ソラの参戦が『スマブラSP』を変えること、「スマブラ」において変わらないこと

 Sora is Finally Here !

 『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』最後のダウンロードコンテンツとして、「キングダムハーツ」シリーズからソラの参戦が、ついに決定した。世界中のプレイヤーが参戦を望みながらも、版権の問題からディズニーキャラであるソラが選ばれることはきわめて難しいと思われていただけに、この「未曾有」のニュースは多くのゲーマーを賑わせている。

 ここではソラの『スマブラ』におけるギミックを簡単に振り返るとともに、それが『スマブラ』というゲームを、そしてそのプレイ環境をどのように変えていくのかについて、いちファンとしての素朴な期待も交えながら、予想(想像)していこうと思う。

ソラの参戦とゲームルールへの影響

 ソラの参戦はそれだけで驚くべき事実だが、それ以上にこれまでのダウンロードコンテンツとしての追加キャラと比べても大きな違いがある。それは、「対戦ルールにまで影響を与えうる」ということだ。

 ソラの参戦が発表された特別番組「最後のスペシャル番組」では、ソラが「体力制乱闘」で勝利した際には、彼だけの特別な演出がなされると明かされた。体力制乱闘というのは、いわゆる一般的な対戦格闘ゲームのように、相手のHPを削り切るまで攻撃したら勝利となるルールのことだ。これまでの「スマブラ」の基本ルールではHPに関わらず相手を場外にふっとばすことが勝利条件とされていて、「体力制乱闘」はあくまでもあえて「格ゲーっぽく」遊べるようにシリーズの途中から追加されたオマケのようなものだった(※1)。

【スマブラSP】ソラのつかいかた

 現在でも大多数のプレイヤーは体力制ではなく基本ルールを採用しているが、ソラの参戦によって体力制を選ぶインセンティブが高まった結果、オンラインの対戦環境などでは体力制乱闘の採用率が高まるかもしれない。

 それに加えて同じく注目を浴びたのが、「最後の切り札」の演出だ。最後の切り札とは、乱闘中に特定のアイテム(「スマッシュボール」)を取得するか、一定数ダメージを与えたり受けたりかすると使えるようになる必殺技のようなものである(※2)。この技を使用すると各キャラクターごとにちょっとしたショートムービーが流されるのだが、「最後のスペシャル番組」でソラの「最後の切り札」が紹介された際、「なぜか」その映像は部分的にカットされていた。そればかりかディレクターの桜井政博は「(全貌は)自らの目でご確認を」と意味深な発言まで残している。なぜそんなことになっているのかは多くのプレイヤーの間で噂になっているが、ここであえて明言することは避けておこう。

 いずれにしろ、いま言いたいのは、「体力制乱闘」と同様に「最後の切り札」の採用率も高まるかもしれないということだ。そしてこれも、従来の「基本ルール」からはやや逸脱したものである。というのは、乱闘中に出現する(「スマッシュボール」を含む)アイテムの出現場所や出現率は極めてランダム性が高いうえに、そもそも「切り札」の性能がキャラクターによって著しく異なることから、公平な勝負の場では避けられる傾向にあるからだ。そのためオンラインの対戦環境に親しんでいるプレイヤーや競技シーンにいるプレイヤーは、基本的に「最後の切り札」が使用可能なルールは採用せず、採用するにしても本作を「パーティゲーム」としてカジュアルにプレイするときにほぼ限られている。

 ……のだが、ソラの参戦によって「体力制」や「最後の切り札」の採用率は(少なくともオンライン対戦環境でなら)高まるのではないか、というのがいま筆者がお伝えしていることだ。

対戦ルールとキャラバランスに対する桜井政博の思想

 上述したようなルール以外にも、「スマブラ」の遊び方は多岐にわたるが、それゆえにディレクターの桜井はかつて、対戦環境においてルールが一元化することに対して難色を示していたことがあった。

「”終点、アイテムなし”というルール(筆者注:上位プレイヤーが「公平な戦い」を実現するためによく採用するレギュレーション)は、ぜんぜん”ガチ”ではないです。地形やアイテムをすべて駆使し、あらゆる要素を味方につけて勝てる人が、もっとも『スマブラ』が上手いと言えるのは間違いありません。何もなしで遊ぶのは、ごく一部の側面で遊んでいるようなものなので」(『桜井政博のゲームを作って思うこと』エンターブレイン/2012年/P30)

 もっともこれは『スマブラX』(Wii、2008年)において初めてオンライン対戦が実装された際の言及であり、eスポーツが国内でも着実に発展してきた現在においては、これほどあからさまに「ガチ」の対戦環境に対してネガティブな感触を抱いてはいないかもしれない。

 しかし、競技的なルール「以外」の方法でももっと本作を遊んでほしいと考えているのは、今でも変わっていないはずだ。そうでなければ、それぞれギミックの異なるステージを116個も作ったり、あらゆるゲームシリーズのキャラクターについて記載された「スピリット」を1,496も用意したりはしないはずである。

 実際、公式が主催する大会ではeスポーツシーンでのルールとは異なり、「アイテムあり、ステージギミックあり」などパーティゲームとしての要素を強く打ち出した、ランダム性の高いルールが採用される傾向にある。

 もちろんランダム性が高くなればなるほど、プレイヤーの腕前を公平に競うルールのあり方からは大きく逸脱していくことになる。しかし、「公平な対戦環境」を整えれば整えるほど、「プレイヤーの腕前」とともに、別のある要素も際立っていく。それは「キャラクターの性能差」だ。ごく単純に考えてスピードが速いキャラクターのほうが有利なのだから、スピードが遅いキャラクターは性能が「低い」とされる。このジレンマに対してどう折り合いをつけていくのかはどの対戦ゲームにおいても課題となるだろうが、あくまでも「ゆかいなパーティゲーム」だと桜井自身によって断言される「スマブラ」においては、むしろその「性能」の差を「個性」としてポジティブにとらえる必要があるだろう。

「個性のひとつやふたつもなければ、攻略らしい攻略が生まれません。公平性を完全に保てるのは、いわゆる同キャラ対戦のみ。同じことができるからナットクする、というあまり前向きでない駆け引きになってしまいます」(桜井前掲書/P173)

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