100万回再生される「笑い」の法則(第一回:佐久間宣行)
佐久間宣行が語る、テレビとYouTubeの違い 自身が出演する理由は「そんなプロデューサーいないから」
芸人がYouTubeやTikTokなどで発信することが増えた要因は、主にコロナ禍の影響であったが、いまやお笑いの表現の場の1つとして大きなプラットフォームとなった。動画コンテンツが盛り上がるいま、SNSで拡散され、話題を呼ぶような「お笑い動画コンテンツ」はどのように作られたのだろうか。連載「100万回再生される『笑い』の法則」」では、企画や制作を手掛ける人物たちにインタビュー。スマートフォンのなかで起きる“笑い”を生み出す秘訣を探っていく。
記念すべき第一回は2021年3月末にテレビ東京を退社して、フリーのテレビプロデューサーとなった佐久間宣行。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』(共にテレビ東京)など数々の人気番組を手がけるかたわら、『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)ではパーソナリティを務めるなど、自身が表に出る機会も多い。
そんな彼は7月にYouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCKTV』を立ち上げた。芸人などが出演するバラエティ企画が定期的に更新されていて、佐久間は演出をするだけでなく、出演者としても番組に加わっている。テレビ界の奇才はYouTubeという新しい土壌で何を始めようとしているのか?(ラリー遠田)
裏方が表に出ることの意義
——YouTubeを始めたきっかけは、スポンサーの会社からのお誘いだったそうですね。
佐久間宣行(以下、佐久間):そうそう。『ゴッドタン』のスポンサーのレアゾン(株式会社レアゾン・ホールディングス)という会社から「何かやりませんか?」と言われて。最初は広告とかCMを作るのかなと思っていたんですけど、「どうせなら佐久間さんがYouTubeで何か作るのを観たいんですけど」と言われて、そこから始まりました。
——最初の段階から企画内容も決まっていなくて、好きなようにやっていいという感じだったんですか?
佐久間:いや、いろいろな案は出したんですけど、最終的には「佐久間さんが決めてください」と言われたので、それならお笑いでやりたい企画はまだまだたくさんあるから、そこからやろうかなと。
——佐久間さんが裏方に徹するという方法もあったと思うのですが、ご自分が出演も兼ねる形にしたのはなぜですか?
佐久間:変な話ですけど、それが一番差別化できるかなと思ったんですよね。別にプラスになるかどうかはわからないですけど、こんなことはもう誰もやらないだろうなと思って。
裏方が表に出ることには賛否両論あるんだけど、賛否両論あるんだったら誰も何も言えないくらいのことをやったほうがいいなと思って『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のイベントも引き受けて、5000人の前でしゃべったりしたんですよね。自分が出て100万回再生の動画を作ったプロデューサーはあまりいないだろうから、そういう誰もやってないことをやってみたほうがいいかな、と思ったんです。
——佐久間さんは、ご自分がラジオに出ることで少しでも若い人がテレビに興味を持ってくれたらいいな、と思っていたそうですね。
佐久間:その目的は本当にあって、実際にけっこう達成しました。ラジオに出るようになってから、僕がやってる番組はTVerの登録者数とか再生回数が1.5〜2倍になったんです。
——裏方が出ることにはそういう意義もあるわけですね。
佐久間:たとえば、いま人気の『オモウマい店』(中京テレビ制作、日本テレビ系)とかも、作り手が映ってるわけじゃないけど、ディレクターの人柄とかが出てるじゃないですか。そうやって、作っているスタッフの人柄が出てる番組のほうが観る人に受け入れられてる感じがするんですよね。画面上に出ないとしても、作り手がこういう人ですよってわかってるほうが信用されてるんじゃないですか。
「好きな人が売れている世の中のほうがいい」
——企画を考える上で、テレビとYouTubeの違いはありますか?
