連載「Behind the Tech People」第二回:高尾俊介

クリエイティブコミュニティを醸成させるためにできることーーnarumin × 高尾俊介対談

narumin:本連載で対談相手に必ず聞いているんですけど、ズバリ「高尾さんみたいなキャリアを目指す」にはどうすればいいんでしょうか。

高尾:そうですね。あまりオススメしないですけど......(笑)。まず、自分が自分らしくあるためには、世の中で価値付けされているものに惑わされず、自分の興味関心が湧くものに夢中になることでしょうか。現代社会は利便性や機能性などを追及し、皆それぞれ目的を探している時代になってきているように感じています。正解や最短距離を探しているというか。もちろんそれもすごく大事なことです。でも一方でそういった既存の価値観に惑わされず、自分の中にしかない価値や何かに夢中になっているときの楽しさなど、『自分がどう思っているか』を常に確かめながら活動を続けていくことも、キャリアや人生を考える上で大切なことだと思います。

narumin:自分を見失わないようにすることって大事ですよね。

高尾:はい。あとは人と関わることですね。一人で考えてもどうしても堂々巡りになってしまうでしょう。自分自身、4年間は独学の延長で一人でプログラミングを続けていましたが、コードを公開するようになってコミュニティの方々と関わるようになった2ヶ月間の方が成長できたと実感しています。自分の感情や気持ちをコードに込めることで情緒的表現ができるようになったり、さまざまな手法で自分らしいと思えるようなアウトプットできるようにがなりました。

narumin:自分の中で成長を模索するより、フィードバックもらった方が学習スピードは速いですし、Twitter上で「いいね」の多い少ないではなく、非言語的なフィードバックも成長の糧になりますよね。

高尾:最近では完成したものではなく、制作途中のものや過程をTwitterに投稿するようにしています。リアクションから意見をきいたり、方向性を変えたりする際の参考にしていますね。これからの時代は一人で作るのではなく、コミュニティに属して人と関わりながら作っていくと、自分にはないクリエイションの視点を取り入れることができ、よりいいものができるのではないでしょうか。作品をコミュニティ内でシェアし、共創しながら作品づくりを進めていくことは自分自身の成長にも繋がっていくと思います。

narumin:ありがとうございます。今後のことをお聞きしたくて、ProcessingやGenerativemasksのコミュニティに還元していくために、どのような取り組みや活動を考えていますか?

高尾:海外と比べて日本のクリエイターはものすごく技術的に高いものを持っていたり、ユニークな視点でものづくりをしていると作り手として感じています。ただ一方で言語や地理的な問題によって、作ったものの発信だったり伝わり方の部分で世界のマーケットと繋がれていないのが、自分のなかで問題意識として持っているんです。プロジェクトで得た寄付金をいくつかの団体に寄付したいと思っていますが、一過性の寄付では意味がなく、より良い日本のクリエイティブコミュニティを作っていくために、継続的な助成や支援を行えるような組織を作ろうと考えています。

narumin:高尾さんが仰っているような問題は、TDSWも抱えています。コミュニティや教育の普及という文脈でやっていくと、やはり海外と繋ぐために運営資金を使うのは優先順位が下がってしまうんです。海外の有識者が有益な知見を共有しても、翻訳家が専門性や職能を理解していないと、日本語へ訳す際に意味の掛け違いが発生してしまって……。非常に難題だと感じています。ジェネラティブアート界隈では、クリエイターのほかに翻訳業やグローバルとの架け橋になるような役目を担う職業も生まれてくるんですかね?

高尾:そうですね。クリエイティブコミュニティの抱えている共通の課題として、プレイヤーしかコミュニティに関わっていないことが挙げられます。研究者や翻訳者、キュレーターなど、スキルや知識に依らないさまざまなバックボーンを持った人がその人なりのやり方で関われるような空気感を作り、コミュニティを活性化させるような仕組みとエネルギーが必要なんだと思っています。

narumin:おっしゃるように、ある種趣味で終わってしまうような側面が大多数を占めるビジュアルプログラミング界隈において、もっと社会と接続することによりクリエイターエコノミーを醸成し、クリエイターの方々が幸せになるようにしていきたいですよね。最後に何か読者の方へ伝えたいことなどありますか?

高尾:グローバルと繋がれるのは大事な一方で、ローカルでやれることを見出すことも大切だと考えています。僕らがプログラムを使って自分を表現していくなかで、その根底にあるのはローカルの歴史や文化だったり自分自身が経験してきたことだったりするので、自分の住んでいる場所やそこで出会う仲間を大切にすることで、取り組んでいる活動の魅力を今以上に引き出せるのかもしれないと感じています。せっかく注目をされている状況なので、今住んでいる神戸で今後は何かしら活動できればいいなと。まずは小さいところから始め、だんだんと大きくしていきたいですね。

narumin:コミュニティとしての選択肢を広げるのに海外と繋がることは重要でありつつも、クリエイションは自己表現に根付いているがゆえ、自分の土着の場所や価値観を成熟させていくのが求められるんだなと高尾さんの話を聞いて思いました。

高尾:コンピューターで何か作るというのは、結局コンピューターの中にある技術を用いて作るので、そこだけで考えてしまうと、どこか似たり寄ったりなものができてしまいがちですよね。自分のバックグラウンドや経験、ローカルの文化などを織り交ぜていくことでオリジナリティを見出せるんじゃないかと、自分自身が作品づくりをしていくなかで感じています。今回のNFTアートのプロジェクトもさまざまな巡り合わせの結果として、自分の作品や活動が脚光を浴びたと思っています。他方で、「役に立つことや最初からゴールを目指さない」ような表現のためのプログラミングならではの魅力が発見されたことは、自分にとっては作品が評価される以上にエキサイティングに感じていて、もっといろんな人が関わってもらいたいと思っています。

 

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