連載:mplusplus・藤本実「光の演出論」(第一回)
オンラインライブは「ある種一巡しちゃった」 東京パラ開会式・光の演出で注目されたmplusplusが直面した“現実”
「春になれば」「オリンピックが終われば」がどんどん先延ばしに
――コロナ禍で色んなアーティストや会社が様々なアウトプットを行なっていますが、オンラインライブについては、藤本さんが先ほどお話しされたように、演出面でのピークを一度迎えたようなムードが漂っています。
藤本:オンラインライブの新しい表現としての希少性がなくなり、かけたお金がそのまま返ってくるわけではないと実感したことなど、ある種“一巡しちゃった”感が強いんだと思います。また、2020年末から徐々に会場でのライブを復活させる方向にシフトしていたものの、緊急事態宣言の度重なる再発令で、基本はオフラインでの開催だけどギリギリにオンラインへ切り替える公演が多くなってきたことなど、社会的な背景による影響も少なくない気はしています。実際、開催日の4ヶ月前に依頼いただいて準備を進めていても、2ヶ月前には中止になる、という公演をいくつも見てきましたから。結果、観客数が1000人を切るような、制限が少なく中止のリスクもそこまでないイベントの仕事が多くなりました。エンタメの演出を専門としてオリジナリティを出してきただけに、大きなイベントの仕事がなくなったことは、経営的には大きな損失になっています。
――「コロナ禍が開けるまでは」から「オリンピックが中止になってからは」「オリンピックが終わるまでは」と、大きなライブを開催するタイミングがどんどん見極めづらくなっていますし、延期を重ねることによる損失にも耐えられなくなっているところもあるように見えます。
藤本:まさに自分たちもそうでした。昨年発表したデバイスや技術を使って「春になれば」「オリンピックが終われば」「秋になれば」大きなパフォーマンスができる、と思っていたらどんどん先延ばしになっていって。もう来年もどうなるかわからないな、と思い始めています。エンタメ業界としても自分たちとしても、社会的・経済的に先行きが見えづらいのは、本当に耐えられるのかどうか不安ですね。だからこそ、より海外へと目が向いてしまいます。
――日本国内の状況に左右されないような活動をするため、なんですね。
藤本:はい。オリンピックをめぐる動き以外にも、コロナ禍でのアートやエンタメをめぐる動きを見ているなかで、日本だけでやっていくのは本当に厳しいと感じるようになりました。自分たちのやりたい表現をしつつ会社を続けるためには、ちゃんと世界に打って出なければいけない。ダンスチームによる海外オーディションなどもその一つですし、開発面でも世界のテクノロジー関連の催しへ次々と出展が決定しています。同時に自分の個展を開催することも決めました。そもそも、今の会社を作ったのは『Ars Electronica』※(世界的なメディアアートイベント)で作品を発表して世界中からオファーがきたことに起因しているんです。自分の原点はメディアアートなのですが、会社を立ち上げてから個人として作品が発表できていなかったことにふと気がついて。世界の人に認識してもらうためにも、改めて原点に立ち返って作品をどんどん作って行く必要性を感じています。
どうしてこんなことを考えているかというと、次へのステップという観点もあるのですが、「一年経っても大規模なライブが開催されなかった」というのが自分のなかであまりにも大きかったからなんです。本当はずっと、日本でパフォーマンスができる日を待ってはいたのですが、未だ来ていない。2020年は世界中が同じ状況下にあるからこそ、自分たちの幅を広げたり、開発に投資する期間だと割り切って過ごしていましたが、先日の東京オリンピック閉会式でフランス・パリの様子が映し出されて多くの人が騒然となったように、世界が同じ状況下ではなくなってきているし、日本の状況はコロナのせいだけではないなということが、露呈してしまったような気がしています。色んな意味で日本が元気になるのを待っているだけでは道は開けないと思ったので、あらゆる方向で世界へアプローチすることに注力していきたいと思っています。
――会社設立の経緯を考えると、それが結果的に国内のプロップスをあげることにも繋がってきますからね。
藤本:結局、そうなんですよね。海外に認められたことによって日本からの仕事が増えたというのは間違いないので。
ーー今回から始まる連載「光の演出論」では、読者の方々に藤本さんやmplusplusの活動、これまで開発してきたデバイス・演出、世界を目指していく過程などのナレッジを共有することで、エンタメやテクノロジーを楽しむ新たな視点を提供していこうと思っています。
藤本:これまでに研究してきたことに関しても、まとめて世の中に出していないものもありますし、発表を控えている技術に関しても語りたいことはたくさんあります。連載を通してそれが一つでも誰かに伝わって、研究・開発を志す同志が一人でも多くなればいいなと思っています。