小説家デビューのにじさんじ・来栖夏芽が持つ、配信者&作家としての「高いタレント性」
エンターテイメントシーンにおいて「タレント」という言葉を目にしたとき、あなたはどのような存在を思うだろうか。
優雅に歌い踊って観衆とスポットライトの視線を集めるアイドルやロックスター、フィクションの物語に則りながらも、様々な感情を真に感じさせる演技を次々と見せてくれる銀幕のスターなど、「タレント」という言葉は確かに「芸能人」や「スター」というイメージに繋がりやすい。
だが本来その意味は「才能(≒芸に秀でている)」ということを忘れてはいけない。秀でた才能を持った方々が意を決して集まり、存分にパフォーマンスを示し、多くの人の心に忘れられない記憶と教訓を覚えさせる。お笑い芸人、スポーツマン、文芸人、政治家、そのフィールドは各々は違えど、その才能において確たる違いを見せる人たちを「タレント」ということができる。
100人以上があつまるにじさんじというバーチャル「タレント」集団において、来栖夏芽はその文才で違いを放ち、ライトノベル作家としてデビューを果たすことになった。そのきっかけは『Minecraft』において同僚の天宮こころが企画した「にじ文豪になろう!」だった。
2020年の秋ごろ、『Minecraft』内に図書館を建築したことをきっかけに、「にじさんじライバーに物語を書いてもらおう!」と思い立ち、書いてくれそうなメンバーの家に本を置いていった。
月ノ美兎、アンジュ・カトリーナ、早瀬走など23人のメンバーが参加し、ホラーやコメディ、日記や女性向けな内容など、バラエティ豊かな作品が揃うことになり、執筆した・しないに関わらず多くのライバーが「寄贈図書を読む」配信をし、ファンにとっては思い出深い企画となった。
その中で来栖夏芽が執筆したのが『吾輩はネコである』『バナナの皮で滑ったら異世界に!』の2作だった。その内容については是非配信を見ていただきたいところだが、驚くべきは展開の決め方にある。
執筆を始めようとすると、「あたしがコメントで<このした!>って打って、その内容に合わせてみる?」という古きインターネット風習に則り、ちょうど配信を見ていたリスナーにお題を任せることに。内容として選ばれたのは「わんにゃんペット大集合」というコメント。ここからテーマや起承転結などを決め、「三題噺形式にしましょう!」と号令をかけて新たに3つの話題を集め、さっそく執筆を開始した。
配信の2時間ほどを執筆にあてて最後まで完成できなかったものの、翌日の『Minecraft』配信では「三題噺形式」の短編ともう一つの短編をも執筆し終えており、冒頭でリスナーに披露。
そのクオリティの高さはリスナーからリスナーへ、またライバーからライバーへと移っていき、「寄贈図書を読むなら夏芽さんの作品を読んだほうが良いと言われた」という噂になるまでに。実際にその内容を読めば、「これは天才」「映画化決定だわ」「なちゅめ先生、感動したよ」とライバーやリスナーから次々に声があがったのだ。
そんな彼女の作品を知ったのが、KADOKAWA MF文庫Jの編集部員。のちの配信で「マイクラ図書館の作品を見て声をかけたとお聞きしましたが、どのようなところに魅力を感じたのか?」というリスナーからの質問に対し、
・メリハリのある構成が作れている
・小説として読みやすい筆致と、破綻の無い文章が書ける筆力がある
・繋がりの無い3つのお題を、破綻なく物語に上手く落とし込める柔軟性と発想がある
・読み手の感情を揺さぶる展開・ドラマが作れている
という4点をあげ、すぐに連絡をしたという。
「ライバーとしての活動を最優先にしてほしい」と言われていたこともあり、執筆は活動と並行して進み、約1年ほどの執筆期間をおいてKADOKAWA MF文庫Jからデビュー作『人外教室の人間嫌い教師』が上梓されたのだ。
「VTuberが小説家としてデビュー!」という話題が、驚きとともに受け取られたのは言うまでもない。重要なのは、にじさんじのライバー/VTuberとして、ライトノベル作家として、「来栖夏芽」というタレントがどのように育っていくかであろう。彼女の次回作、日々の配信を通し、その活躍を目にしてはいかがだろうか。