PS5とXbox Series X|S、次世代ゲーム機の“初年度”を振り返る 入手困難とソフト不足で存在感を十分に発揮できず?
2021年、それは家庭用ゲーム機における“次世代機”となるPlayStation 5とXbox Series X|Sが迎える最初の一年だった。年間を通して数多くの次世代機向けタイトルがリリースされ、圧倒的な需要に応えるように、そのパワーを遺憾なく発揮し、新たな時代の到来を高らかに宣言するはずだった。
……「はずだった」と書いたのは、本稿を書いている2022年1月現在、これらの次世代機の入手困難が続いており、そもそも市場全体に行き渡っているとは言い難いためである。もっとも大きな要因として考えられるのは、コロナ禍の影響によって生じた世界的な半導体不足に伴う生産数の低下だが、仮に生産されたとしても、今度はいわゆる「転売屋」によってユーザーの元へと届く前に店頭から消え去ってしまうという問題が待ち構えている。これは日本だけではなく世界的に同様の状況となっており、結果として、発売から1年以上が経過したいま、“次世代機”の存在感自体がもはや薄くなってしまっているようにも感じられる。
そして、その存在感の薄さは、もっとも重要なポイントとなるソフトラインアップに関しても同様だったのではないだろうか。筆者は幸いなことにXbox Series Xをローンチタイミングで、PlayStation 5を2021年初旬に手に入れることができたのだが、多くの次世代機版タイトルをプレイすることができた一方で、明確に「新たな時代の到来」を感じた場面は極めて少ない。
もっとも大きな要因としては、シンプルに次世代機専用タイトル自体のリリースが少なかったことが挙げられるだろう。2021年にリリースされたPlayStation 5専用タイトルとして目立っていたのは『ラチェット&クランク : パラレル・トラブル』と『Returnal』程度であり、Xbox Series X|S専用タイトルに至っては『Microsoft Flight Simulator』に限られてしまう。次世代機向けバージョンがリリースされたタイトル自体は多かったものの、それらはあくまで旧世代機(PlayStation 4 / Xbox One)版に対してある程度、画質やフレームレート、ロード時間が改善された、いわゆるバージョンアップ版である。それ自体は有り難いのだが、ユーザーとしての感覚はあくまでPlayStation 4 / Xbox OneからPlayStation 4 Pro / Xbox One Xへと移行した時のものに近い。
とはいえ、こういった状況はPlayStation 3からPlayStation 4への移行期となった2014年に関しても概ね同様であった。当時も『inFAMOUS Second Son』や『Sunset Overdrive』といった(当時の)次世代機専用タイトルがリリースされる一方で、『Grand Theft Auto V』や『Dragon Age: Inquisition』といった大半の大作タイトルがマルチプラットフォームでリリースされている。実際にPlayStation 4やXbox Oneがその本領を発揮し始めたのは『Bloodborne』や『ウィッチャー3 ワイルドハント』といった、いまなお名作として語り継がれるタイトルがリリースされる、ローンチから約1年半が経過したころである。つまりは、(当時とはゲーム開発を巡る状況が異なるため、単純に置き換えることは出来ないかもしれないが)今年、2022年こそが次世代機にとっての本当のターニングポイントであると言えるだろう。
現時点ではどうしても初旬にリリースされる『ELDEN RING』や『Horizon Forbidden West』といった期待の大作に注目が集まることになるだろうが、これらはあくまでマルチプラットフォームで展開されるタイトルだ。“次世代機”という点に着目するのであれば、5月リリース予定のスクウェア・エニックスによる『FORSPOKEN』(PlayStation 5専用)や11月リリース予定のベセスダ・ソフトワークスによる『Starfield』(Xbox Series X|S及びPC専用)などのタイトルに期待を込めたいところである(とはいえ、何よりも願うべきは、冒頭で述べた入手困難の状況自体が改善されることではあるのだが……)。
次世代機の存在を強く印象付けた、2つの「サイバーパンク」
