ディープラーニングの登場はストラテジーゲームを一変させた? 三宅陽一郎に聞く“戦略ゲームAI”進化の歴史と未来
ストラテジーゲームは、多様なリアリティを提示できる
ーー三宅さんは過去のインタビューで、「日本のゲームAIは海外に大幅に遅れをとっている」といった旨をお話しされていますが、2021年のいま、現状をどのように捉えていますか?
三宅:その当時と1つ違うことは、ディープラーニングが台頭していることです。いまゲーム企業の各社がこぞってディープラーニングに取り組んでいて、多くのリソースをつぎ込んでいます。ただ僕が昔から言っているゲームAIそのものの人材は、まだ十分ではないですね。むしろ本来なら、まず先にそっちをやるべきなのに、ディープラーニングに力を入れてしまっていて、ゲームAIをちゃんと捉えられていないところが多いなというのが正直な感想です。道具であるディープラーニングが先立ち、解決すべき問題を探しているという逆転現象が起こっている。
ーーそういった問題は、三宅さんご自身のご活動の軸にも影響を与えているのでしょうか?
三宅:もちろん、新しい技術、新しい状況に対応するために奔走していますが、自分としては、あまり軸はぶれていないと思っています。自然言語処理技術やディープラーニングなどの技術がようやく実践レベルにまで達してきたので、それを取り込んでいるという感じですね。これまでゲームAIの発展において不十分だった部分を吸収しつつ、自然言語処理技術もディープラーニングも、いずれはゲームAIの体系の中に位置づけられると思います。これらが体系化されるのに、おそらく10年くらいかかるかなと見込んでいます。
たとえばメタAIに「このキャラクターを育てておいて」と指示すると、ディープラーニングが搭載されたキャラクターが、メタAIによって複雑な行動ができるようになりますよね。これまではロボットを作るように、1個1個モジュールを組み合わせていたところを、一晩で何千回、何万回とトレーニングしたものが出来上がってきます。ただニューラルネットは、いきなり調子が悪くなって固まるかもしれないし予測がつかないから、製品として出すにはさらなる改良が必要です。これをリリースするための品質保証はどうしたらいいのか、まったく未知の領域ですからね。ディープラーニングのようなじゃじゃ馬を、ゲームAIが内包することで新しいフェーズにいくのは間違いないので、いま四苦八苦しながら取り組んでいるところです。
ーー人の力ではなく、AI的にどう抑え込めるかですね。
三宅:最初の問いに戻りますと、ディープラーニング側の人材はゲーム業界にかなり増えて、こちらはかなり強固なんです。ところが、僕がやってきたゲームAIの分野の人材は増えていません。だからこうやって本を出して広めていき、興味をもってくれる人が増えたらうれしいです。そしてディープラーニングと自然言語処理とゲームAIの3つにおいて、ある程度知見がある人材が増えることを願います。
ーーリソースを含めてどう解決していくかも、この本の使命ということですね。
三宅:正直なところ、思った以上にたくさんの方に読まれていて、案外ストラテジーゲームはゲームAIの入門に向いているのではないかと思いました。ストラテジーゲームのAIはゲームデザインと密着していて、問題の一つひとつに具体性があってわかりやすいんですよ。
この本を書き終えて、自分の中でゲームAIを見る角度が少し変わったように思います。ゲームAIをアクションゲームの視点から眺めるのと、ストラテジーゲームの視点から眺めるのは見え方が全く違って、ゲームAIの多面性を感じます。アクションゲームの視点では、人間はなぜ物をつかむことができるのか、なぜ地形をうまく使いこなせるのか、のように”人間”にフォーカスします。一方でストラテジーゲームの視点では、世の中はなぜこんな動きをしているのか、なぜ争いが起こるのかと、”世界”を考える視座なんですよね。世界全体の仕組みを解き明かすようなワクワク感があり、それをAIで実現するのがストラテジーゲームです。この本の表紙も、世界の仕組みを透かして見るというあり方をうまく表現していて、すごく気に入っています。
ゲームのリアリティとは、結局キャラクターや世界そのものより、インタラクションの中にあるんですよ。自分がある行動をしたときに、何が返ってくるかを、プレイヤーはリアリティとして積み重ねていきます。ストラテジーゲームはその提示の仕方が本当に多様で、たとえば自分が市長として町を統治する場合や、指揮官として部下を統率する場合など、さまざまなインタラクションを提示できる点もまた、おもしろいところだと思います。
(メイン画像=Pexels/記事中資料=三宅陽一郎氏のSlideShareより)
■書籍情報
三宅陽一郎『戦略ゲームAI解体新書』(翔泳社)
発売:2021年10月14日
293ページ
https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798154411