にじさんじ・笹木咲が内に秘める“静かな覚悟” 「やりたいことができないならば意味がない」

にじさんじ・笹木咲が内に秘める静かな覚悟

 そもそも、「ゲーム実況」自体が権利侵害になりかねないジャンルなのは間違いない。2010年代の途中までは明らかに「グレーゾーン」であり、日本ではニコニコ動画などでの生配信主が、海外ではTwitchで配信するストリーマーが多くいたが、いずれも権利元から黙認されて活動する状況が長く続いていた。

 叶の記事でも言及したが、2018年の4月~6月というと「ゲーム実況配信」がVTuberやバーチャルタレントのなかで盛り上がっていくかどうか、というタイミングでもあり、VTuber・バーチャルタレント以外のゲーム配信者が強い影響力を持っていた。それに加えて権利関係についてもグレーゾーンが多いとなると、想像以上に難しい時期だったことが想像できる。

 笹木の復帰後、ゲーム配信における権利関係についてはいちから社(現:ANYCOLOR社)が丁寧かつクリーンに手続きを進めるようになっていく。配信内でその手順・内容について触れたライバーによれば、運営スタッフと所属タレントの間でスプレッドシートを共有し、配信でプレイしたいゲームタイトルのピックアップやメーカーへの問い合わせ、その配信許可の有無が共有されているとのこと。

 一連の流れから約1年後、にじさんじは任天堂やセガの関連ゲームに関する包括的許諾契約を次々に締結し、多くのゲーム会社が新作ゲームのPR配信を提案するようになっていく。

 この潮流はにじさんじだけの話ではなく、同じバーチャルタレント事務所であるホロライブを運営するカバー社も同様の契約を締結し、配信者(ストリーマー)を集めてビジネス展開を試みる会社がつぎつぎと登場した。

 こうした流れをうけ、ゲーム会社・制作サイドもガイドラインをしっかりと提示するなど、「ゲーム実況配信」に立ち込めていた霧がどんどんとクリアになっていった。くようにシーンが動いていった。

プレスリリース:株式会社セガの著作物の利用に関する包括的許諾契約を締結

 いまでは公式が管轄するなかでカジュアル大会や大型イベントがさまざまな形で開催されるなど、「ゲーム×ストリーマー(配信者)」が手を組んでゲームの魅力を伝えようというチャレンジが非常に増えているともいえる。

 これは10年ほど前の日本のネットシーンではほとんど見られなかった状況であり、ともすれば、ゲーム会社からの一喝で「関連ゲームの実況の全面的禁止」を言い渡される可能性もあったなか、クリーン&ホワイト化が進んだ結果だとも言えるだろう。

 さて、「やりたいゲームができないなら辞める」といって実際に辞めてみせた笹木の判断は、「ゲームのためならば何でもしてみせる」というバイタリティの高さとも読み解ける。

 何より、いまいちど戻ってきた彼女が復帰後に見せたのは、よりエッジで、よりパワフルで、よりエモーショナルに振る舞う姿だった。そこから彼女は周りの同僚を巻き込みながら、「負けん気の強さ×奔放な振る舞い×自然体の可愛さ」のギャップで多くのリスナーを虜にしていくことになる。

 そんな折、にじさんじが「ゲーム実況バラエティ番組」と称して公式番組「ヤシロ&ササキのレバガチャダイパン」をスタート。笹木咲は社築とともにメインMCに起用され、彼女自身が試される場所にもなった。なぜならそれまでの「にじさんじ公式番組」といえば、元一期生のJK組らが務めることが多く、ファンにとっても意外な配役に期待と不安が混ざっていたからだ。

 「ヤシロ&ササキのレバガチャダイパン」では得意な任天堂ゲームだけではなく、それまで一切プレイしたことのないゲームにもトライし、上手くいかなければ汚い言葉で怒りを露わにし、ナイスプレーをすればはしゃいで喜んでみせる。3Dボディの繊細な動きを活かして自由にエモーショナルを爆発させ、心配される視線をも吹き飛ばす快活な彼女がいた。

 MCの組み合わせにしても、淡々と冷静にゲーム解説やツッコミ役ができる社築、トガったり柔らかかったりと感情豊かに振る舞う笹木咲、この2人のキャラクターはピタリとハマり、いまではにじさんじ随一の人気を誇る番組へと成長した。

【マリオカート64】ヤシロ&ササキのレバガチャダイパン #39【にじさんじ】

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