コラージュアーティストとアドビクリエイターサポートが考える、2022年のアーティスト仕事論

ーー近年、アートを仕事にすることや、アーティストが報酬を受け取る方法が多様化していますが、どのような印象を抱いているのでしょうか。

カズシ:Web3.0時代に入ったわけですが、Web2.0の時代はSNSが主流でした。SNSで積極的に発信していくことで、仕事を受注していく流れが出来上がっていて、今後もまだ続いていくのは変わらないでしょう。一方で、NFTが出てきたことで「自分を直接売る」ことができるようになった。自分で作品を作り、Openseaなどのプラットフォームに公開することで、海外にも発信していけるようになるので、今まで以上にクリエイターの生き方が多様になってくると思います。ただ、NFTアートだけで食べていけるのは一部の人だけになると思うので、SNSもNFTアートも両輪で回していくのがいいのではと感じていますね。

ーーカズシさんにとってNFTの魅力は何ですか。

カズシ:クリエイターの方が、自分の個性を最大限に発揮できるのが一番の魅力ですね。お仕事の場合だと、依頼されたものを制作するクライアントワークになるわけで、依頼主の要望に応じたクリエイティブを作っていくのが基本になります。NFTアートは需要も意識はしつつも、自分の感性や個性を重視して制作できるので、そういう意味ではクリエイターにとってやりやすい環境ができていると率直に感じています。

NFTが最初に話題になった際、一度やって見ようと考えたんですが、仕組みの理解や仮想通貨の知識など、事前に把握しておくべきことが複雑すぎて断念したんです。その頃、日本ではそれほどNFTも流行ってはいなかったので、そのうちやればいいかなと思っていました。それが2021年10月くらいに急に流行りだし、身近なクリエイターもNFTをやり始めていたんですよ。そこで、「身近な知人がやっているなら、NFTのことを教えてもらおう」ということで、直接聞いて始めました。

ーーアドビのNFTへの取り組みについてはいかがですか。

川西:NFTのウォレットがBehanceにも連携できるようになったのがAdobe MAX 2021のタイミングでした。NFT自体は、私自身がコミュニティを運営しているなかでも、個人的に気になっていたトピックで、クリエイター自身も興味を持っていたので、ゲストを招いてのイベントを開催するなどして、NFTの実情を知る機会を作りました。(参考リンク:Creators Meetup | 気になるNFTアートについて #AdobeResidency

ーー非中央集権型インターネットとも呼ばれる「Web3」については、どのような所感をお持ちでしょうか。

カズシ:自分自身も、まだ完全に把握しているわけではありませんが、ブロックチェーン技術が使われることで偽物が排除され、唯一の物だけが存在し続ける世界が特徴と言えるかもしれません。それはさまざまな分野にも影響を与えてくると考えています。お金を例にとっても、これまで銀行に預けていたものが、ブロックチェーン技術によって守られた仮想通貨のウォレットに預けるようになるわけです。

現時点では身近なところから少しずつ変化してきていますが、将来的には色々なことが変わってくることで、大きなパラダイムシフトを生み出すのではと見立てています。

ーークリエイターが作るアートの価値が、デジタルの世界でも「仕組みによって担保される」ことはアドビにとっても重要だと思いますが、その辺りの見解はいかがですか。

川西:会社として正式な見解はまだ出してはいませんが、個人的には分散型トークンが発行されたことで、それぞれの世界で取引が広がっていくのではと思っています。要は一種のコミュニティと捉えることもでき、そのコミュニティ内で貢献してくれた人には一定のトークンを渡すといった世界ができてくると、そのトークンを持っている人だけが参加できるイベントに招待される。あるいは、トークン保有者限定の動画が閲覧できるなどのようなコンテンツも生まれるでしょう。こうしたコミュニティから、既存のものではない新たなクリエイターの価値が創造されると期待しています。

ーーカズシさんは今後もアドビ製品を使いながら、コラージュアーティストとしての活動を続けていく予定ですか。

カズシ:そうですね。一生コラージュアーティストをやっていくつもりです(笑)。環境は変わるかもしれませんが、ものづくりをするという観点ではずっと継続していく予定です。現在、NFTアートのコレクションに関しては3つ展開しています。1つ目はコラージュでアートを作るという感覚に特化した作品。2つ目は、NFTのトレンドに合わせた形でSNSのアイコンに映えるよう、人物にコラージュを施した作品。そして3つ目は、イラストに寄せたコラージュ表現の作品になっており、最近はこの3つのコレクションに関わる作品の制作に従事しています。NFTアートは流行の動きが早いので、常に情報をキャッチできるように意識していますね。常に注目されているもので言えば、アイコンに使用するアートであり、そのトレンドにマッチするような作品を作ることが大切になってきます。

