ワリオはマリオよりも先をいく存在だった? 『おすそわける メイド イン ワリオ』にチラつく『ワリオランド』シリーズの面影と先見性

イレギュラーな特徴はスタンダードとなり、ついにはマリオにもその波が

 最も象徴的なのは残機(残り人数)制。敵に接触するなりしてミスすると1つ減って、全部無くなってしまうとゲームオーバーになるという、横スクロールアクション、シューティングなどで定番のシステムだ。

 『ワリオランド』は初期の作品では導入していたものの、『ワリオランド2 盗まれた財宝』にて撤廃。前述の「不死身システム」を導入し、プレイヤーキャラクターが絶対にやられないようにするどころか、ゲームオーバーの概念まで消し去った。この「不死身システム」は『ワリオランドアドバス ヨーキのお宝』からは撤廃され、ダメージ形式に改められるのだが、残機制は以降も復活することはなく、基本的には何度でもやられても繰り返し再挑戦可能な作りにしている。

 当時は異端だったこのシステム。ところがいまやどうだろう。多くのアクションゲームは残機制を採用しないようになり、採用する方が異端という真逆の立ち位置に追いやられてしまった。

 ワリオがライバルとするマリオも、2017年発売の『スーパーマリオ オデッセイ』にて残機制を廃止。ミスすると、集めたコインが減ってしまうシステムに改められた。

 元々、マリオシリーズは残機制の形骸化が指摘されていた。その背景は幅広いプレイヤーを対象にしたゲームデザインの厳守に起因するもので、近年のシリーズでは比較的早い段階で残機の数が3桁に到達してしまうほどだった。ここまで軟化させては、もはや何のための存在か怪しくなってくる。その末に辿り着いたのが『スーパーマリオ オデッセイ』での廃止である。

 結局、イレギュラーなワリオのやり方をマリオが受け入れる形になった訳だ。

 この現在のアクションゲームのトレンド、マリオの現状を見ると、改めて『ワリオランド』シリーズの先見性を認識させられる。残機制の廃止だけではない。濃厚な探索要素の採用、シュールな世界観、視点操作を最小限に留めて酔いの懸念を取り除いたカメラワーク、フルアニメーションによるグラフィック表現、ボーカル楽曲の導入など、シリーズでは多くのイレギュラーな挑戦を行っている。そして、その多くが後年のアクションゲームで定番化したり、マリオにおいては逆輸入される事態を起こしている。

 とりわけ『スーパーマリオ オデッセイ』は、残機制以外にもワリオが先行していた要素が見受けられる。シュールな世界観、ボーカル楽曲の採用がそれだ。また、2004年発売の『ワリオワールド』は、横スクロールアクションゲーム感覚で遊べる3Dアクションという意欲的な作品で、いわゆる乗り物酔いに近い不快感を催す「3D酔い」の心配もなく遊べる快適さが光る作品だった。

 この横スクロールアクションの感覚で遊べる3Dアクションも、マリオは『スーパーマリオ3Dランド』、『スーパーマリオ3Dワールド』の2作でワリオに遅れる形で挑んでいる。ゲームデザインこそ真逆の作品ではあるものの、何年も前にワリオがやったことにマリオが追い付く構図には、かつて2人が『スーパーマリオランド2』や『マリオとワリオ』で敵対した関係を思うと面白いものがある。

 裏を返せば、当時としては先取りしすぎていたため、マリオほど広く人気を獲得できなかったのがワリオらしくもあるが。また、ニンテンドーDSの『怪盗ワリオ・ザ・セブン』のボタン+タッチペンによる操作スタイルのように、後年に活かされることもなければ、評価も低調に終わった挑戦もある。

 しかし、年月が経つにつれ、実はワリオはマリオに勝ることをやっていた、現代のアクションゲームの枠組みを先取りしていたと分かってくるのは非常に面白く、アクションゲームの歴史における資料的な価値の高さというものを実感させられる。

 たしかに当時は異端、ワリオ本人も元は悪役だけあって、やることなすこと全てがイレギュラーだったし、マリオに反目し続けていた。それがいまやスタンダードになるどころか、マリオにも取り入れられるようになっている。その事実を思うと、本当に『ワリオランド』シリーズが残した功績は大きく、いまこそ再評価される意義のあるゲームではないのかと思うのである。

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