高級スマホで見かけることが増えてきた、『有機ELディスプレイ』って何?

「有機ELディスプレイ」って何?

 テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。  本連載はこうした用語の解説記事だ。第13回は「有機ELディスプレイ」について。ここ数年、急速に普及が進む「有機ELディスプレイ」だが、液晶とは何が違うのだろうか。有機ELと液晶の違いなどについて紹介しよう。

 ここ数年、薄型テレビやスマートフォンの高級モデルにおいて、表示パネルは「液晶」から「有機EL」に切り替わってきている。とはいえ、外見上においてその2種類に違いはほとんど感じられない。それでは一体何が違うのだろうか?

 第12回で紹介したように、液晶パネルとは、電圧をかけることで色のある状態とない状態を切り替えられる「液晶」を利用した表示デバイスであることを説明した。液晶は光の通り方を変更することで表示するデバイスなので、反射光を利用するか、バックライトで裏から照らすことで見えるようになる。これに対して、有機ELでは自分自身が光を放つ「発光体」を利用している。ごく小さな電球がたくさん並んでディスプレイを構成しているのが有機ELディスプレイの正体だ。つまり、形状は液晶パネルに似ているが、有機ELと液晶は、表示原理がまったく異なるのだ。

 そもそも有機ELの「EL」とは「Electro-Luminescence」(電気を使った発光現象)を意味する言葉だ。Luminescenceとは、炎や電球のように熱ではなく、化学反応や原子の内部変化によって発光する現象となる。たとえばホタルやホタルイカなどは体内の発光物質「ルシフェリン」が酵素「ルシフェラーゼ」と反応することで光っているが、これがまさに“Luminescence”だ。

 液晶の場合、電圧をかけていない状態が透明、かけている状態が黒となる(VAパネルはその逆)ため、純粋な黒を表示するのが難しく、光漏れを抑制するのが困難なため、コントラスト比も高めにくい。これに対して有機ELは、電気を通していないときは光を透過させないので黒はほぼ完璧な黒として表現できるし、光漏れはないため、コントラスト比も液晶とは文字通り桁違いに高くできる。階調表現のきめ細かさも有機ELのほうが格段に上だ。一定の明るさの電球をカーテンなどで遮って調光するのと、電球自体の調光機能で調光するのでは、どちらが細やかに明るさを調節できるかを考えればわかりやすいだろう。このほかにも応答速度が速いこと、バックライトが不要なので構成する部品点数が減らせること、薄く軽量で、ある程度曲面のある構造にできるのもメリットの一つだ。

 先ほど有機ELディスプレイの構造を「小さな電球が並んでいる」と表現したが、実際、有機ELはLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)と極めて構造が似ている…というか、発光体が無機物なのがLEDだ。なので、有機ELディスプレイの発光素子は「OLED」、つまり「有機発光ダイオード」とも呼ぶ。

 OLEDは液晶と比べて多大なメリットがあるが、一方で同じものを表示し続けている(発光し続ける)とその状態が固定されてしまう「焼き付き」が発生しやすいほか、製造コストが高い、液晶と比べて寿命が短いといったデメリットもある。こうしたデメリットのいくつかを解消し、薄型ディスプレイの新しい本命として注目されているのが「マイクロLEDディスプレイ」だ。

 これらは有機ELディスプレイと同様に、極小のLEDを並べてディスプレイを構成する。有機ELのように焼き付きやすい、寿命が短いといった欠点もない。理想的な表示デバイスのように見えるのだが、現在の製造技術では、こうした極小LEDを大量・高密度に実装するのが非常に難しく、また発熱の問題も残っている。現時点では小さめ(10インチ程度)のパネルをつなぎ合わせて大画面を作るしかなく、現在の有機ELディスプレイのような大型化にはまだ数年はかかりそうだ。

 マイクロLEDと似た単語としては「ミニLED」という単語があるが、これは液晶パネルにおけるバックライト向けの技術。通常は多くても数センチ間隔で配置されるLEDバックライト(廉価なパネルではエッジ部分にしか配置しない)を、極小のLEDを数ミリ間隔でアレイ(行列)として並べたもので、細かなバックライト制御が可能になる。これにより高輝度・高コントラストを実現するという仕組みだ。

 またマイクロLEDとセットで「量子ドット」(Quantum Dot:QD)という技術も使われる。量子ドットはカドミウム、亜鉛、セレン、硫黄などからなるナノmサイズの微粒子で、これに光を当てると光の波長を変調する(色を変換する)ことができる。この特性を利用して、バックライトの光を変調してRGBを表現するのが量子ドットパネルだ。量子ドットにはRGB各色の純度が高く、色再現度が高いこと、また消費電力が低いという特性がある。一方、カドミウムなどの有害な重金属を使うことで環境負荷が高いことが指摘されてきたが、カドミウムを使用しない量子ドットも登場しており、問題は解消されつつある。

 さらにOLEDと量子ドットを組み合わせたパネルも登場しており、ディスプレイ技術の進化は止まるところを知らない。今後8Kディスプレイや、スマートフォン用ディスプレイ、またVR・ARヘッドセットのさらなる高解像度化など、ディスプレイ技術の高度化はさまざまな分野に大きく関わってくるだけに、今後も技術革新に大いに期待したい。そしてユーザーは目的や予算などと相談しつつ、賢く最適なディスプレイを選べるようにしたいところだ。

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