UQiYO&滑川高広が語り合う、アーティスト・エンジニアそれぞれの「空間オーディオ」論

空間オーディオの“合格点”とは?

――色んな環境で確認してそれぞれの聴こえ方みたいなのも意識されたかなと思うんですが、どういう部分をチェックすると空間オーディオとして合格点を出せるのでしょう。

滑川:現状の環境だと、MIXしてADMファイルに書き出したものをなかなかチェックできないんですよ。

Yuqi:結構難しいですよね。

滑川:チェックができないということで、2chよりも精度が落ちて聴こえると話してるエンジニアもいますので、できれば早くその環境が整ってほしいですね。どうしてもスタジオのスピーカーで聴く感じよりはタイトにはなってしまうと思うので、つくる側としては多少やりすぎくらいが丁度いいのかもしれません。

Yuqi:リリース前に自分で確認する手法って現状ないですよね。Dolby Atmosレンダラーに送って聴いてみる、というくらいですか?

滑川:僕が把握してる程度ですが、おそらく現状で一番リリースされてるものに近い形で聴けるのは、Dolby AtmosレンダラーでADMファイルをMP4に変換して、映像ファイルとしてiTunesに入れて空間オーディオで聴く、という形が一番近いのかもしれません。Dolby Atmosのホームページで、MP4のファイルが配布されてたりするので、MP4で確認するのが一番近いのかなというイメージです。Yuqiさんとは一緒にバイノーラルに変換したものとかもチェックしてみたんですが、結構バランスが変わっちゃったんですよね。

Yuqi:なんか変なところが大きくなっちゃってたんですよね。そういう意味でも制作の場所で最終チェックができる環境は早めにほしいです。

――それがないとつくり手側が満足したものを出せなくなってしまいますからね。

Yuqi:僕が勝手に期待しているのは、Appleが開発している「Logic Pro」が空間オーディオにフルに対応することです。そうすると、色んなつくり手が一気に空間オーディオに適応していく気がする。

――そうすれば、みんなのキャンパスが一気に広がることになりそうですね。お二人は空間オーディオでの音楽制作においては先駆者となるわけですが、自分たちが一歩リードした状態から何を広めて何を伝えていきたいですか。

滑川:僕は、安易に音を広げないでほしいと思っています。5.1chが普及し始めたときから現在に至るまでもそうだったんですが、慣れてない人が安易に広げると、ただリバーブをこぼしただけになってしまうので、そうではなく、思い切って大胆なことにトライしてほしいです。実際スタジオでアシスタントについてくれる方には、そのようにアドバイスしています。せっかくこんなに面白いコンテンツなので、もっと冒険した作品をみなさんには目指してほしいです。

――冒頭からの話と全部繋がってくると思うんですが、テクノロジーによっていろんなアートフォームが進化していく半面、それが普及していけばいくほど、テクノロジーをハックするような仕組みもできてしまう、という。だからこそテクノロジーが進化していくので、ある意味イタチごっこだと思うんですけど。オーディオ機器も、ハイレゾも、ラウドネスメーターもそうでしょうし。

Yuqi:今回、ラウドネスメーターも苦労しましたね。Apple Musicの空間オーディオに対応した形でデータを出すとなったとき、僕ら側がMIXする前夜くらいにApple側から「-18LUFSを越えちゃダメ」と正式に発表があって。Spotifyなどは-14、-13あたりなんですが遵守ではなくて、それより上なら勝手に下げられるだけなんです。でも、Appleは「越えちゃったら提出できません」という形だったので、かなり急な対応を強いられました。

滑川:トゥルーピークも-1.0db以下にしなきゃいけないという条件もあって、それを全てクリアしていくのが難しかったです。

――最後に、今後の空間オーディオに期待することなどあれば教えてください。

滑川:知人に中国のゲーム音楽をつくっている方がいるのですが、今回Dolby AtmosのMIXをさせていただいてから、中国はどうなんですか? と聞いてみたんですよ。そうすると、 Dolby Atmosに関する技術はすごく発展していて、機器を製造している会社もたくさんあるんですが、音楽に特化した領域はまだまだ未開拓だということで。テンセントがゲーム内のBGMを空間オーディオで聴けるようにする、といった挑戦をするようになると、一気に世界規模で変わっていきそうな気がしています。

Yuqi:ゲームでその分野が発展していく未来はありそうですね。実際に『フォートナイト』などではゲーム内でライブを行なっていたりするわけですから。あと、空間オーディオはVRやARとの相性もいいと思うので、バイノーラルとともに、空間オーディオに対応したVR・ARコンテンツやデバイスが当たり前になっていくことも楽しみにしたいですね。

(写真提供=XylomaniaStudio LLC)

■リリース情報
『東源京』
2021年10月8日(金)配信・サブスクリリース

TRACK LIST :
1. ソンバー
2. 春夏秋(冬
3. 蘇州夜曲
4. 阿夫利歌
5. 西ヘ沈ム
6. アヲイノカラス
7. ハジマリ

■関連リンク
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