空間オーディオを『ポケモンGO』的アイデアでもっと身近にーー“音のAR”をつくるスタートアップの挑戦
MDやフロッピーディスクからインスピレーションを受けた「AURA DISC」
ジェイ:アーティストのコンテンツを再生する「AURA DISC」コンテンツについて、具体的に教えてもらえますか?
Medhi:ディスクのデザインは、1990年代に日本で流行ったフィジカルなメディアからのインスピレーションを受けています。日本のミニディスクや、ゲームソフト、フロッピーディスクなどです。当時のフィジカルメディアは所有型メディアの代表と言えます。そして、コンテンツを集めたり、内容を組み替えてパーソナル化したり、友達と交換し合う要素がありました。
Bartek:AURAアプリは、コンテンツをバーチャルグッズとしてコレクションする、ゲーム要素の高い体験を提供しています。そのためAURA DISCは、「バーチャル世界でも人の所有欲や収集欲を満たせる要素」として、1990年代のフィジカルメディアのデザインを選びました。アーティストと話をすると、所有できるバーチャル音楽メディアとしてAURA DISCの考え方やデザインに興味を持って頂いています。
ジェイ:バーチャルグッズのコレクションという意味では、NFTの世界に似ていますね。
Barket:NFTの生成やコレクション、マーケットプレイスの可能性には、非常に興味があります。高額で取引されたBored Ape Yacht Club(BAYC)のNFTコレクションや派生したアートのプロジェクトは面白いですね。新しい世代は、NFTのコレクションや、カスタマイズ可能なアバターなど、メタバースで買えるグッズや、所有する体験に高い興味を示しています。NFTアートのように、ARコンテンツや「ホログラム」を限定販売することには可能性を感じます。
ジェイ:冒頭でも話に出ましたが、AppleがAirPods Proなどのイヤホンでダイナミック・ヘッドトラッキングを実装したことによって、Apple MusicやApple TV、Netflixなどで空間オーディオ対応の音楽作品や映像作品が楽しめるようになりました。これまで立体音響は、知る人ぞ知る特殊な音響技術の一つでしたが、ここにきて一般化してきています。この領域はこれからどこに向かっていると思いますか?
Bartek:世界的に空間オーディオに注目が集まっており、今後さらに一般に浸透していくでしょう。今後、より多くの企業がこの領域に参入することは間違いなく、対応する作品がさらに増えていくでしょう。今後は、オンライン接続されたあらゆるコンテンツが、空間オーディオに標準対応するでしょう。
Mehdi:空間オーディオ用の制作機材も物凄い勢いで進化していますよね。例えば3Dオーディオを手軽に収録するための高性能なアンビソニックス・マイクが人気です。プロユースな製品だけでなく、手頃な価格の製品も増えました。より多くのクリエイターが空間オーディオ制作に携われます。
ジェイ:DIYクリエイターの録音から制作までの過程が一変しますね。参入障壁も低くなりそうです。
Bartek:クリエイターツールや制作技術が安価になることに期待しています。Logic ProやREAPERなど空間オーディオ制作に対応するツールが進化しており、これはクリエイターの可能性を高めてくれます。多くのアーティストにとって、空間オーディオは新しい領域ですが、すでに若い次世代アーティストはこのフォーマットを使った音楽制作を始めています。
ジェイ:昨今、メタバースの話題が増えている中で、VRコンテンツにも改めて注目が集まっています。「音のAR(拡張現実)」をうたうAURAアプリですが、VR(仮想現実)での可能性はありますか?またVRプラットフォームの進化はどのように考えていますか?
Mehdi:VR空間は進化が早くて、常に注目しています。しかし、コンテンツが増えないことが常に課題です。また、ARアプリと比べて、VRアプリはユーザー体験の設計が難しいことも課題です。最大の難点は、VR体験の殆どは自宅や屋内に限定されることです。位置情報を活用したAR体験は、街中や屋外、会場内、移動中と、様々な場面に最適化できます。VRヘッドセットを街中で使うような人はいませんよね。現時点では、リアルな世界と連動したバーチャル体験やデジタルコンテンツの配信にはARが最適と感じています。
Bartek:メタバース制作の観点からも、空間オーディオなど音響技術が持つ可能性は大きいはずです。VRヘッドセットを持っている人は今でも多くないかもしれませんが、AirPods Proはすでに大勢が使っています。つまり、音楽なり音声なり、没入型体験を聴覚的に実現できる環境がすでに世の中には存在するのです。VRよりも先に、耳で聴く没入型体験が広がっていくと思います。
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