Apple「フォートナイト公判」地裁判決の意義とは? 〈フォートナイトの乱〉勃発からの1年を振り返る

Appleは譲歩(したように見せた)

 〈フォートナイトの乱〉の勃発から約1年が経過した2021年8月26日、AppleはApp Store運営をめぐって小規模アプリ開発業者が(フォートナイトの乱とは別に)起こした集団訴訟を解決する譲歩案を発表した。同案は7項目から成り、その内容を要約すると以下の様になる。

・年間収益が100万ドル(約1億1,000万円)以内のアプリ開発業者に対して、プラットフォーム使用料を通常の30%から15%に割引する「App Store Small Business Program」を今後3年間継続する。

・App Storeにおけるアプリ検索結果表示に関して、現行のダウンロード数等の客観的な指標にもとづく手法を今後3年間維持する。

・App Store外の支払い方法に関して、アプリ開発業者がメールなどのコミュニケーションを使ってiOSアプリケーション以外の支払い方法に関する情報を共有できることを確約する。また、App Store外での支払いに関しては、プラットフォーム使用料を徴収しない。

・アプリ開発業者が定めるアプリ内課金やサブスク価格等に関して、利用可能なプライスポイントをこれまでの100未満から500以上へと拡大する。

・App Store運営に関して、不服のあるアプリ開発業者は従来通り不服申し立てできる。

・Appleは、今後App Store運営に関する透明性レポートを毎年作成し発表する。

・コロナ禍で苦しんでいるアメリカの小規模アプリ開発業者を支援する基金の設立。アメリカにおけるiOSアプリ開発業者の99%が支援対象に該当する。基金の詳細は後日発表。

確かな前進? それとも...…

 以上のApple譲歩案を報じたワシントンポスト紙の8月26日付の記事によると、アメリカ上院で反トラスト小委員会の委員長を務めるAmy Klobuchar民主党議員は、Apple譲歩案に関してアプリストア運営をめぐる懸念を払拭する「良い第一歩」と評価しながらも、さらなる努力が必要とコメントした。

 また、前述の集団訴訟において代理人となったHagens Berman法律事務所は、「2人の開発者が提起した、数万人のアメリカのiOS開発者の立場に立つ訴訟が、非常に重要な変化をもたらすのに役立ったことを本当に誇りに思っています」というコメントを公表した。

 一方でブルームバーグの28日付の記事は、Apple譲歩案は自由競争実現の証しとなるApp Store外決済へのリンクをアプリに実装することを容認していない、と問題視している。同メディアが指摘する問題を明確するには、Apple譲歩案の文言を吟味しなければならない。譲歩案は、以下のように述べている。

「デベロッパがさらに柔軟にお客様に到達できるようにするため、Appleは、デベロッパがメールなどのコミュニケーションを使ってiOSアプリケーション以外の支払い方法に関する情報を共有できることも明確にしています。これまでどおり、アプリケーションやApp Store以外で行われた購入については、デベロッパがAppleに手数料を支払うことはありません。ユーザーはコミュニケーションを受け取ることに同意する必要があり、これに同意しない権利を有します」

 以上で言われているのは、メールなどでApp Store外の決済方法を伝えられるのみであり、(Epicが行ったように)アプリ内に独自決済システムを実装することを認めていない。

 実のところ、以上のApple譲歩案は現状を追認しているだけである。引用した文言で言われている内容は、例えば動画サブスクアプリのひとつであるAmazon Prime Videoですでに実行されている。同アプリは月額料金で視聴できる動画のほかに、都度課金することで視聴可能となる有料動画もラインナップされている。有料動画を視聴する場合、ウェブブラウザに遷移してAmazonのウェブページで決済してから、再度アプリに戻ることになる。こうした迂回は、プラットフォーム使用料を回避するために必要なのだ。この迂回に関して、Appleは引き続き認めると言っているに過ぎない。

 Appleニュース専門メディア『appleinsider』が27日に公開した記事は、アプリ販売における自由競争の実現を目的として設立された企業団体「アプリ公平性のための連合」のApple譲歩案に対する反応を報じている。Epicも所属する同団体も、同案が現状を追認するだけのみせかけのものと非難している。

 以上のようにApple譲歩案を精査すると、小規模アプリ開発業者救済基金の設立と透明性レポートの作成以外は、おおむね現状を追認しているだけということがわかる。

世界的に広がるGAFA規制の波

 ところで、Appleはなぜアプリ開発業者への歩み寄りを印象づけるような声明を発表したのだろうか。その理由を考えるうえで重要のが、世界的に広がるGAFA規制の波である。

 例えばNHKが6月12日に報じたところによると、アメリカ議会下院の超党派の議員はGAFAに代表される巨大テック系企業が自由競争を阻害しているとして、これらの企業への規制を強化する法案を提出した。

 海外テック業界事情に詳しい小久保重信氏は5月12日、Yahoo!ニュースに「英・EU・米、GAFA念頭にあの手この手の規制策 巨額罰金や企業分割も」と題した記事を公開した。この記事では、GAFA規制の動きがアメリカだけではなくイギリスやEUでも起こっていることを解説している。

 極めつきはAP通信が9月1日に報じた韓国の動向だ。同国の国会は8月31日、AppleやGoogleをはじめとするアプリストアのプラットフォーマーに対して、アプリ内決済システムの使用を強制することを禁止する法案を承認したのだ。この法案が正式に施行されれば、アプリ開発業者は韓国に限り独自決済システムを実装できるようになるかも知れない。

 Apple譲歩案は、アプリ開発業者への歩み寄りを印象づけることで同社への法的締めつけを緩めようとする意図があると推測される。

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