また、アイコンを全く意識せずに、ひとつのアートとして見てもらうために作り込んだ作品も注目を集めているので、目的に合った作品を作っていくことが肝になってくるでしょう。他方、「作品を売るのではなく、ストーリーを売る」という側面があるのもNFTアートの興味深いところです。この作品にはどんなストーリーが込められており、購入者はどのような価値が得られるのか。ということを考える必要があるでしょう。NFTは意外なものがアート的価値を生み、想像し得ないような評価をされる可能性もあるからこそ、あらゆるものや体験がアートになることを抑えておくのが大事になってくるのではないでしょうか。

ーー川西さんは今後もコミュニティを大事にしていきながら、クリエイターのサポートを行っていくのでしょうか。

川西:コミュニティを活性化させるためにも、実際にアドビ製品を使っているクリエイターの声を聞きながら、最大限のサポートをこれからも行っていければと考えています。私が属しているチームも、長年コミュニティ運営をやってきたことで、クリエイターを支援するというカルチャーが根づいているんです。やはり、一人で事を起こそうとしてもなかなか限界があるので、バーチャルの中でもクリエイター同士が横で繋がって知見の共有や新たな気づきを得る機会はとても大事になってきます。

NFTの文脈で見れば、Discordでやりとりする流れが非常に面白い文化だと思いますね。アートを買ったファンと作家が近い距離でコミュニケーションできるのは、これまでにない新しいコミュニティの役割を果たすのではと感じています。作家としては、次回作を出す際にもファンに直接聞きながらアイデアを出せるので、売れるアートを制作しやすいメリットがあります。ファンについても、作品を買ってあげることで好きな作家を応援しようとする機運も生まれるわけです。

ーーカズシさんは実際にNFTアートを購入したファンの方とコミュニケーションした経験はありますか。

カズシ:自分の場合はTwitterで購入してくれた方と繋がって、コミュニケーションを図っていますね。また、NFTをやっていること自体が稀な状態なので、NFTの世界に関心のある人で集まっています。みんなで会話をしたり情報交換したり、ちょっとした絆を感じているような状況です。

ーー最後に、カズシさんからアドビに対しての要望があればお聞かせください。

カズシ:アドビ製品との出会いはデザインの専門学校時代で、そこからずっと使い続けているものなんです。技術としてすぐ思い浮かぶ要望としては、海外のNFTシーンで流行っているジェネラティブというものです。1つのキャラクターを元にして、AIを使って、瞬時に1万体作る技術があるんですが、世界トップクラスのNFTアートを販売するクリエイターの多くは、このような作り方をしたものが売れている傾向があるんです。もし、アドビの機能でできたらすごいなと思っています。今は特殊な能力が必要になり、どうしても手作業では数を増やすのに限界がある。近い将来、アドビの機能としてリリースされるのを期待したいです。

ーーアドビとしては今後のテクノロジーに対し、どのような視座を持って取り組んでいく予定ですか。

川西:アドビはこれまで、クリエイター向けにさまざまなツールやソフトを提供してきました。また、「Adobe Sensei 」のようなAIのテクノロジーを使って効率的に作業ができ、もっとクリエイティブに時間を費やせるようなサポートも行っています。今後としても3Dやメタバースといった最先端のテクノロジーにも対応できるようなツールやソフトを開発していく流れなのかなと思っています。

また、ツールを自社で開発するだけではなく、外部からも調達して連携させることで、クリエイターの方が必要とするツールを充実させられるのがアドビの強みでもあります。変化が激しく、未来が見通しづらい時代ではありますが、クリエイターのニーズやクリエイティブトレンドを研究し、常に最善が尽くせるように、これからも心がけていきたいと考えています。

カズシフジイプロフィール
NFTクリエイター、アートディレクター、コラージュアーティスト。フリーランスで活動中で、さまざまな分野のデザインを手がける。 Adobe主催の国内外のコンテストで多数の賞を受賞。 NFTでも国内外のランキング上位に入り、複数のコレクションを運営。 300近い数のNFTが完売。現在は新コレクションの企画を進行中。

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