アーケード版『頭文字D』が世界でも人気のゲームになるまでーープロデューサーが語る、様々な課題をクルマへの情熱と愛情で乗り切った20年史

頭文字Dの20年史

筐体に隠された“夢のタッグ”と、時代に合わせた「進化」

――それはすごいですね・・。新井さんがシリーズを重ねていくうえで、印象的だった“進化”についても教えてください。

新井:店舗間通信対戦を取り入れた、2007年の『頭文字D ARCADE STAGE 4』は筐体としての大きな進化でした。店内対戦も面白いのですが、あくまで友達同士で楽しむもので他人同士だとできないじゃないですか。ゲームセンターに友達がいなくてもどこかで繋がって戦えて、そのうえで店内対戦もできるという形にすることで、ユーザーさんから多くの喜びの声をいただきました。ただ、一方で海外の市場を失ってしまったんです。海外はネットワークが脆弱なので、店舗間対戦が導入できなくて台数が減りました。そのときは今後、世界でネットワークが繋がることを信じて出したのですが、結果的にゲーム専用の回線を引くまで設備は整いませんでしたね。

 ほかには、ステアリング(ハンドル)などの進化ですね。初代の筐体はステアリングが大きいんですよ。しかも、ほかのゲームよりもハンドルが回る。これはセガの中で作ってほしいと担当部署にお願いしたんですけど、当時は売れるかどうかも分からなかったこともあり反対されました。結果、当時ナムコに勤めていた友人の小山順一朗(『湾岸ミッドナイト』)を介して、『リッジレーサー』などで使っているステアリング(ハンドル)を売ってもらったんです。あと、車のモデリングは大変でしたね・・。そこも某社と情報を交換するような形で技術を提供していただきました。

――裏側では夢のようなタッグが実現していたんですね。

新井:いまとなっては難しいと思うんですが、良くも悪くも自由でしたね(笑)。また、『頭文字D ARCADE STAGE 4』からはパーツを好きに付け替えれるようにしたのですが、あれは大変どころの騒ぎではなかったです。当時はそれでリリースが伸びたり、社長に怒られたりもしましたから(笑)。次に大きな筐体のアップデートは『頭文字D ARCADE STAGE Zero』ですね。大きいステアリングは本格的で楽しいのですが「疲れる」という意見もあったので、思い切ってステアリングを小さくし、ICカードをAimeに変更したんです。

――最初からこだわりがあった部分を変えるというのは、葛藤もあったと思います。

新井:そうですね。ただ、20年も経つと遊ぶ方も変わっているんですよ。免許証を持ってない方も増えましたし、自分の家にパソコンがあってゲームをすることが当たり前になり、スマートフォンのゲームも含め、回線が高速化して常にネットでカジュアルな対戦が当たり前になりましたから。そういった背景もあって『頭文字D THE ARCADE』では店内での4人対戦機能を実装したんです。

――自分は「なぜこのタイミングで?」と思いました。

新井:新型コロナウイルスの影響は想定外だったのですが、ゲームセンターならではの体験を重要視しようということで、「対面でわいわい言いながらやる」ことや友達に会うことが店舗へ訪れる動機になるならそうしよう、と考えたんです。

――ある種、価値観が一周したともいえますね。こうして20年を振り返る取材やプロジェクトが始まり、新井さん自身がこれまでを総括しなおしたことで、新たに気付いた点はありますか。

新井:『頭文字D ARCADE STAGE Ver.1』〜『頭文字D ARCADE STAGE Ver.3』は、僕が車好きということもあり、「ゲームを通じて車好きを増やしたい!」という裏の目的があったんです。ただ、途中からは「これって漫画の原作あるんだ」「アニメしか知らない」という声も聞くようになって、「『頭文字D』をもっと多くの人に知ってほしい」「ゲームセンターを活性化させたい」「レースゲームの火を絶やしちゃいけない」という使命感が芽生えていたのだなと思いました。

――ここまでの20年を伺って、ある程度やりたいことは実現されているのかなと思ったのですが、まだやり残していることや、今後新たにやりたいことはありますか?

新井:ゲームの中身に関してはある程度やりたいことは実現できていると思いつつ、コロナ禍でイベントなどの施策をやり切れず悔しい部分はあるので、今年の後半くらいには、みなさんとお会いできる機会も作っていきたいです!

撮影協力:「バック・トゥ・ザ・アーケード」
住所:千葉県松戸市金ヶ作419-31 1階
店舗情報:https://www.facebook.com/%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%A5%E3%82%B6%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%89-1445804155713811/

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