「ゼルダのあたりまえ」を壊し、オープンワールドのレベルを引き上げた『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』 発売5周年を機に振り返る
オープンワールドのゲームは、ややもすると移動が面倒に感じやすいという一面がある。しかし、『ゼルダBotW』はさまざまな要素のかけ算により、移動を退屈なものにしていない。
それを実現するものの一つが、クライミングと滑空だ。本作では、山や壁などあらゆる場所を登ることができる。そして、クライミングによって高所に辿り着けば、眺望の良さだけでなく、次に移動するルートを考えやすいという利点もある。「パラセール」というアイテムを使って遥か遠くまで滑空することができるからだ。このクライミングと滑空により、世界がより広大かつ立体的に感じられる。これほどフィールドを立体的に活用できているオープンワールド作品は、当時はまだ少なかったのではないだろうか。
また、自由度が高いだけでなく、プレイヤーに適度なストレスを与える制約の要素もある。たとえば、クライミングや滑空では、「がんばりゲージ」が消費され、ゲージが底を尽きると落下してしまう。がんばりゲージを強化するには、「試練の祠」をいくつかクリアする必要があるため、序盤では高い山を突破することは難しい。しかし、休みながら登れるルートを探したり、他の少し低い山から滑空したりといった工夫次第で、序盤であってもどこにでも行くことができるのだ。このように、自由と制約のバランスが取れていることも、『ゼルダBotW』の評価点だろう。
しかも、フィールドにはさまざまなスポットやイベントが用意されていて、プレイヤーを飽きさせない。先述した「試練の祠」のほかにも、モンスターのアジトや妖精の泉、謎に包まれた遺跡などさまざまなスポットがある。また、探索の途中で商人に扮した暗殺者に突如襲われたり、現状では太刀打ちできない強大なモンスターに遭遇することもあるのだ。そして、命からがら逃げおおせた先で、馬宿の明かりにほっと胸をなでおろす人もいるだろう。そんな『ゼルダBotW』の舞台は、広大でありながら緻密で、一人ひとりの冒険にさまざまなドラマを生む。
『ゼルダBotW』はそれまでの「ゼルダの当たり前」を見直すだけでなく、オープンワールドというジャンルに新たな基準を設けた作品ともいえる。それは、すでに本作の影響を受けた作品がいくつもリリースされていることからも明らかだ。それだけに続編のハードルは高そうだが、この類まれなタイトルを下地にしてどんな作品が生まれるのか楽しみだ。