革命的な”歌声シンセ”「CV-S1000V」登場 カシオトーンの進化を辿る
カシオ計算機株式会社から、常識を覆すシンセサイザー「CT-S1000V」が発表された。入力した歌詞を人の歌声のようにに歌わせることができる新機能「Vocal Synthesis」が最大の目玉だ。2022年3月上旬頃発売予定。
「ア〜」といったコーラス的なサウンドはこれまでのシンセサイザーでも演奏可能だったが、「Vocal Synthesis」は専用アプリ「Lyric Creator」を用いることで日本語や英語の発音・歌唱が可能に(なんと和音でも歌える!)。機械学習により新開発した音響モデルのおかげで、より人間らしい歌い方のシミュレートが可能になったとのこと。音声合成エンジンなどを開発している株式会社テクノスピーチの技術をベースにしているそうで、意欲的な試みだ。
カシオの鍵盤楽器といえば、懐かしき「カシオトーン」ブランドを思い出す人もいるだろう。実は2020年にカシオは電子楽器事業創業40周年を迎え、その歴史は同社の代名詞的製品である「G-SHOCK」よりも古いのだ。だが、楽器メーカーとして創業したわけではないカシオにとって、電子楽器事業は前途多難であった。
1980年に、電子楽器ブランドとしてカシオトーンを冠した第1号機「CT-201」が発売された。1980年初頭はヤマハやKORG、Rolandなど、国内楽器メーカーがデジタルシンセに本格参入し始めた頃で、まさにデジタル黎明期であった。カシオは独自開発したPD音源などを武器に各メーカーと戦ってきたが苦戦、80年代中ごろにはフラッグシップ機の競争から距離を取り、家庭向けの電子キーボードの製品に注力をした。
だがこの流れは「おもちゃとしての電子キーボード」という文化を大いに刺激したと筆者は感じている。筆者が子どもの頃はカシオトーンが家にあったし、ヤマハ音楽教室などでもよく見かけたものだ。シンセ=高価なものという当時の常識を打ち破り、電子楽器を身近なものにした貢献は大きいだろう。初心者の助けとなる、鍵盤が光る「メロディガイド」機能がカシオトーンから生まれたことは、もっと知られて良い事実だと思う。
2000年代に入ると、デジタル音源も一般的になり始めてきた。カシオは2012年にXWシリーズでシンセ事業に大きく踏み込んだが、これもあまり振るわず。「XW-DJ1/PD1」は、その独特な見た目で注目されていたと記憶している。カシオトーン再来のきっかけになったのは、2019年に発売された「CT-S2000」と「LK-312」だろう。手頃な価格と豊富なカラーで現代的にデザインされた「CT-S2000」は、特に高い評価を得た。筆者の肌感だが、2017年あたりからスピーカー内蔵の電子楽器需要が高くなってきたと感じている。
1980年から、カシオトーンをはじめとするカシオの電子楽器は、プロの現場だけでなく一般市民が音楽を楽しめる文化的な面も下支えしてきた。そんなカシオから、まさか歌声を演奏できるような革新的なシンセが発表されるとは、大いに驚かされるものだ。ある意味ではニッチな場所を突くカシオらしいアプローチとも言えるのだが……。
革新的な技術を携えて発表された、今回の「CT-S1000V」。従来の鍵盤楽器とは違い歌詞の準備などは必要だが、歌声の性別や年齢といった細かいパラメーター設定も可能で、一人演奏でありながら重厚なコーラスが実現できるかもしれない。PVを見て、その音色や「シンセの歌声」を確かめてみてほしい。
(画像=カシオ計算機より)