佐久間:もともとテレビでは尺が足らないなとか、MCに合わないなと思って溜めてた企画がまだけっこうあるんですよ。たとえば、(インパルスの)板倉(俊之)が(仕掛け人として誰かを)操る企画って、板倉がMCの番組じゃないとできないじゃないですか。そういうのがYouTubeならできるんですよね。
あと、最近では、30分番組にはならないけどやりたい企画を思いついたら、溜めておかないで、どんどんやったほうがいいなと。出しておかないと、心の中に溜まっていって新しいのが思いつかなくなるんです。だから、本当にその場の思いつきみたいな企画をやってますね。
ボケとツッコミを100回きめるまでの時間を競う「100ボケ100ツッコミチャレンジ」も、撮る2日前に思いついたんです。箱(スタジオ)だけ押さえてあって、何を撮ろうかなと思ったときに「ラランドのスケジュールが空いてます」と言われて。(ラランドの)サーヤのボケのテンポがいいと知っていたことから、その場で企画を思いついて、とりあえず1回やってみたんです。
——テレビとYouTubeでは「やってはいけないこと」の基準も違うのではないですか? たとえば、オードリーの春日俊彰さんがやっていた「ドーピングドッキリ」みたいな企画は、テレビではできないのかな、とか。
佐久間:そうですね。ただ、どっちが自由というのはあんまりなくて。たとえば、ラブホを貸し切ってサーヤがSM嬢を操る「エロくないSM女王決定戦」は、テレビだとOKなことしかやってないんですけど、YouTubeでは収益化できなかったんですよね。あ、これダメなんだ、と。それなら『ゴッドタン』の「オオギリッシュNIGHT」もYouTubeでは一生できないな、と思いました。YouTubeはエロには厳しいみたいです。
——単にテレビが厳しくてYouTubeがゆるいというわけではないんですね。
佐久間:そうだと思います。あと、回る(再生回数が多い)もの、回らないものも全然違うから面白いですよ。
——再生回数もチェックしているんですか?
佐久間:基本的にはやりたい企画を優先するけど、2回目をやれるかどうかは再生回数を指標にしてますね。
——登録者数が増えてきたら、実験的な企画もやってみたいと仰っていたようですが。
佐久間:そうですね、僕はけっこう石橋を叩いて渡るほうなので、最初はしっかり面白いだろうと思うものを作りつつ、自分しか面白くないだろうなと思うものとか、自分の個人的な興味でやっているものとかを徐々に増やしていきたいんですよね。実験的というよりは個人的なものを出していきたいという感じです。
——現在のチャンネル登録者数は26.4万人(12月28日現在)ですが、まだその段階ではないですか?
佐久間:いまは段階的に、個人的なことを共鳴する人と一緒にやっていたりします。たとえば、森三中の黒沢(かずこ)と僕がラジオの話をするとか、東野(幸治)さんとエンタメの話をするとか。あれは僕だけでもしゃべれるけど、僕と同じくらいかそれ以上に熱がある人と話したほうが面白いな、ということでやってるんです。
でも、あれは僕じゃなきゃできないとも思ってるんですよ。ラジオについてあのくらい黒沢と盛り上がれる人はなかなかいないから。そういうものをちょっとずつ増やしていきつつ、僕しかできないものをたまに入れていくというふうにしたいですね。
——それは、ウケないかもしれないけど個人的にやってみたい企画があるということなのか、それとも個人的にこれが好きだというものがあって、それを紹介したりしたいということですか?
佐久間:僕が好きなものや売れてほしいものについて話して、それがハネるような企画をやって、結果的にその人たちが売れたり食っていけるようになったりしたら、僕の人生が楽しいと思うんですよね。本当は「好きな小劇団ベスト3」とかやりたいんですよ。
——以前から『ゴッドタン』でもそういうことをやっていますよね。
佐久間:『ゴッドタン』はカルチャー方面でそういうフックアップがあるべき番組だと思っていて。それは別に使命感があるわけじゃなくて、好きな人が売れている世の中のほうがいいから、できればそうなってほしいなと思って仕事しているだけなんですよね。実際にみんなけっこう売れましたからね。野呂佳代とか朝日奈央とか。そういうのが嬉しいです。