そのうえで、PlayStation 5とXbox Series Xと共に過ごした1年を振り返ってみると、『ラチェット&クランク : パラレル・トラブル』の史上最高峰と言える美麗なグラフィックやステージ自体が丸ごと切り替わっていくようなギミック、『Microsoft Flight Simulator』での超本格的なフライトシミュレーターが家庭用機で動作することへの衝撃に圧倒された記憶が印象に残る一方で、次世代機による恩恵をもっとも明確に実感できたのは、(いまやすっかり悪名高い存在となってしまった)『サイバーパンク2077』だったのではないかと感じている。PlayStation 4 / Xbox One版での愕然とするほどに劣悪なパフォーマンスと、(決して皆無というわけでは無いが)深刻な問題が生じることなく動作するPlayStation 5 / Xbox Series X|S版の差はもはや別物と言えるほどであり、(決して望んでいない展開だったとはいえ)結果として次世代機のパワーを明確に感じることができたのだ。あくまで筆者個人としては同作に強く魅了されたのだが、仮に当時、旧世代機で遊んでいたとしたら、同様の感想を抱いていたとは考えづらい。圧倒的な密度と作り込みを誇り、まさにかつて映画や小説などを通して憧れたサイバーパンクの世界観がそのまま形となって表れたかのようなナイトシティの存在は、そもそも次世代機相当のマシンだからこそ実現できるものだったのではないだろうか。
また、もう一つの次世代機の存在を強く印象付けたタイトルとして挙げられるのは、昨年末にPlayStation 5、Xbox Series X|S用に配信された『The Matrix Awakens: An Unreal Engine 5 Experience』である。同作は映画『マトリックス レザレクションズ』のプロモーションとして無償で配信されたものだが、その実態は提携元であるEpic Gamesが手掛ける次世代ゲームエンジン・Unreal Engine 5の技術デモであり、同エンジンが持つ様々な機能を体験できる作品となっていた。同作における、映画のワンシーンを模した映像からそのまま画質が一切下がることなく操作パートへと突入する衝撃的なゲームパートや、数千人ものデジタルヒューマン“Metahuman”が行動する16km四方の広大なバーチャル都市のオープンワールドは、既存の“フォトリアル”という概念を大きく超える圧倒的なリアリティで驚嘆に値するものであり、まさに「新世代の到来」をこれ以上ないほどに強く感じさせるものだった。
同ゲームエンジンを活用したタイトルの開発はすでに各方面で進んでおり、12月発売予定の『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chernobyl』(Xbox Series X|S及びPC専用)などの作品が挙げられる。『The Matrix Awakens: An Unreal Engine 5 Experience』はゲームエンジンの開発元が直接手掛けた技術デモであるため、完全に同程度のクオリティを期待することは難しいかもしれないが、2022年はこのようなゲームエンジンを巡る動きについても注目したいところである。
『サイバーパンク2077』と『マトリックス』というサイバーパンクをテーマとした作品を並べたが、そもそも“サイバーパンク”自体が加速したテクノロジーが生み出す未来を投影したものであり、現実と仮想現実が一体化した世界を描いたものであることを踏まえると、技術の象徴としてサイバーパンクをテーマとした作品が出てくるのは、ある種の必然とも言えるかもしれない。そして、このような「次世代機による現実と仮想現実の一体化」はいわゆる「メタバース」を巡る議論へも繋がっていく。
1月5日に正式発表されたPlayStation 5向けの次世代VRシステム「PlayStation VR2」は、メタバース戦略を推進するソニーの武器の一つとして注目を集めており、一方でゲーム業界に激震をもたらした18日のMicrosoft社によるActivision Blizzard社の買収におけるプレスリリース*1では、「この買収により、マイクロソフト社のモバイル、PC、コンソール、クラウドにわたるゲーム事業の成長が加速され、メタバースを構築するための構成要素が提供されることになります」(筆者訳)という記載がある。さすがに2022年中に大きな動きが起こることは考えづらいが、次世代機の存在がメタバース戦略を語る上で重要な要素となっていくのは確実と言っていいだろう。