を博していた。『マスターデュエル』リリース後、こうしたコンテンツの勢いは増しており、SNS等で『遊戯王』の二次創作を見かけることも増えたと感じる。様々な課題を抱えつつも、『遊戯王』というカードゲームのポテンシャルの高さと、それを手軽に、オンラインでプレイできる『マスターデュエル』の魅力は確かなものだといえるだろう。

 だからこそ、ここであげた様々な課題のいち早い解決を期待したい。今回リリースされた新パックの販売期間は2カ月なので、6月には次のパックが追加されることが予想される。ここで強力な「相剣」や「ふわんだりぃず」といったテーマが実装される可能性があり、環境の変化が期待できる。そのタイミングで、禁止制限の変更もあるのではないだろうか。Botの問題も(アカウント売買や、Bot販売業者というゲーム業界全体の課題ではあるが)禁止制限の変更の中で、ある程度は対策が可能なはずだ。

 それまでの間、無策ではユーザーの心が離れてしまうかもしれない。そうならないためにも、ストラクチャーデッキの販売や、ルールの追加といった何らかの施策が必要だろう。一人のデュエリストとして、今後の展望に期待したい。

(c)スタジオ・ダイス/集英社・テレビ東京・KONAMI

(c)Konami Digital Entertainment

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